三
途中野宿したが、それすら混み合っていた。適した場所は限られるので、おなじように一晩過ごす連中でずっとざわめいていた。
それでもお互い打ち解けようとしないのは、おれやアウローラのような地方領出身の者にとっては奇妙に思えた。火すらそれぞれで焚いている。
「人が大勢いるのに寂しい」
アウローラが湯を飲みながら小声で言った。
おれはほかの旅人に声をかけようとしたが、ディーミディに止められた。
「やめとけ。もうそういう場所じゃない。ここらへんじゃ他人にやたら声をかけるのは、泥靴で家に入るようなもんって思われてる」
「変な考え方だな」
「旅を続けるなら慣れろ。ドゥミナウス領の考え方はドゥミナウス領で終わるって思っとけ」
「そうか」
「そうだ。それと、相手の身になって考えろ。向こうからしたら旅人ってのは自分たちの常識が通じないかもしれない輩だ。線を引かれても当然だろ?」
「線を越えるにはどうすればいいんですか」
アウローラは不安そうだった。
「急いで越えるには金だな。それが一番」
「ゆっくり、落ち着いた方法はないんですか」
「相手を否定しなきゃいい。表向きだけじゃないぞ。心の中でも違う考え方を違うなりに受け入れようとするんだ」
「できますか」
「むずかしい。あたしにゃできない。表向き愛想良くするのがやっとだな」
おれは黙ってうなずいた。そりゃそうだ。純粋主義者の思想なんか受け入れられないし、してたまるか。
ディーミディの手の傷は目立たなくなっていたし、不自由そうな様子は見せないが、血の色はいまでも覚えている。
そう、血の色。兜からあふれたのも目に焼き付いてる。
予告されていたとはいえ、アスペレーティス領の警備兵の態度はひどいものだった。
乱暴なのではない。こっちを人として見ていなかった。財布を持った家畜、というのが一番近いだろう。
老若男女、荷の多少、そういった差異とは無関係に誘導され、検査され、尋問のようになにをしに来たのか、どこに泊まるのか聞かれた。
「ウェッデンクル様を知りたくて来た。宿は決めてない」
「風まかせか。そっちのデウセルフ女は?」
「半分は帝国人。そっち側の信仰を探してる。教義を学びたい」
「ふうん、半分だけね。で、おまえは?」
「修行です。この者について旅をしています。それと、あなたの態度、少々無礼では? 警備兵は旅人が最初に会う人です。もっと折り目正しくしなさい」 そう言って、指をはじくと小さな炎が出た。
面白いことに、警備兵の態度ががらりと変わった。
「グレシャ様の信者の方でしたか。まじないなしは初めて拝見しました。そこまでお使いになれるのに修行とは感服です。ご無礼はお許しください。実力ある方は他神の信者でも歓迎です」
検問を通り抜けると、アウローラはすました顔で言った。
「これで、かれらの〝価値観〟に合わせられましたね」
まず宿を取り、それからウェッデンクル様の教会に向かう。宿は二部屋取れたので、狭いほうにおれ、広いほうに二人が入った。
ここは石造りで装飾を排した建物がほとんどだった。ちょっと大きめの家の壁には狭間が作られていた。板でふさがれているが、使う気になればすぐ元に戻せそうだった。道も狭く曲がりくねっており、行きたいところにまっすぐ行けないようになっていた。
ウェッデンクル教会も例外ではなく、祈りの場所というよりは砦に見えた。
「ここで祈るのですか」 アウローラは驚いている。
しかし、神官は比較的まともな対応だった。信仰に対しては真摯なのだろう。我々をこころよく招き入れ、二人の話を聞いてくれた。アウローラも異教の客としてもてなされた。
まず、ディーミディの開けっぴろげな問いにきちんと答えてくれた。〝恩恵〟とまじない、それと信心する上での義務についての話だった。何度もしてるのだろう。流れるようによどみなく、要点が押さえられていた。
「……ご説明ありがとうございます。検討します」
なにが気に入らなかったんだろう。ディーミディの顔は興味をまったく失っていた。
「ルシェソルトゥス様……」
「ルシエスで。それと、〝様〟は遠慮させてください」
「……では、ルシエスさん」 神官は微笑んだ。「信心を見極める勝負とのこと、完全に理解したとは言えないのですが、おおむねわかりました。お受けします」
「いつ、どのように行いますか」
「明朝。ここの訓練場で」
うなずいた。
「それと、挑戦された側として、闘いの種類はこちらが決めます」
さらにうなずいた。
「格闘です。わたしが相手です」




