七
火事の原因は発表されなかった。調査を行った首都の役人もデウセルフ教団も黙ったままなので、噂が一人歩きを始めた。教会内に入った者が見たところだと、火元は地階の調理場じゃなく、二階会議室だった。おれも掃除をし、印を付けた感じからするとそう思った。だが、二階会議室は暖炉以外火の気はないし、この季節はふさがれていた。
そして、妙なことに、二階で燃え始めた火は〝すぐに〟一階に落ちたようだった。火がついてしばらくして床を焼き抜いたんじゃない。それから改めて一階から燃え広がり、消火された。
ディーミディはなにも言わなかったので、おれもアウローラも聞かなかった。
おれたちは次の日を旅の準備に当てた。手分けして首都東方の情報を集め、防具や短剣、道具や小物の修理依頼、買い換えをした。それと……。
「服。ルシエス、さすがにそれは換えよう。継ぎのほうが多いじゃない」
「まだ着られるよ」
「ルシエスが良くても、その格好だと相手に失礼になるから」 アウローラははっきり言った。これまでも思うところがあったんだろう。
「あたしもそう思う。この機会に新しくしな」
二人から言われ、やむなく古着屋で買い換えた。前の服の引き取り価格はほとんどただ同然だった。もう布地としての価値すらなく、雑巾にするしかないとまで言われた。
「おや、さっぱりしましたな」 宿の主人が誉めてくれた。
「……それと、路銀だな。不足気味だ」
夕食後、荷物を整理し、今後の計画を立て、地図に印を付けていると、ディーミディがそう言った。
「この調子ならあと二巡月分はある。節約したらもっとだ」 おれは足りてると返した。
「いや、一巡月分は備えとして取っときたい。だから自由に使えるのは一巡月分。そろそろ稼ぐことを考えなきゃ」
おれは渋い顔をした。そういう時間の無駄はなるべく避けたい。けど、路銀がなくて動きが取れなくなっては意味がない。
「移動がそのまま稼ぎになるような、通信使みたいな仕事ないかな」
「あのな、通信預けられるほどの信用があるのか、あたしらに」 ディーミディがあきれた顔をした。
おれはアウストローリエン領のエフェミナ様の教会でやった仕事を思い出した。なんの技能も信用もなければ、ああいうことをしたらいいだろうと言った。
「そうだな。それだったらすぐ決まるし、貯まったらさっさとやめられる。旅人向きだ」
「ならここで働こう。いま主人に話してみる。二人は明日それぞれの教会に行くといい」 すぐに部屋を出た。こういうことは早いほうがいい。
「ああ、いや、手は間に合ってる。困ってるのかい?」
帳簿を付けている主人を見つけ、早速話したが断られた。宿賃は前払いしてるのでそこに不審はないようだったが、貧乏な旅人をいつまでも泊めてはくれないだろう。
「そうでもないけど、これからの旅を考えるとここで余裕作っときたい」
主人はじっとおれの顔を見、カウンターの向こうで考えた。
「あんた、本屋の場所聞いたよな。情報集めるからって」
うなずいた。
「自分が情報出す側にまわるって、考えたことないか」
それを聞いたおれの表情がよほど面白かったんだろう。主人は吹き出した。
「なんて顔だ。そんなに意外でもないだろ? 情報集めに他人の旅行記借りてたじゃないか。あんたの旅も他人からすりゃ情報源だぜ」
「でも、どうやって?」
「どうやってって、旅の記録付けてるだろ? 金の出入りとか。そいつを持ち込んだら本に仕立ててくれるさ。簡単なもんだ」
簡単、か。簡単にも程度がある。おれにはできない。なにをどうするのかすらわからない。
「とにかく行ってみな。実は義兄が働いてるんだ。それで、面白そうな旅人がいたら紹介してくれって言われててな。あんた充分に興味深い。神様探しの旅してて、連れは半エルフにグレシャ教団の準神官。そこらの商人とは大違いだ」
おれはなかなか返事できなかったが、紹介してくれるというのを断る理由もない。頼むことにした。
「よし。紹介状書くよ。明日朝一番に来な」
礼を言って部屋に戻り、二人に話すとおれが驚いた以上に驚かれた。
「まあ、行く分にはいいだろうが……。出版ねえ……。ルシエス、あんたにゃ驚かされっぱなしだな」
「わたしも驚いた。それにしても人の縁とは不思議なものですね」




