二
公用街道はさらに賑わっていた。領地を二、三挟めば帝国首都なんだから当然だが、すれ違う人々はもういちいち挨拶しなくなっていた。ちょっと頭を下げるか手を振る程度だ。人がうじゃうじゃ多くなると人同士の関係はかえって薄くなるんだろう。
「あの、ディーミディさん、アスペレーティス領ってどんな所なんでしょうか」
「そんな話し方しなくていいよ。ルシエスとおなじ、呼び捨てで。気楽に行こう」
「なら、わたしもアウローラで」
「よし、アウローラ。それとルシエス。アスペレーティス領だが、ちょいときびしい土地だぞ。覚悟しとけ」
「きびしい?」 おれは追いこしていく隊商に軽く手を振りながら聞いた。
「騒乱時代、最も多くの兵を送り出し、最も多くの戦死者を出した領地で、そのことを誇りに思ってる。勇猛果敢さが価値観の中心。どんな風に闘って死ぬかいつも考えてる」
「わたしたちのような旅行者はどういう扱いなんでしょう」
「かれらの価値観に合うと認められるまでは腰抜けと見なされる。取り引きとかはしてくれるけど、彼らだって金や物はいるからそうしてるだけで、よそから来た軟弱者って扱いだな」
「行ったことあるのか」
「ある。だからあたしの言うことやることよく見とけ。で、真似しろ。そうしなきゃよけいなごたごた抱え込むぞ」
「いまどき〝闘って死ぬ〟か。騒乱時代をひきずってるのか」
「けど、心持ちとしちゃおまえが一番近いぞ。闘いで信心を見極めようなんて考えなんだから」
「そうかもな。で、そこの神、ウェッデンクル様の〝恩恵〟とまじないは?」
「戦闘みたいに命の危険がある緊急時に感覚が強化される。さらにまじないを唱えると強化された感覚器官からの情報を素速く取捨選択できるようになる。ま、戦闘中に味覚や嗅覚がするどくなっても……、だからな」
「そのような〝恩恵〟だと、信者は……」 アウローラの声が小さくなった。
「うん、少ない。もう少数派。でも少なくなった分、いまでも信心してるのはかなり濃く煮詰まった連中だ。どうする? そんな土地でも行くか」
「行く。むしろ好都合だ。疑いのない信仰があるかもしれない」
「それは疑問だな」 ディーミディは下を向いてしまった。




