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信心するなら強いのがいいから、最強の神を探し求めるおれの話をちょっと読んでけ  作者: naro_naro
第四章 ウルテリウサドリ領――〝力〟と〝暴力〟

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 フリュームポーテン川は急流ではない。ゆったりと、見ていると眠くなるような流れだった。

 その河原に、今朝はたくさんの人々が集まっていた。と言っても審判たち以外のほとんどが相手の関係者だった。野次馬は追い払われていた。おれとディーミディは明るくなってきた東の空を眺めていた。


「準備はよろしいですかな」 神官の一人が尋ねてきた。

「とっくに。わたしより相手を心配してはどうですか」

「そういう物言いはおやめなさい」

「わたしの怒りと悔しさを表現するには足りません。相棒の神を侮辱されたのです。さらには純粋主義者に傷つけられました」

「お気持ちはわかります。しかし、これが最後の機会です。示談を受け入れますか」

 その言葉はこの場の皆に届き、いっせいにおれの返答に耳をすませる空気になった。

「いいえ。名誉決闘を行います」

「では、そのように。日が完全に昇ったら始めて下さい」


 相手は予告通りの武装だった。よく磨かれた鎧兜が朝日を浴びて光っている。

 おれは小さく舌打ちした。まずい。〝完全被甲型〟とはいっても、ふつうの鎧には関節部などにすこしは隙間があり、そこから刃を通せたりするもので、おれはそこを狙うつもりだった。命まで奪おうなんて思ってもいないし、再起不能になるほどの大けがを負わせる気もなかった。ちょっとばかり血が流れればいい。それで決着のはずだった。

 しかし、こいつのは言葉通りの〝完全被甲〟だった。たぶん、こっちが短剣を使うから、まったく刃を受け付けないようにしておけば、技術がなくても力押しで勝てると踏んだんだろう。

 それに、レヌスポテント様の〝恩恵〟とまじないがある以上、あんな武装をしていても普段着でいるかのように動き、闘うはずだ。

 加えて、一巡月以上あったのだから、それなりに鍛錬しただろう。肩をつかまれたときよりはましになってるはずだ。油断はならない。


 ちらっとディーミディの方を見ると、かすかにうなずき、手をデウセルフ様の祈りの形に組み合わせた。祈りがあっても闘いには関係ないが、祈ってくれる人がいることが、おれの気持ちをさざ波一つない鏡のような水面にした。


 日が昇りきった。

 仕掛けてきたのは相手からだった。予想通り身軽に間合いを詰め、槍で叩き、払うように攻撃してくる。

 なるほど、速成で槍を使うとなると突きはなく、振り回してまぐれ当たりを狙うか。これは困った。体力が切れるのを待つわけにはいかない。避けてるおれのほうが消耗する。それほどレヌスポテント様の〝恩恵〟は強力だった。耳をすませても息はまったく乱れていない。

 だが、河原を選んだため、相手の動きは読みやすかった。どう動いても鎧と石では音がする。こちらは旅行用の履き物なので軽やかに動ける。

 そうは言っても逃げてばかりもいられない。どう攻撃するか。一対一で、体を完全に被う鎧兜相手の闘い方は決まってる。おれは隙が出来るのを待った。いくら〝恩恵〟とまじないがあっても、きちんと鍛錬してない奴はいずれ隙を見せる。その瞬間に賭ける。

 相手の槍が服の脇腹あたりを切り裂いた。

「降参するか!」 勘違いした相手が叫び、立ち会いや相手の身内たちに一瞬、白けた空気が漂った。

「服を破いたくらいで降参? 見えてないのか」

 いい機会だ。おれは相手の言葉に乗って挑発した。

 相手はよくわからない雄叫びをあげて突っ込んできた。石がうるさいほど音を立てる。おれは突進を寸前でかわし、横に回ると短剣の柄で兜の側面、中の頭のこめかみのあるあたりを叩いた。

 見ている者の中で闘いがわかる者は、まずい、と思っただろう。相手はふらつき、丸石に足を取られた。

 すばやく短剣を持ち替え、反対側からもう一度打撃を加えた。今度は骨の柄にひびが入るほどの力を込めた。


 相手の関係者の一人が立ち会いの神官に耳打ちし、神官は首を振った。話の内容は想像がつく。取り返しのつかないことになる前に負けにしてくれ、と頼んだのだろう。しかし、名誉決闘の規則は流血を傷と定義しているし、動きは止まらず、ひざもついてない。たぶん兜の中は鼻血などが飛び散ってるだろうが、外に現れない以上どうしようもない。完全被甲型の鎧兜を選んだのは相手であり、おれじゃない。選択の結果は受け止めてもらう。それに、こっちも振り回される槍を避けたり受け流したりしきれず、柄で打撃を食らっている。流血に至らなくてもきつい。耐久勝負になる前になんとかしなきゃ。


 それでも、足を踏み出すたびに石で滑り、よろけ、ほとんど意地で槍を振り回す相手との闘いは徐々に一方的なものになっていった。おれは間合いを詰めたり離したりしながら細かく短剣を持ち替え、頭の両側に打撃を加え続けた。動きからして目にも来てるだろう。しかし、血は現れない。

 さらに数発を加えたとき、ようやく兜の通気孔のあたりに赤が見えた。


「最初の血だ! 降参するか!」 おれは声を限りに呼ばわった。聞こえてくれ。そして、あきらめてくれ。


 返事はなかった。ゆっくりと、あたかも川の流れに合わせるように、ひざから崩れ落ちた。

 神官長がおれの勝利を宣言し、敗北者の名誉を剥奪する宣言を行った。

 しかし、相手の身内は聞いちゃいなかった。すぐに駆けより、兜を脱がせた。あらかじめ呼んであったのだろう。たぶんグレシャ様あたりの癒やしのまじないをもつ者が詠唱をはじめた。


 おれはそいつらを背にした。目をそらす前に一瞬、はずされた兜の内側が見えた。赤く染まっていた。見たくなかった


「どうだ。勝った気分は」 ディーミディが来た。

「目的は達した。それだけだ」

「目的? あんなのがか。一巡月以上費やして、けが人一人作っただけだ。頭だし、あの様子じゃ癒やしのまじないがあってもかなり長くかかる。元に戻るとも限らない。嫌な気分だ。やっぱり止めりゃよかった」 声は冷たく、自分に言ってるようだった。

「そんな言い方するなよ。これでここの純粋主義は終わりだろ」

「ああいう主義はまた出てくる。あたしゃ見てきた。よそ者を排斥しようって思想はなくならない」


「結局、レヌスポテント様の教会には一歩も入れなかったな」 おれは話を変えた。もう決闘については話したくない。

「どうでもいい。それと、前にも言ったけど、これについてはあたしも背負うから」 鎧兜を剥がされ、ぐったりとした決闘相手が運ばれていくのを横目で見ながら言った。


「じゃ、次、どっち行ったらいい? 公用街道、ここで分かれてるだろ? 北東と南東に」 おれはそれには答えず、また話を変え、歩き出した。とにかくこの場を離れたい。

 ディーミディはすこし考えた。「北東だな。そっちが首都に向かう主な道だし」

「南東は?」

「オリエン様信仰」

「そうか、なら北東に向かおう。で、このあたりからおれの調べたことがあやふやになってくるんだ。本もあんまりなかった。だから頼りに出来るのはあんただけだ。教えてくれ、ディーミディ。これからの道」


「〝これからの道〟 道ねぇ……、道か。あたしが教えるのか」 ディーミディは意味深に笑った。乾いた笑いだった。

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