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信心するなら強いのがいいから、最強の神を探し求めるおれの話をちょっと読んでけ  作者: naro_naro
第八章 脇街道――〝帝国人〟と〝神〟

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 木から飛び降りてきたディーミディはおれをにらむとアウローラに駆けより、まじないを唱えた。

 おれは布と、肉の焦げる臭いに気付き、立ってられなくなった。服の太ももと腹に焦げた大穴が空き、ひどい火傷になっていた。

 アウローラは泡を吹き、白目をむいていたが、まじないが終わる頃、生気が宿った。

「よし、後は自分で治してくれ」 そう言うとおれの傷に取りかかった。火傷の痛みがひりひり程度にやわらいだとき、アウローラも加わって治してくれた。


 闘いの高揚が静まり、周囲の森の音が戻ってきた。


 ディーミディはおれたちを順番ににらんだ。

「おまえら、決めたことを守れもしないのか。触れるだけでいいっつったのに全力で刺しに行ったり、力込めないはずなのに思いっきり灼熱の火球撃ったりしやがって」

 アウローラは目を伏せた。おれは背負い袋を拾って言った。

「すまん。でも、アウローラ相手に加減できなかった。全力で闘わなきゃって思ったんだ。孤児院で最も頼りにした人だったから」

「それにしたって……。鞘したままでも、あんな突きを急所に入れたら万が一ってことになってたかもしれん」

「いえ、いいんです」 アウローラが顔を上げた。「わたしもそう思いました。ルシエスには全力じゃなきゃって」

 ほぼ治った火傷に、孤児院を思い出させる臭い軟膏を塗ってくれた。いまはその臭さがありがたい。

 その日はそこで野宿することになった。まじないでほとんど治ったんだが、旅を続けるのはディーミディが許してくれなかった。早めに休めと言った。

 日が落ち、ちょっと大きめに火を焚いて食事をとると、またまじないをかけてもらった。焼けた肉が完全に戻っておらず、引きつるような感じが残っていたからだった。

 アウローラも動きにぎこちなさがあり、自分にもまじないをかけていた。


 みんな焚き火の橙色の顔をしている。


「わかった? カプティンペリアーレ信仰について」

 まじないが一段落ついたので話しかけた。軟膏は自分で塗った。

「ううん。でも、ルシエス、あなたはなにかを信じてる。それはわかった」

「それがカプティンペリアーレじゃ?」

 首を振った。「かもしれないけど、断言できない」

 ディーミディは枝を乗せたり、ちょっとどけて息を吹き込んだり、細かく火の世話をしている。それがきれいな熾火のこつなんだろうが、その時はしっかり観察できなかった。

 アウローラはまとめていた髪をほどき、くつろいだ様子になった。

「全力って言ってたけど、ほんとの全力は出してなかったよね。だって、わたし生きてるし」

「あ……ああ、いや、全力だよ。闘いの、試合としての全力っていう意味で。もちろん、敵を倒すっていう全力じゃあない。君こそ……」

「そう。わたしも言葉通りの意味での全力じゃない。けど、手は抜いてない」

「なら、おれとおなじ」

 アウローラは微笑んだ。おれも笑った。

 それからディーミディの方を向き、いま思いついたかのように聞いた。

「なあ、審判さん、ばたばたして聞きそびれてたけど、どっちの勝ちだ?」

「ほぼ同時だけどわずかに短剣が早かった。だから試合って言うんならルシエス。でも実戦なら相打ち。そんなとこ」

「そっか、じゃ、実質おれの負けだな。あんな条件付けてやっと闘えたのか」

「短剣にはまじないみたいなむらはないから。いつでも同じように刺し貫ける」 アウローラは油分の多い樹皮を火に放った。ぱっと明るくなり、白い顔と目を輝かせた。


「ルシエス、あなた本当に信心する神様を決めたいの?」

 質問の意味が分からなかったので首を振った。アウローラが続ける。

「だって、闘ってる最中に相手の目を見て、神様への疑いがあるかどうかなんて分かりっこないじゃない。激しく動いてるのに」

 おれも、ディーミディも黙っている。

「聞いてる? 目から読めるのは向いてる方向だけ。信仰がどうのこうのなんてのはじっくり話ししてやっとつかめるものだと思う」

「なにが言いたい?」 

「ルシエス、この旅、終わらないってわかってるでしょ」

 首を振ったが、アウローラの舌鋒はさらに鋭くなった。

「あなた、何者にもなりたくないから、旅に逃げてるんじゃない? ディーミディも。二人とも旅行者じゃなくて逃亡者にしか見えない」


 組んでいた太めの枝が崩れた。ディーミディは急いで直そうとした。


「そんなのほっといて、答えてください」


 ディーミディは顔を伏せ、それから上げた。大きな目が赤みの強い光を反射している。

「だれもがおまえみたいにすぐ、行きたい道を決められるわけじゃない」

「七十五にもなって?」

「歳は関係ない。いや、歳取るほど迷いが増える。来た道がほんとは間違ってたんじゃないかって考え出すと切りがなくなるし、こっちとかあっちとかいろんな道を確かめたくなるんだ」

「ルシエスは? どうなの?」

「おれが、逃亡者に見えるのか」

 アウローラはちょっと首を傾げ、うなずいた。なんであんなに目がきらきらしてるんだろう。森の中では見上げても星は見えないが、すぐそこにあるとも言えた。

「仮にそうだとして、逃げてちゃいけないのか? それと、逃げるのをやめるにはどうしたらいい?」

「いけないに決まってる。逃げるっていうのは追い手に人生を決められてるってこと。そんなのだめ。追い手に立ち向かって、自分の人生の行く先は自分で選ばなきゃ。そうやって〝迷信〟、つまり信心の迷いを断ち切る。で、そのためには自分を委ね、信じる神様を持つこと。できればグレシャ様だけど、あなたの信仰だから」

「だから旅してる」

「いいえ、無理な条件をつけて、あれは嫌、これはだめって言ってるだけじゃない」

「カプティンペリアーレは?」 口に出たが、深く考えたのではなかった。押されたから飛び出た。そんな感じだった。

「そう、それでもいい。恩恵もまじないも無い信仰。それこそ純粋信仰だから」 返事の後半はディーミディの方を見た。

「待てよ、それは仮説だろ? カプティンペリアーレが神様ってのは」 ディーミディはすぐ返した。

「じゃあ神様かどうかは別としても、なぜ帝国にだけカプティンペリアーレがあるんですか。領地それぞれにはそういう概念の形而上領域はない。それは領地の規模だと小さすぎて信心の力を集められないからじゃない? ディーミディ、あなた、もっとくわしいこと知ってるんじゃないですか」

 アウローラは火球や電撃を乱れ撃ちするかのように、問いかけを投げ続けた。言葉を覚えたばかりの幼児のようだった。

「もういいだろ、アウローラ。どうかしてるぞ。質問だらけじゃないか」

「知りたいから。ルシエス、もっと知りたいから」

 アウローラの目の中で燃える焚き火が揺らいだ。

 ディーミディはもう笑ってはいなかった。

 おれは火を突っつくことしか出来なかった。

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