表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信心するなら強いのがいいから、最強の神を探し求めるおれの話をちょっと読んでけ  作者: naro_naro
第八章 脇街道――〝帝国人〟と〝神〟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/53

「ほんとうにあれで良かったんですか」

 日の出前、街道に出るとエルフの男はいなかった。どっちに行ったかもわからない。明るくなってきた道には争った跡とかすかな血の跡が残ってるだけだった。

「良くはない。たしかに、傷を負った小鳥を救わないのはグレシャ様の教義に反するし、あまりに情け無い行為だな」 おれは昇ってきた朝日に目を細めながら言った。「でも、おれは昨日のディーミディに賛成だ。あいつとは連れになれない」

 ディーミディがうなずいた。「アウローラ、わかるか? あいつ、〝セルペンヴェネ蛇の毒汁でも込めときゃ良かった〟ってった。もしそうしてたら死体が転がってんのを見る羽目になってたわけだ。本気かどうかは別として、命を奪うことを軽く考えすぎてる。そばにいてほしくない」

「だったらなおのこと、誤った考えを正してあげなければ。道をそれたなら戻してあげましょう」

「君は正しい。孤児院にいた頃からその正しさや思慮の深さ、知恵を頼りにしてた。でもだめだ。おれには無限の時間はない。どこかで切らなきゃ。なにもかもすべてに関わっちゃいられない。わかってほしい」

 アウローラはうなずきはしたが、納得してない様子だった。


 おれたちは黙ったまま朝日の方角へ歩き始めた。ディーミディが前、おれとアウローラが横並びの三角形だった。そう決めたんじゃないが、いつの間にかそうなってた。

 おれは空を見上げた。天気は崩れなさそうだ。今日明日は晴れるだろう。予定通り、野宿は今晩で終わりにしたい。明日は首都周辺の人里で宿を探そう。それだけを頭に歩いていた。


 アウローラはまた考え事歩きをしている。足はきちんと障害を避け、越えていくが、まったくの無表情で、こっちの呼びかけになかなか返事しないし、食べ物飲み物を渡してもすぐに受け取らない。

「いいじゃないか。なんでも歩きながら出来るのは旅に向いてるってことだ」

 ディーミディは振り向いて気楽に言うが、おれは気になった。なにをそんなに考えてるんだろう、っていうか、アウローラの頭の中を巡ってるのは〝神について〟に決まってるんだが。

 でも、神のなにについてかまではわからない。あんなに集中した顔をされると聞くのも悪い気がする。


 日が中天をちょっと越えた頃、歩きながら昼を食べ、水を飲んだ。アウローラが水筒を返しながら言う。

「やっぱり、神様って考えるとすっきりする」

「なにを?」

「カプティンペリアーレ」

「ちゃんと話してくれ。かけらだけ投げられてもわからん」


 前でディーミディが笑い、肩が揺れたが口は閉じていた。聞き役に徹するつもりか。


「これは、そうだったらっていう仮の話として聞いて欲しいんだけど、もし、もしもよ、〝恩恵〟もまじないもない神様がいたら信仰する?」

「しない。ってか、そんな神様、存在にも気付かないだろうな」

 おれはつまずきかけた。アウローラみたいにはなれない。

「気をつけて。でも、デウセルフ様みたいに自動的に信者になるんなら、〝恩恵〟もまじないもなしでいいでしょ?」

「そりゃそうだが、信心されないなら飢えるぞ。だからデウセルフ様だって〝恩恵〟もまじないもあるじゃないか」

「信心しなくても信じてたら? 少しは信じる心を食べられるんじゃないかな」

 なにを言ってるのかまったくわからない。そう返事すると、アウローラは胸にこぼれていた麦饅頭のくずを払って続けた。

「だからカプティンペリアーレ。帝国っていう概念を集めた形而上の領域。わたしたちみたいな帝国人は、カプティンペリアーレを信じてるか、その支配下にあるってこととおなじでしょ」

 まだわからない。しかし、アウローラの言わんとしてることがじわじわとしみこんできた。

「じゃあ、帝国人はほんとは二つ信仰を持つのか」

「そう。あなたは一つ。ディーミディは三つね」


 また肩が揺れた。でも振り向かない。


「エルフとおなじにか。生まれてすぐ自動的に信者になるのか」

「ちょっと違う。たぶん、育っていく中で、帝国人としての自覚が生じたとき、信者になるんだと思う。だって、赤ん坊が帝国なんて概念を理解できるとは思えないし」

「自覚によって信者になる、か。けど、その神からしたら、祈りは捧げられないし、儀式もない。そんなんじゃ腹減るだろうに」

「でも、帝国人の数は多いから、商売に例えたら薄利多売になる。集められる信心の量からすると、もしかしたら最強の神かもしれない」

「帝国人であれば帝国を信じる、か。それが帝国の形而上の領域〝カプティンペリアーレ様〟の腹を満たしてるってるのか」 〝最強〟という言葉がおれの頭の中で巡り、がんがん鳴り響いていた。


 その音が届いたんだろうか、ディーミディが振り向いた。大きな目で、アウローラをいたずらっぽく見上げる。


「アウローラ、仮説に仮説を積み上げたけど、それ、どうやって確かめる?」

「わたしが歩きながら考えついた程度の説です。とっくに学者神官が論じてるはずですから、首都で尋ねて回るか、文書庫や図書館を探します」

「それもいいが、もっと早い方法は? いま確かめてみないか」

 アウローラの目が、ディーミディとおなじいたずらっぽい感じに変わり、それからいつもの真面目な色に変わった。


「そうですね。〝いま〟確かめましょう」


 おれを見た。


「ルシエス、あなたに挑戦します。闘いましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ