四
癒やしのまじない医を尋ねるときに考えていたのは、ここデリチオーパット領の主要な神であるデリシオーサ様の信者だった。しかし、ドゥミナウス領からの隊商が来ており、かなり規模が大きいのでまじない医も連れてるんじゃないかという噂を教えてくれた。
「行ってみるか」 店を出てからディーミディがおれを見上げて言った。
「行こう」
ドゥミナウス領からの隊商と聞いて、おれはもう一つ考えた。故郷の噂を聞きたい。教会や孤児院のみんなはどうしてるだろう。
隊商は街外れの商館の一棟をまるごと借り切っていた。大規模と聞いていたがこれほどとは思わなかった。馬は数十頭、荷馬車は屋根付きの大型が五台と露天の中型が三台あった。
「何事だ? お館様の引っ越しか?」 ディーミディも目を丸くしていた。
しかし、困った。この規模だと直接乗り込んでいっても話すらしてもらえないだろう。これだと相手は個人商店じゃなく、組織だった商工会だから、役人相手のような手続きがいる。
「どうする? いったん引き返すか」 おなじ考えらしく。ディーミディは腕を組んで立ち止まった。
「紹介状かだれかの口利きがいるな。あきらめて地元のまじない医探すか」
「いや、ここがいい。これほどの規模ならかなりの腕利きがいると思う。ルシエス、おまえの体はちゃんとした癒やしが必要だ」
「大げさだな。ただの疲れに」
「旅を甘く見るな。落ち着ける家なしにあちこちさまよう風まかせは、心と体を体感以上に消耗させる。それにおまえは闘ってばかりだからな。ここは経験豊富なあたしの言うこと聞いとけ」
言い返そうとしてディーミディの顔を見ると、砕けた口調とは逆に真剣な表情だった。
「わかった。そうする。助かったよ。一人じゃ気づけなかった」
「よし、いい子だ」
そこから引き返し、宿の主人に、商館への伝手を知らないかと尋ねると、甥が働いてるが、なにか問題があるようで、腕利きを探してるらしいと教えてくれた。それと、短剣の柄を修理してくれる職人も紹介してもらった。
「あんたの体つきだったら雇ってくれるかもしれないね。それにそっちはグレシャ様の火球撃てるんだろ? 一筆書いてあげるから行ってみるといい それと、修理なら角の赤い看板の店でわたしの名を出しな。いい職人だよ」
「ありがとう」
甥は主人の手紙を読むと人なつっこい笑いを浮かべて喜んだ。
「よかった。仕事を頼みたい。なに、簡単です。わたしの後ろでにらみをきかせてくれたらいいんです。そしたら隊商に話通しますよ。支払いもまかせてください」
「にらみ?」 かなり気になったが、なんでもないかのようにさらりと聞いた。ディーミディは隣で腕を組んでいる。大きな目を細めてるところは凄腕に見えなくもない。
「これから交渉事がありまして、ただちょっと普通じゃないんです」
「くわしく。ぼかさないでください」 ディーミディが低い声で言った。
男は色白のふくよかな手をもみしぼるようにして説明してくれた。それによると、ここでは保存のきく食べ物を作って輸出しているが、最近デリシオーサ様の信者を騙って偽の食品を売りつける輩が現れたという。死亡には至ってないが中毒が生じており、信用と商標に傷がつきかねない状況とのことだった。
「その偽物をさばいてる連中とやっと通じることができまして、いよいよ予備交渉に入るんです」
「いつ?」
「三巡日後です」
「予備交渉とは?」
「かれらの在庫をすべて買い取ります。その代わり、今後は騙りは行わないと誓ってもらいます。その条件を事前に詰めておくんです」
この考え方は、おれの考える正義や道徳、倫理とはかなり異なっていた。しかし、これが商人のやり方なのだと思い、よけいな口は挟まず黙ってた。ディーミディもじっとしてた。
「危なそうですね」
「いいえ。奴らとてそんな無法はしないでしょう。わたしになにかあったらデリチオーパット領を敵にまわすようなものですから……」 言葉を切り、茶をぐっとのんだ。「……しかし、わたし一人だと相手の気に押されるかもしれません。交渉を平常心でおこなうためにあなた方のような人にいてほしいんです。殴り合いなんかしてほしくないですが、向こうからの圧ははね返してほしいんです」
ディーミディを見ると、小さくうなずいた。
「わかりました。ご協力しましょう」




