二
夕食の席は献立も雰囲気もグレシャ教団とそう変わるものではなかった。故郷のドゥミナウス領とここヴィシノオリエン領は隣同士で風俗習慣に大きく異なるところはない。主要な人種はおなじ帝国人で見た目は黒髪に黄色みがかった白い肌。共通帝国語の訛りもほぼおなじだった。建築の様式だってほとんど違わない。こっちのほうが石より木を多く使ってるかな、と感じるくらいだ。
でも、おれは注目されているという居心地悪さを感じていた。この教団では食事は交代制ではなくみんないっせいにとるらしい。だから講堂を兼ねた食堂は広々とし、神官長から神官、下働きや手伝いたち、それに教団が運営する孤児院の子供たちまで座っている。
そして、ただ一人祈らないおれは常にちらちらと見られていた。しょうがないと言えばしょうがない。最強の神を探すという無信仰の旅人が試合を挑んできたとなれば、こういうところではずっと語られるような話の種になる。みんなおれの一挙手一投足を見逃すまいとしてるようだった。
幸い、食事は沈黙を強制するものではなかったので緊張は続かなかった。おれは神官長の正面に座らされ、まともな客扱いをされていた。かえって居心地が悪い。世話役の神官はおれの隣で、さっき部屋で話したことを興味深げに伝えた。
「そうですか。ルシエス様は信仰に値する神を探しておられ、その基準は強さであるとおっしゃるのですな」
神官長は面白そうだった。おれは、周りの高位の神官たちが聞き耳を立てた音を肌で感じた。
「はい。神は慈愛や平穏をもたらしますが、それは背景に力あってのことです。力なき安定は存在し得ません」 おれは言葉を選びながら答えた。
「グレシャ様は大変強力と伺っております。その〝恩恵〟は病を退け、また、癒やしや、火や雷を撃ち出すまじないを授けると。信仰に値しませんかな?」
ここの神官長のしわは、故郷のグレシャ教団の長を連想させた。深く、まるで彫り込んだようだ。知恵と知識が鑿なのだろう。
「ええ。ただ、残念ながら預言による教義に論理的矛盾があります。嘘と申してもいいでしょう」
「全知全能、ですな。確かにその文言は学者たちが時々論争の種にしていますが、それは信仰を捨てるほどなのですか。ちょっと目をつぶってみては?」
おれよりむしろ周囲の者たちが驚いていた。教義に論理的矛盾があるという意見に対し、〝ちょっと目をつぶる〟とはなかなか言えるものではない。
「そうおっしゃるのですか。では一つ問いますが、神ですら論理に縛られるのですか、それとも、神は論理を超えた存在ですか」
神官長はほんのわずか首をかしげ、口を開いた。
「現時点において、論理を超えた神は存在していないと言えましょう。例えば、信仰と〝恩恵〟の関係はどの神でも変わらぬ世界の法則です。これは神をも縛る規則があると示しています」 神官長は一息吸った。「ただし、これは経験則で、理論的に証明されてはいません。天体の運行は数式で表されますが、神を記述する数式は存在しないのです。つい、〝法則〟と申しましたが、これは言葉の綾とお考えください。わたし自身としては、〝法則〟が存在するのかどうか、明確な証明付きの答えを差し上げられないのと同様に、神が論理に縛られるのかについて、はっきりとした神学的な回答はできません。……試験は落第ですな」
「大変誠実なお言葉をいただき、感謝いたします。この夕食はわたしにとって忘れ得ぬ有意義なものとなりました。それはオリエン様の知恵の光でもあるのでしょう。明朝の試合が楽しみです。光の次は力を体験できましょう」
神官長は大きくうなずき、食卓を去った。それを合図に夕食は終わった。




