一
「だめだ。いまなら間に合う。すぐ追いかけろ」 おれは大声を出し、南東の方を指さした。「送ってやってもいい。行こう」
ディーミディはにやにやしている。
「なにがおかしい」
「感心してんだよ。ルシエス、あんたにゃ外交官の修行を中断するくらいの値打ちがあるってことだ、このお嬢さんからすればね。おまえはいい男だけど、それほどとはな。驚いたよ」
「ふざけるな。それにしてもよく隊商が許したな。あっ……」
ディーミディを見ると、肩をすくめた。
「おまえと先生でなにをした?」
「説得。こっちの旅も修行になるって。だから神官のほうの修行は中断にゃならないよ」
話にならない。おれは涼しい顔で立ってるアウローラに向き直った。
「同行は許さない。足手まといだ」
「迷惑はかけません。それどころか役に立てます。わたしはグレシャ様一筋に信心してきたから、その〝恩恵〟で罹病することはほぼないし、癒やしのまじないはかなりのもので、先生も認めてくれました。それに、火球と雷撃も強力で自分の身は守れます」 一息吸い込んだ。「そして、ルシェソルトゥス、あなたに必要な癒やしを提供できます。連れてく価値はある」
おれは目を細めた。
「それだけか」
アウローラはディーミディのほうを見、ディーミディはうなずいた。
「神をもたない人物の観察と、グレシャ様への信仰を持たせることが教団の目的。それでわたしの離脱が正当化されたんです」
「おれ一人のためにか」
「教団は拡大を考えてます。ルシエスみたいな無信仰の人を分析し、信者にできたら今後のためになるし、グレシャ様はお喜びになる」
神様の名を口にした後の祈りの形が、いちいち故郷を思い出させる。
「おまえ、おれを観察して、グレシャ様の信者に戻そうってのか」
「そう。だからついていく」
「だめだ」
「じゃ、いまの調子で闘いの旅を続けて、体はどうするつもり? 先生級のまじない医なんてそうそういないし、癒やしを与える神はそんなにいない」
その、同期なのに年長のような口調が、孤児院にいた頃を思い出させた。アウローラの信心の深さと質の良さは際立っていた。おれなんかと違い、祈りは敬虔だった。実務面でまだまだ準は取れないが、〝恩恵〟とまじないはすでに神官なみだろうとは想像できた。
おれの探索行にとって、役に立つかどうかという視点で判断するなら、アウローラのような準神官がいるというのはむしろ歓迎だ。
でも……。
アウローラはすっかり旅装を整えていた。長い髪をまとめ、おれとおなじような商人の服だった。旅のことを考えたのか、男物だった。ただ、布地も仕立てもおれのよりずっと良く、継ぎなんかあたってない。よく似合ってる。すらりとした体型もあって、離れてみれば背の低い男みたいだった。防具はない。その背の袋はおれのとおなじくらいの大きさだった。
「武器は?」
「もってない。どうせ使えないし。まじない頼り」 そう言って軽く指をはじくと小さな青い雷撃が飛び、落ちてた枝を消し飛ばした。
「まじないは?」 ディーミディがわざとらしく驚いた。いらっとする。
「いえ、心の中で唱えてます。このくらいなら声に出さなくてもいけます」 得意げにおれのほうを見る。
「それにしても早い。ルシエス、闘いならアウローラのほうが強いな」
「なら、おれとの組は解消かい」
「いや。久々に面白いものが見られそうだ。長く生きて旅してきたけど、これほどのはなかなかない。この三人組がいい」
「なんだそりゃ」
そう言いつつ、おれ自身、このなし崩しでできた三人組を嫌がってない自分に気付いてとまどっていた。けど、立ち止まっててもしょうがない。
「わかった。もうなにもかもお膳立てされてるみたいだし、ここでだらだら言い争っても時間の無駄だ。三人で旅しよう」
おれは東に向き、歩き始めた。




