三
「おい、そこのでかいのとちびエルフ、待て」
後ろからだった。おれたちは無視した。人に声をかけるやり方じゃない。あまりに礼儀を欠いている。
「待てっつってんだろ。聞こえねぇのか」
口調は無理してる感じがした。わざと乱暴に話してる。こいつの普段の口の利き方じゃない。
しかし、そいつはおれの肩をつかんだ。無礼にもほどがある。
「おい、でかいの、ちびエルフとどこに行く気だ? まさか教会じゃないだろうな」
「その通りだが、まずは離せ。無躾じゃないか」
振り向いた。男は若く見えた。まだ十代だろうか。しかし体格はおれか、おれ以上だった。
「無躾? ふん、無躾と来やがった。裏切り者の連れのくせにご大層な口きくんじゃねえ。教会が汚れる。街から出てけ」
そんなことを言いつつも、肩の手はどけた。こいつ、脅しに慣れてないな。それに肩のつかみ方からして初歩の武術もやってない。
おれは下がらなかった。逆に奴に触れないくらいぎりぎりまで迫って胸を張った。
「おれたちがどこへ行こうと勝手だ。おまえなんぞにどうこう指図される所以はない」
相手の口調に乗りつつ、人目を引かないように小さい声で煽った。〝所以〟という言葉を選んだのもわざとだった。
だが、思ったよりこいつは子供だったらしい。目が変わった。まずい。闘えば勝てるが、こんなところでもめ事は起こしたくない。
逃げろ、とディーミディに合図した。「後で」
半エルフは逃げ去るのに何のためらいも見せなかった。さすが、無駄に歳はとってない。経験豊富だ。
同時に、おれも反対方向に全力で駆け出した。後ろから嘲笑の声がした後、奴が追いかけてくるのがわかったが、おれをつかんでおかなかったのは間違いだった。距離はどんどん離れていく。孤児院で習った護身術が役に立った。その極意は、〝大声を上げて逃げろ〟だった。もう子供じゃないから大声の部分は省略したけど。
しかし、もし奴がここの住人だったら向こうの方が道にくわしいわけで、そこは心配だった。まいたつもりが待ち伏せされてたらたまらない。だから、人気の少ない狭い路地などはあえて避けた。いまのおれにとって人目は安全の保証だ。
そうやって大通りをたどると広場に出た。真ん中に円形の水場があり、どこかから水が引き込まれ、あふれた分はまたどこかに流れ出していた。それを囲むように店が並び、活気があった。おれはここの人たちの様子をうかがい、特に神聖な水場ではないと確認してから腕をひたし、額と首をぬぐった。
「やっと見つけたぞ。ちょろちょろしやがって」
おれはため息をついた。人混みから現れたのは一人増えて二人だった。
「用があるなら行儀よくしろ。なにが望みだ」
二人はおれを挟むように位置取った。新しく来た背の低いのが近寄ってきたので、腰の短剣の柄を叩いて音をさせた。
「おい」 そいつは足を止め、元の奴を見た。「髭剃りもってやがる」
「ペーパーナイフだろ。やたら気取った言葉を使ってお利口なつもりの臆病者だからな。本ばかり読んでるんだろう」
おれは二人を倒す順番を考えた。新しく来た奴の方が体格からして弱そうなので、そっちから始末しよう。血は流したくないから絞め技がいいだろう。一瞬で締め落とす。
ただ、レヌスポテント様の信者なら見た目より力はあるはずだから油断はならない。
「もう一度聞く。用向きはなんだ」
いや、やっぱり大声をあげて人を呼ぼうか。うん、そっちがいい。手を出すのはまずい。こっちはあくまで絡まれた旅人だ。
「ここはサドリエン様が治め、レヌスポテント様の教会のある神聖な地だ。二枚舌のデウセルフとその傀儡が来る所じゃない」 元の奴が声を低めて言った。
そういうことか。やっとわかった。愚か者の相手をしてる時間はない。
「助けてくれぇ! 殺されるぅ!」
おれは声を限りに叫んだ。




