一
日が昇る前に旅を再開した。あまり寝られなかったが、歩くには差し障りはなかった。みんな黙って足を運んでいる。今夜はちゃんとした寝床で休む。おれはそれだけ考えるようにしていた。それだって逃げてるのかもしれない。昨夜のアウローラの問いから。
だから、首都ではカプティンペリアーレが神様なのかどうか、と、全知全能の矛盾について調べよう。そうしなきゃすっきりしない。
日が中天を超える頃、また道が混んできた。いよいよだ。帝国首都。
道が交わるところの標識は、手入れが行き届き、これまでと違いはっきり読めた。これなら初めてでもとまどわない。
「帝国首都は入り組んでて、身分で行けるとこが限られる。壁で区切られてるわけじゃないけど、大雑把に同心円状に五つの区域があって、あたしらみたいな庶民はもっとも外側の第五域と、その内側の四域あたりまで。三域なら保証してくれる貴族か豪商でもいれば入れるかもしれない。二域と中核域は絶対無理。そんなとこ。当面は第五域の一番外側の宿を取ろう」
ディーミディが前を歩きながら、振り返らずに説明した。
「行ってもいいところといけないところはすぐわかるんですか」
「わかる。ってかわからされる。ま、人の動きを見てりゃふつうに読めるよ。帝国首都ほど自分の社会的地位を思い知らされるとこはない」
「なあ、ディーミディ、あんたは大丈夫なのか。首都にゃ例の主義者どもも多いだろう」
「多い。けどエルフもドワーフも多い。あいつらだって馬鹿じゃない。下手に目だったら自滅する。帝国首都は人がいっぱいで、ありとあらゆる神の信者と主義がある。でもたくさんありすぎて一つ一つが目立たないんだ。数はなにもかもを平凡にして覆い隠す」
日が傾いてきた頃、丘を越え、帝国首都が見えた。初めての印象は色だった。石と木の色が様々に混じり合い、溶け合っている。その中と周辺に緑の木々や畑の作物の色があった。向こう側はかすんでいる。そう、空気がかすむほどのところまで建物があった。
「見た目を信じるな。第二域と中核域は目くらましのまじないが常時かかってる」
「そうか。じゃ、首都はどのくらいの大きさなんだ?」
「わからない」
「わからない?」
「防衛上、そういう計測はできない。たとえばあたしら三人で別々に首都の周囲を歩いて測ったとしたら、結果は三つ出てくるし、やり直したらまた別の結果になる」
おれとアウローラは納得してない顔をした。この世に存在してるのに測れない?
「なら、帝国首都って存在してるんですか」
アウローラが思い切ったことを聞いた。
「だからカプティンペリアーレ。首都の概念ってのが出来たのかもな」
「さっぱりわかりません」
帝国首都とは言うが、庶民の第五域の雰囲気は他の領地とそう変わるものではなかった。厳重な警備でもあるかと思ってたが、そんなのはなく、警戒の程度はほかの領地と変わりない。ディーミディが言うには、第四、第五域は本来は首都ではなく、取り囲むように人々が集まった地域が自然に発展しただけだからとのことだった。ただ、とにかく人が多いし、見える範囲はすべて建物だった。その建物も様々な様式が混ざっていて、これまでのような統一感はない。
また、建物間に隙間はなく、路地もすぐに曲がり角で見通しはきかない。ずいぶん詰め込んだ街だな、というのが最初の感想だった。
その中をあちこち歩き回り、日の最後の光が沈む前に宿を確保できた。前みたいに二部屋取れたので、おれと二人に分かれた。
宿自体はこれまでと変わらなかったが、湯が安く、ふんだんに使えるのがありがたかった。おれは自分と衣服を、日の光の下で首都を歩いても恥ずかしくないくらい清潔にした。
湯桶を片付けながら、夜の街を眺める。夜の街? ほんとに? そう思うくらい明るかった。庶民の第五域と言っていたが、明るさの点では貴族的贅沢にあふれていた。
「そのほうがかえって安くつくんですよ」 宿の主人が教えてくれた。
灯りを増やして治安を良くするほうが、警備兵を巡回させるより低廉で手間もかからない。そう割り切っていた。
翌朝、疲れはすっかり取れていた。




