四
忙しい夜だった。いったん宿に戻り、旅の準備をしてからちょっと寝てすぐに起き、ディーミディと隊商の見送りに出た。
もう東の方は明るくなりつつあり、足下の心配は無かった。
隊商は出発の最終点検をしており、大声の確認と復唱でざわめいていた。目隠しをした馬だけが落ち着いて尻尾をゆったりと振っている。
おれはアウローラを探したが、すでに馬車に乗り込んだのか姿は見えなかった。屋根付きの荷馬車には窓はほとんどなく、明かり取りと換気のための開口部が上の方にあるだけなので中まで見通せなかったし、あまりに忙しい様子だったので、あちこち聞いてまわったり、そばに寄ったりするのははばかられた。
「おはよう。見送りに来てくれたのか」 まじない医の先生だった。
「はい。道中お気を付けて」
おれとディーミディは軽く頭を下げた。
「ありがとう。君らもな。で、どっちに行くんだい」
先生は手振りでここから東と南東に分かれる道を表した。
「アスペレーティス領です」
「東か。そうだろうな。テノコーリエ領の神は確か教義に全知全能があるから」
おれはうなずいた。ディーミディのおかげで下調べが早く済んだ。
「じゃあ、隊商は」
「南東。お別れだな」
「条約ですか。相互安全保障の」 ディーミディが小声で言った。
「ま、そうかもしれんが、答えられないな」
「ドゥミナウス領とテノコーリエ領、強大な軍が手を結ぶ、か」
まじない医はにらむようにディーミディを見た。
「めったなことは言いふらさない方がいい。噂でも広がったら真っ先にあなたを疑わなくちゃならなくなる」
「あたしが分かったくらいなんだから、みんな察してるよ」
「それでも、です。少なくとも、夏の間は心に留めといてほしいんですが」
「よしてください。旅立ちです」
おれは割って入った。二人は軽く頭を下げた。
「では、わたしも。さようなら。でもまた会うでしょう。道はどこかでつながってるから」
「さようなら」
先生が乗り込むと同時に隊商は動き始めた。ありとあらゆるものがきしむ音を立て、それが遠ざかっていく。おれたちは見えなくなるまで手を振った。
「行こうか」 と、東のほうに向かったときだった。
「待って!」
アウローラだった。




