五
翌日、旅立ちの準備をしていると、あの神官が介添えに連れられて尋ねてきた。二人きりで話をしたいと言うが、宿には応接室はなかったので部屋に通した。介添えは外で待つようだった。
「いかがですか」
「大丈夫です。昼前にはここを出ます。あなたこそ」
「いまだけです。わたしはこういう闘いは慣れてますから。グレシャ様はたいしたものですね」
「アウローラがすごいんです」
「ええ、信心深い方なんでしょう。訓練場でもみるみるうちに回復しましたね」
それと、軟膏だ。孤児院でおなじみだったあれを持ってきてるとは思わなかった。たっぷり塗られたので、この神官は知らぬ振りしてるが、ほんとは鼻をおおいたいはずだ。
「ウェッデンクル様を信心されないのですか。わたしが勝ちましたが」
「勝ち負けではありません。それは言いました」
神官は下を向き、なにか考えているようだった。そして顔を上げた。
「神に疑いなどありません。わたしの信心は純粋です」
また、〝純粋〟だ。
おれはゆっくり首を振った。
「では、なにをもって疑いがあると言うのですが。聞かせてください。それがもっともならわたしは神官の地位を捨て、もっと修行しなければなりません」
話すだけで息切れしている。アウローラに頼もうと思ったが、神官はすぐにでも答えを求めている様子だった。
「あなたを押さえ込んだとき、首への絞め技は使えないので背中を押さえて息を止めにかかりましたよね。その時の目です」
「目……」
「ええ、助けを求める目でした。神ではなく、おれ……、いや、わたしに」
「そんなはずはありません。わたしは神官であり、同時にウェッデンクル様の戦士です。けがや死は恐れません」
おれはうなずいた。
「疑いというのはそこです。神を信じ、なにも恐れないのになぜわたしに情けを乞うたのですか。信心が純粋なら目には闘志と神への信頼しかないはずです」
「仮にそうだったとしても、それはわたしが未熟なせいです。ウェッデンクル様は信仰に値する神です」
「わたしにとっては違います。信者が疑いを持つ神は信仰できません」
神官は拳を固め、にらんできた。体調が万全なら殴られてただろう。呼吸に雑音がまじっている。おれのせいだ。やりすぎたか。
「ほんとうに大丈夫ですか。あまり心を乱さないほうがいい。アウローラに頼みましょう。まじないを……」
「いいえ。闘いの傷はウェッデンクル様への信仰の証しです。ほかのけがならともかく、これにはだめです。しかし、お言葉感謝します」
神官は立った。おれは手を貸そうとしたが断られた。それでも外の介添えに引き渡すまで見送った。




