一
静かな旅、はもう望めない。公用街道はここらへんでは商人などの旅人がひっきりなしに往復する道となっていた。春から夏へ季節が移りつつあり、日差しがきつくなってきた中、すれ違い、追いこしていく人たちと挨拶を交わし、去っていって見えなくなったと思ったらすぐ次の小さな人影が見える。ドゥミナウス領という田舎出身のおれからしてみれば、ここは山中の道じゃなくて、すでに街中みたいだった。
「なんだその顔? 疲れたのか」 ディーミディがからかってきた。
「人に疲れた」 そう返すと笑った。日が昇りきり、暑い。
「この程度で? 首都に入ったらおまえ、疲れで死ぬぞ」
「行ったことあるのか」
「二、三回くらい、な」
「どんな感じなんだ。カプティンペリアーレって」
「そこは知らないよ。見たこともない」
おれのいぶかしげな顔を見て、ディーミディは説明してくれた。
「よく誤解されてんだけど、帝国首都とカプティンペリアーレは別なんだ。帝国首都は当ったり前だけど帝国そのものの中枢で、言ってみりゃ形而下を統べてる。王宮や様々な教会の本部、貴族の本家の家屋敷があり、住人がいて生活もしてる」
少女のような口から〝形而下〟なんて言葉が飛び出したのでついていくのに難儀したが、考えてみりゃ七十五なんだ。でも、おれはディーミディが急に歳をとったように感じた。まるでグレシャ教団の神官長が話してるようだ。
「聞いてるか? そんで、カプティンペリアーレは〝神王大帝〟とか、〝国家〟や〝議会〟なんていう帝国を運営したり、維持したりするのに必須の概念が集まってる形而上の領域とされてる。要は帝国そのものだから、首都と一緒くたにされちまう。でも違うんだ。ルシエス、これからは使い分けろよ」
「わからん」 正直に言った。
「実はな、あたしもわからん。ま、ふだんの言葉としてカプティンペリアーレを使うことはないって思っとけばいいよ」
二人で大笑いした。すれ違う者たちがつられて微笑むほどだった。




