七
返事が来るまでの一巡月は長かった。立場上主街から出たり、教会に行ったりは遠慮したからやることがなかった。紹介状は背負い袋の底にとどまったままで、もう日の目を見ることはないだろう。あの神官に済まないなと思った。
ディーミディは結局信者にはならないと決めた。
「調べたけど、力もらっても信仰の義務と釣り合わなさそうだし、それに……、あんな連中がいちゃあね」 肩をすくめた。
決闘に関して注目されるのは迷惑だった。司書や関係者が漏らすとは思えないのだが、いつの間にか噂が広がり、おれたち二人が外出するとひそひそ話が聞こえ、後ろ指をさされてるのが気配でわかった。
だが、一方でそれが細かなやっかいごとを遠ざけた。決闘を行うと宣言してる者をけがでもさせたら自動的に相手方の不名誉となる。社会的に排斥されるだろうし、身分のある者ほどそういうのは避けたがる。
返事は使者が届けてきた。宿の応接室で受けた。その場で返答が欲しいと言う。
かれらは示談を求めていた。デウセルフ様への無礼な言動を取り消し、謝罪するので名誉決闘は取り下げてほしいとのことだった。
使者は礼にはかなっているが飾りの多い服装ですましている。おれたち平民への使いに出されるとは、と失望してる顔だった。
「返答いたします」
そう言うと、さすがに使者は居住まいを正した。
「デウセルフ様への侮辱を取り消すとのこと、殊勝なお心がけと存じます」
使者の顔がこわばった。貴族の家に連なる者に対し、平民が、心がけ殊勝、などと上の立場からの物言いをしたのだから当然だが、おれはわざとそうしたのだった。
「しかしながら、示談の条件に不足がございます。このままでは名誉決闘の取り下げはいたしかねます」
ディーミディが横で面白そうにしてる気配が伝わってくる。
「不足?」
「はい。このたびの無躾な言動は純粋主義から来ています。よって、ウルテリウサドリ領における純粋主義活動の停止と組織の解散を求めます」
「それは……、即答いたしかねます。持ち帰って検討させてください」
「どうぞ、それがあなたのお役目でしょう?」
使者は、視線で殺せるならそうするのに、という目つきでおれたちをにらんだが、なんとか自分を抑え、礼を述べて帰っていった。
使者はその三巡日後に来た。別人で、今度は口上だった。
「名誉決闘をお受けします。明日、日の出とともにフリュームポーテン川の河原で。立ち会いと審判はレヌスポテント教会から神官が三名と神官長に来ていただきます。場所はおわかりですね」
「ええ、返事を待つ間たっぷりとこのあたりを散策できましたから」
使者は皮肉に気付かないふりをした。ディーミディはおれの隣で愉快そうにしている。
「武装について、当方は完全被甲型の鎧兜と槍を用います」
「わたしはいま着ている革鎧とこの短剣で闘います」 腰を叩いた。
「それで? よろしいのですか」 さすがに驚いた様子だった。
「慣れた武装のほうがいい」
「わかりました。では明日まで御身を慎まれますように」
「楽しみです」
使者はちらちらと目だけ動かし、おれとディーミディを交互に見た。「そのような態度はおやめください。我々は貴族です」 さすがにこらえきれなかったようだった。
「なら、普段から貴族らしい言動をすることです。この決闘もそもそもはそちらの無礼な振る舞いから始まっています。その点をお忘れなきよう」
使者はなにも言わず、振り返りもせずに帰った。
ディーミディは我慢しきれなくなったのか、扉が閉まる前に大笑いした。頭をのけぞらせ、犬歯の裏側が見えるほどだった。




