一
脇街道の整備は行き届いていない。しかし、それは公用街道と比べてであり、歩く分には困らなかった。ただ、荷を満載した馬車などは揺れで苦労するだろうなと思った。
「道って、自然に平らになるんじゃないんだな」 おれは当たり前のことをつぶやき、二人に笑われた。
「なに言ってんだ」 ディーミディは歩きながら、初めて会ったときに食べていた実をかじって殻を道脇の茂みに放った。
「お行儀悪いですよ」
「それ、何の実?」
「セミーピンギア。セミーピンっていう木の実で脂が多い。味ないけど」
わけてくれたが、たしかに脂だけでなんの味もなかった。それに堅かった。アウローラは遠慮し、こりこり食べるおれをあきれたように見ていた。
「燃料補給にはいいな」
「だろ? 道がちゃんとしてたらそんなに食べなくていいんだけど、このでこぼこじゃ思ったより疲れるから、腹が減る前にちょっとずつ入れたほうがいい。お行儀良くしてると後できついぞ」
もう一度、アウローラに差し出し、今度は受け取った。こりこりかじって妙な顔をしている。
「これ、ほんとに燃料になりそうですね」
「どこで手に入れた? セミーピンギアなんて売ってるとこ見たことないけど」
おれは殻を手の中で転がしながら聞いた。
「東の方じゃふつうに生えてる木だから。ま、そろそろ持ってきた分なくなる」
「カプティンペリアーレにもあるでしょうか」
おれとディーミディは顔を見合わせた。アウローラはそれを見てなにか間違ったことでも言ったかと不思議そうにしている。
「どうかしました?」
おれは手振りで説明を頼んだ。ディーミディは前におれにした話をそっくり繰り返した。
「よくわかりません」 戸惑いを浮かべた。
「実はおれもわかってないし、ディーミディも理解してない」
「帝国を維持している概念が集まった形而上の領域がカプティンペリアーレ……、ですか」
歩きながら考え込む。
「危ないぞ、足元注意しろよ」
声をかけたが返事はない。ディーミディは肩をすくめ、アウローラの前に位置取った。
日が傾きだした。そろそろ野宿の準備にかからないといけない。領地に入らないので、これから三巡日は星を仰いで寝る予定だった。この季節なら大丈夫、とディーミディは言う。
おれたちも周囲の旅人たちも歩きながら枝を拾い集めている。アウローラも無表情で拾っている。考えながらでも作業できるのはさすがだ。
「この道を上りきるとちょうどいい場所がある。小川もある」
たしかにいい場所で、たき火の跡があちこちにあった。くぼみの中の土は黒ずんでいて、石で囲ってある。旅人の小集団は、ほかとは打ち解けず、それぞれで火をおこすようだった。ここでも、人が多くなると関係が薄くなる法則は生きていた。
「ああ、それはな、大きい火を焚いてその周りに集まるより、小さい火がそこらで別々に燃えてるほうが暖かくて快適だからだよ。この季節でも山の夜は冷えるからな」 ディーミディはおれが考えてるのと少しずれた解説をした。
跡の一つを選んで枝を組んだ。アウローラはまだ上の空だったので、まじないはディーミディが唱えた。周囲の者たちがちらっとこちらに注目する。エルフだと思ってたら火のまじないを使ったからだろう。だが話しかけては来ない。半エルフくらい珍しくもないんだ。
湯を沸かし、麦饅頭と干し肉を配った。食べ物をわたすと、アウローラはこっちに帰ってきた。
「カプティンペリアーレって、つまりは神様なんですね。教義はなく、〝恩恵〟もまじないもなし。でも信者はもっとも多い神様。エルフのデウセルフ様みたく、帝国人は必ずカプティンペリアーレ様を信心してる」
訳のわからないことを言いながら、干し肉を湯に浸し、麦饅頭を大きくかじった。おれはアウローラからディーミディに目を移した。すました顔をしている。
「ま、そういう理解でいいんじゃない。〝国家は神なり〟ってね」




