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信心するなら強いのがいいから、最強の神を探し求めるおれの話をちょっと読んでけ  作者: naro_naro
第七章 アスペレーティス領――敗北。人と帝国人、および命の価値について

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 アウローラとディーミディには宿を出る前に説明した。

「そう。闘いの傷が信仰の証しなんて、ウェッデンクル様はなにを求めてらっしゃるんだろう」 アウローラはため息をついた。

「たしかに、想像もつかない信仰だな。自虐が信心を構成するなんて」 ディーミディは荷物を詰めながらあきれたように言った。同情はないようだった。

「これからだけど、どうする。なんでも頼って悪いが、ディーミディの意見を聞きたい」

「そうだな。街道伝いに後二つほど領地をたどってもいいけど、脇の街道を通って直接首都に行きたい」

「そんな道あるのか? それに、なんで直接?」

「公用じゃないけど、ほぼ公用なみのがある。首都の周りの領地は通行税やら荷物税やら取るんで商人に嫌われてる。で、脇道ができて、それが発展しちまった」

「危なくないんですか」 アウローラは公用じゃないと聞いて心配そうだった。

「そりゃ道の質や安全面じゃ劣る。でも首都周辺だし、商人が使ってるくらいだからそこは心配ないと思う」

「そうか。すぐ首都に行くってのはどういう?」

「純粋主義者」

「ああ」

「領地のうち一つは運動が始まったとこだし、もう一つには本拠がある……ってか、教会が兼ねてる」

「そんな……。そんな主義を許す教義なんてないはずです。なんの神様ですか」

 ディーミディは苦笑した。

「〝はずです〟か。世間はなんでもありなんだよ。ご都合で教義を変えちまう教団はあるし、神も大目に見てる。信心を食らうためにな」

「預言である教義を人が変えていいのか」 さすがに驚いた。アウローラは言葉もないようだった。

「許す、ってか大目に見たり、知らぬ振りをしたりする神はいる。信者が離れて飢えるくらいなら目をつぶるんだ」

「それでも神かよ」

「ああ、神だ。それに、人に妥協する神は人気者だぞ」

「帝国人の誇りはないのか。教義をねじ曲げ、神に妥協させて、それで信心ってか」


 ディーミディはおれをじっと見た。


「なんだよ」

「いまのうちに言っとく。おまえ、〝人〟と〝帝国人〟をごっちゃにしてるな。あたしもその時々で話合わせてたけど、ずっと気になってた。ルシエス、あちこち旅するなら覚えとけ。〝人〟と〝帝国人〟は一緒じゃない」

「一緒だろ。帝国人以外の人なんていない」

 アウローラは話の成り行きにとまどってるようだったが、同時に興味をそそられたようでもあった。

「いる。帝国は広大だけど、その外側はあるし、人だっていて、帝国じゃない集団を作って暮らしてる。人やエルフやドワーフだって帝国だけで生きてるんじゃない。大陸は四方八方に無限に続いてるんだ」

「無限、だって? そんな世界観、迷信だろ。学者神官の観測ではこの世は球だし、住めるとこすべては帝国が支配してるんじゃないのか」

 アウローラがうなずいた。おれが言ったのはグレシャ教団で勉強したとおりのことだった。

「〝迷信〟ってのは、おまえやアウローラの信仰に対する〝迷〟ってことだろ。それに学者神官の観測っていうが、観測装置や結果を計算する数学は神の意志が入ってるんじゃないのか」

「そりゃそうだが、そんなこと言い出したら神から独立した完全な第三者的観測装置や数学なんて存在しないだろう」

 そこでおれはあっという顔をしたに違いない。ディーミディは笑った。

「いまさら気付いたのか。ずっと信じてたから疑うこともしなかったんだろうな」

「ディーミディ。ということは神の数だけ真実があるのですか。あなたのいう〝無限に広がる世界〟だって数ある真実のうちの一つですか」

「厳密にはそう。でも神同士の談合があるから人間の神の世界観はほぼそろってる」

「あなたのは?」

「あたしは七十五巡年、無駄に生きてきたんじゃない。観測装置も数学も一から作った。神から完全に独立したのをね」

「できっこない」

「できたんだ」

「どこにある? 論文は?」

「観測所は焼かれた。論文も。神の僕を名乗る連中にな。あたしにゃ錠の呪いがかかってる。証明を説明できない。作った装置を再現できないし、数式も書けないんだ」

「観測所って、どこ?」

「シルヴァフラクシー大森林の奥」

 ディーミディは、わからないという顔のアウローラに、おれにしたのとおなじ、森であったことを説明した。

「そんなことが……」


 突然、ディーミディが爆笑した。

「なんだその顔、おまえら、いい歳してなんでも信じるんだな。この手のほら話、聞いたことないのか。居酒屋とかでいくらでも聞けるだろうに。酔っぱらいがよく言う、〝この世の真実〟って種類の悪趣味な冗談だよ。〝独立した数学〟なんてでたらめ真面目に聞いてんじゃねえよ」

 笑いながらおれの背中をばんばん叩いた。


 おれも、アウローラも釈然としない顔のまま、宿を立った。

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