六
決闘制度について、丸二巡日かけて調べるまで、そういう制度が昔あったという以外まったく知らなかった。ディーミディもそうだった。長く生き、旅してきたが、そんな闘争儀礼は見たことがないと言う。
「そいつは王侯や貴族が騒乱時代のもっと前の時代にやってたようなやつだし、たぶん、平民が使える制度じゃない。それに、いまどき神様連中が殺しを許すわきゃない」
「おれもそう思ってた。でも街の文書庫に昔の記録があってな」 とおれは写しを見せた。宿で借りた机はがたがたしており、簡易寝台が椅子代わりだった。
「なんだこりゃ。『名誉決闘』?」
「そう。最初におれたちを侮辱してきたあいつを相手にする」 と写しを使って説明した。
『名誉決闘』とは、その名の通り名誉をかけた決闘を言う。戦で使われる一般的な武装を選んで闘い、傷を負わされた時点で降参するか闘いを継続するか選ぶ。降参した場合、名誉を失う。以降、あらゆる名誉を重んずる役職には就けないし、もちろん、家のあと継ぎになどなれなくなる。要は社会的に死ぬわけだ。
また、決闘者双方と利害を関係しない審判が複数見守り、殺人に至らないようにするとともに、降参宣言がなくとも闘いの継続が無理であると判断した場合、勝敗を決する。
そして、最大の特徴が、身分が同等であればだれでも決闘申し込みを行えるという点だった。遠い昔、個人の名誉がなによりも重んじられた時代の制度だった。
「いや、よく探してきたなとは思うけど、こんなの許されるわけないだろ。向こうだって受けないよ。無視して集団で袋だたきしにくるって」
ディーミディは丸まってくる写しの端を、飲んだばかりの茶碗で押さえて言った。
「奴についても調べてきた。貴族の家の者だが、まだサドリエン様から認証を受けてない。来巡月成人だそうだ。だから身分はおれと変わらない」
「おい、聞けよ。こんな決闘ありえないって言ってんだ」
「決闘の大義はデウセルフ様への侮辱だ。十分な理由になる。むしろ断ったら不名誉をかぶることになる」
「これはあたしの問題だ。相談もなしに勝手すぎる!」
「いや、相棒の神を愚弄されたんだからおれの問題でもある。そのおれが申し込むんだから勝手じゃない」
「あたしを傷つけた奴じゃなく、そいつなのは?」
「それも確かめた。そいつがここの組織の創設者で代表だからだ。手足をもぎ取ってもなんにもならないだろ? 潰すなら頭だ」
ディーミディはじぃっとおれを見た。
「本気なのか」
おれはうなずいた。
「おまえ、もし負けたら旅をあきらめなきゃなんないぞ。名誉を失ったって知らせはいずれ帝国中に伝わってく。そしたらどの領地でも相手にされなくなる。いまはおまえ自身の意志で信心ないけど、それからは入れてくれる教会なんかなくなるぞ」
「おれは負けない」
「その自信、どっから来るんだ?」
「いままでの鍛錬からだ。それと、ついでにこのあたりの純粋主義者どもも潰す。頭が名誉を失えばかなり弱体化するだろう。ここじゃ組織としてはやってけなくなる」
「おまえなぁ……。で、いつ?」
「向こうの返事次第だ。実は文書庫から通知を出した。司書を証人にした」
「相棒として言っとく。これはおまえの一世一代の失敗、それと汚点になる……。ずっとついてまわるぞ」 言葉を切り、笑った。「……で、その過ちはあたしもかぶるよ。ルシエス」




