五
その後、隊長の作った書類に署名し、もめ事を起こすなよと再度釘を刺されて詰所を出た。日はもう中天を越え、傾きつつある。おれは教会に向かった。
「どうした!」
建物の影から出てきたディーミディは左手に包帯を巻いていた。
「ちょっとな。不意をつかれた」
「けがは?」
「大丈夫。幸いドゥミナウス領からの隊商がいて、グレシャ様の癒やしのまじないかけてくれた。ちゃんとしたやつを。これは明日にゃはずせる」 と、なんでもないことを示すように左手を握ったり開いたりした。
「純粋主義者、だな?」
「ああ、番兵に捕まって連れてかれた」
突然意味不明なことを怒鳴って刃物を振りかざしてきたと言う。とっさにかばった手の甲を切られたと。
おれも別れてからのことを話した。
「じゃ、二、三巡日は安全、とも言えないな」 ディーミディはあきれていた。「ここの治安、水面下じゃめちゃくちゃだ」
「どうする?」
「すぐにここから去ろう」 ディーミディは即答した。
「いいのか」
「良くはない。ないけどしょうがない。身の安全が第一だからな」
それはそうだ。紹介状はもったいないが。
でも、聞いたのはそういう意味じゃない。
「いいのかってのは、やられっぱなしでいいのかって意味だ」 おれはあえて落ち着いた声で言った。
ディーミディは心配げな目でおれを見上げた。
「あのとき、逃げろって合図したおまえはどこ行った? 冷静で最善の判断だと思ったぞ。いまもそうだ。この場合、逃げる以上のいい手はない」
「奴らはおれの相棒を傷つけた」
さっきよりもっと冷たい声だった。自分の口から出たとは思えなかった。
夕日がディーミディの顔を照らし、白銀の髪を紅に染め、目に炎が宿った。
「ルシエス、お節介だろうが、エルフの格言を教えてやる。〝麦を育てるなら怒りを肥やしにするなかれ〟ってんだ。わかるか。怒りから発する行動はことごとくいい結果を生まないぞ」
おれはその忠告を飲み込んだ。それでも気は変わらなかった。
「支払いはさせる」




