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信心するなら強いのがいいから、最強の神を探し求めるおれの話をちょっと読んでけ  作者: naro_naro
第九章 帝国首都――おれと神、そして旅

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 アウローラはグレシャ様の教会に行くと言うので、おれも一緒に行くことにした。ここの神官に全知全能の矛盾について聞くつもりだった。

「ディーミディはどうする? 一緒に行こう」

「いや、あたしゃデウセルフ様のとこに行く。情報交換もしたいし」

 そっか。エルフ同士の話もあるのか。おれたちは宿の前で分かれた。


 教会の場所は宿の主人に聞いていた。今夜も泊まることにして前払いしたので機嫌良くなり、主人の名前を出すと安く食べられるところも教えてくれた。


「ねえ、ディーミディってなんであんな言葉遣いなのかな」

 角を曲がるとそう聞いてきた。

「さあ、気にならないけどな」

「わたしはなる。だって七十五歳なんだから、あんな粗っぽい言い方しなくたっていいじゃない」

 おれはちょっと考えた。

「でも、歳を意識させるような話し方されたら、おれなんかたまらないな」

「ああ、それかもね。そういえばわたし、年寄り向けの態度じゃないな。ディーミディには」

「年長者として期待されることから逃げたいのかもよ」

「そうやって考えてみると、人生って〝逃げ〟の連続なんだね」

「それ、聞いてみる?」

「ううん、自分で考える」


 グレシャ様の教会は立派な造りだった。年月を感じさせるが古ぼけてはいない。石組みも木材もきちんと手が入っていた。建築様式はドゥミナウス領のと変わらず、そこは懐かしかった。

 神官たちはおれたちを丁重に迎えてくれた。特にアウローラは歓待された。遠くの領地からやってきた準神官に対し、神官長までわざわざ出てきてくれた。

 おれたちは自己紹介し、これまでの旅の話もした。長くなったので昼食が出された。ありがたい。

 いつものことだが、おれの旅は理解されるまで時間がかかった。探索行というより冒険と思われるのもほかと同じだった。

 また、アウローラがそのために隊商を離脱したのも神官たちを驚かせた。

「でも、無信仰の者の理解も修行ですから」

「その理解、どの程度進みましたか」 神官長が目尻のしわをさらに深くして尋ねた。

「無信仰は神をもたないことではないようだ、とわかりました。カプティンペリアーレです」

 神官長も、同席の神官たちもとまどった様子だった。アウローラの悪い癖だ。いきなりかけらを投げつける。自分の思考の道筋を他人も易々とたどれると思ってる。

 アウローラはカプティンペリアーレを神様とする仮説を述べ、すでに研究されていないか、されていれば論文を読んだり、研究者と話したりできないかと言った。堂々としたもので、遠慮などみじんもなかった。

 神官たちは顔を見合わせ、ほぼ同時に神官長のほうを見た。神官長は顎をなでた。

「カプティンペリアーレは帝国の概念ですよ」

「概念であり、形而上の領域であることは、神様であることと矛盾しません」

「帝国人であれば、エルフがデウセルフ様を信仰するように、カプティンペリアーレを信じているという仮説ですね」

「はい。わたしが考えつくような説ですから、すでに論じ尽くされているはずと思います。帝国首都ならまとめた書物や論文が読めるでしょう」

 神官長はうなずいた。しかし、返事は否定的だった。

「そういった神様に関する論考は第三域の図書館に収められています」

 アウローラの顔に落胆の色が走った。おれは思わず口をはさんだ。

「済みません、そういうことを知ってらっしゃるということは、神官長はお読みになった経験がおありですか」

「はい。しかし若い頃で記憶が薄れています。それに、その当時はそれほど重要な説とは思えなかったのでざっと目を通しただけです」

「それでも結構です。カプティンペリアーレとはなんなのですか。帝国人共通の神様なのですか」 アウローラは身を乗り出して言った。

「わたしの読んだ論文ではそう言っていたように思いますが、ほかにも説はあるようでした」

 机を越えんばかりのアウローラの勢いに、神官長のほうが押されていた。落ち着かせなきゃ。おれはわざと小さめの声でゆっくりしゃべった。

「昔から論じられていたのに、世間にあまり広まってないのなら、それほど重要とはみなされなかったんですね」

 気付いたのか、アウローラは身を引き、深く座り直した。神官長は茶を飲み、威厳を取り戻した。

「ええ、そうです。カプティンペリアーレが神様であってもそうでなくても、帝国や帝国人には影響はないので、言葉遊びのような説と思われたのでしょう」

「神様としては最も多くの信心を集めてるのに?」

「しかし、〝恩恵〟もまじないもない。帝国人の自覚のみが信仰です。空気のような、いえ、空気ほども感じられず、それほど重要性があるとは思えません」

「形而上の帝国は存在するのですね」

 神官長はアウローラの言葉を噛み締めるかのように黙り、少し間を置いて口を開いた。

「形而上の帝国の重要性は、我ら第五域の住人にはわかりませんが、中核域の上級貴族や、あるいは神王大帝なら別の答えになるでしょう」

 アウローラは神官長の目をまっすぐ見た。

「中核域の人間は、この机を囲む人間とは違った存在なのでしょうか。カプティンペリアーレはただの形而上の概念ではなく、上級貴族や神王大帝はいわゆる〝現人神〟なんですか」

「アウローラさん。考えるのは良いことです。特に神官はいつも考えているべきです。でも、帝国の中核について、あまり仮説ばかり積み重ねるのは良くない、と、わたしの乏しい経験から忠告します」

 〝乏しい経験〟という言葉がおれの胸に響いた。じゃあ、この人もアウローラと同じことを考え、なんらかの理由で考え続けるのをやめたんだ。

 アウローラもそれを悟ったようで、小さくうなずくとその話をやめ、当たり障りのない教会経営の話に移った。周りの神官たちはその流れにほっとしたようで、経営についてあれこれと口をはさみ、会話は盛り上がった。


 盛り上がってるとこ悪いが、と思った。次はおれの番だ。こっちの質問は簡単に答えてくれるだろう。話が移り変わり、おれの旅が話題になったところで言った。


「……済みません、わたしの旅の話はしましたが、きっかけの一つである教義のおかしな点についてお伺いしたいのです。神官の皆さんはどうお考えですか。〝全知全能〟の矛盾については」


 座が静まった。

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