四
広場がざわめき、注目が集まった。反応は様々だった。子供や若者はこっちを探るように見て笑ったが、中年から上はその場を離れたり、建物に引っ込んで戸を閉めたりした。
奴らは突然叫んだ男の対処に戸惑っていた。やはり素人だ。次の次になにをするか、まったく考えていない。なら主導権はこっちにある。
おれは警備でも兵隊でもなんでも早く呼んでくれ、助けてくれとさらに大げさに騒ぎ、こいつらだ、こいつらは人殺しだ、と二人を指さして騒いだ。周囲を遠巻きに人の輪が出来、奴らを逃げられなくした。
番兵が三人現れた。なんと街中なのに、胴と頭を完全に覆う鎧兜だった。レヌスポテント様の〝恩恵〟とまじないだろう。鉄の塊を着けながらも身軽に動いている。
「なんだ?」
「こいつらです。人殺しだ。おれを脅してきやがった」
二人のさっきまでの威勢の良さは水と一緒に流れていったらしい。かすれた小さな声で、違う、とか、誤解です、などと言うだけだった。
「おまえ」 と番兵の一人がおれを指した。兜の羽根飾りからして隊長らしい。「一緒に来い」 そして部下に命じた。「こいつら、地下牢に放り込んどけ。またやりやがった」
隊長はおれを縛ろうともしなかったし、おれも逃げる気はなかった。自分の立場が悪くなるだけだ。ここはこの番兵の書類仕事につきあおう。それと、さっきの〝またやりやがった〟という言葉の意味を知りたかった。おおよそは見当ついてるが、ちゃんと知っておきたい。特にディーミディに関わることははっきりさせておこう。
番兵の詰所は、別の建物を転用したのではなく、昔からそういう役目だったのだろう。扉や窓の造り、部屋の並びや什器は、軍と役所が半分ずつ混じったように感じられた。おれはそのならんだ部屋の一室に入るように言われた。窓の大きさからして悪い待遇ではない。話を聞かれるだけだろう
しばらくして、中年の、髪を短くした男が入ってきた。背格好と声からしてさっきの隊長のようだった。窓を背にして座り、机を挟んだ正面に座るよう手で促した。
「経緯をうかがいたい。ことの初めから順を追って話してくれ」
おれはその通りにした。〝殺される〟とか〝人殺し〟と言ったのは、人目を引き、ならず者を早く遠ざけてほしかっただけで、ほんとに殺し合いをやってたんじゃないと付け加えた。
中年の隊長はうなずいた。
「わかってる。あいつら懲りないんだ」
「いつもなんですか」
「〝純粋主義者〟だよ。他人種を嫌うし、一緒にいたら帝国人だって嫌う」
「なんです? 〝純粋主義者〟?」 聞いたことはなかったが、意味は推測できた。
「神は人間の神のみ。ほかは来るべからずって主義だ」 あきれたような口調だった。「特にエルフみたいに人種と神が一組になってるのを激しく排斥する」
「なぜですか」
「知るか。あいつらに聞けよ。……いや、近づくなよ。もめ事はもういい」
「どのくらいいるんですか。街を歩くだけであんな連中が突っかかってくるなら避けようがない」
「多くはない。あ、おまえ、滞在予定は?」
「二、三巡日。たぶん」 おれは探索の旅について話した。
「変わったことやってるんだな。よし、そのくらいならあの二人、押さえといてやる。実はそれぞれ貴族と豪商の息子でな。どうせ釈放せにゃならん。でもまあ三巡日くらいならなんとかなる」
「ありがとうございます。じゃあ、あの二人は……」
隊長の目が細くなった。
「その通り。ここの純粋主義者どもの頭だよ。察しがいいな。ぶち込まれてる間はほかの連中はおとなしくしてる」
その程度の組織か、とおれは思ったが口には出さなかった。この件、隊長が言うほど単純じゃない気がする。通り過ぎていくだけのただの旅人である自分があれこれ批判がましい口をきくのは止めた方がいいだろう。
急に黙ったおれを見て、隊長は顎に手をやった。
「ルシエスと言ったな。無信仰なのは惜しい。部下が足りなくて困ってるんだ。もしレヌスポテント様の信者になったら、一番におれの所に来い。使ってやる」
窓から日が差してきた。おれはまだ考えていた。




