二
朝暗いうちに起き、水場で体を拭いた。部屋に戻るとディーミディはまだ寝ていた。寝顔は子供みたいだった。それから朝日が昇りきる頃に起き、支度を済ませた。
「行くか」 ディーミディの目が日光にきらめいた。
「行こう」
通りはもう賑わっていた。肩が触れるか触れないかくらいの人通りがあり、みんな主街に向かっていた。おれたちはその流れに乗った。
主街の大門が見えてきた。木だが、ところどころ鉄の帯で強化され、鋲も打ってあった。人々は脇の小さい扉から出入りしていた。
そっちから聞こえてくる声や音からすると、検問が厳しいようだ。門前には二筋の列が出来ており、書類かなにかを持ってる列はさっさと進んでいたが、もう一筋はのろのろで、十人に一人くらいは追い返されていた。
「どうする?」 おれはディーミディの顔を見た。なにか知らないだろうか。
「どうするって、行くしかない。こんなの初めてだ。なに警戒してんだろ」
「名前は? どこから来た? 主街でなにをする?」
番人は兵士だった。驚いたことに、鎧の一部は鉄だった。その上に領主サドリエン様の家紋付きのサッシュをしている。まるでこれから戦があるかのような重装備だった。でも動きは鈍くなってない。
レヌスポテント様の〝恩恵〟は肉体的な〝力〟だ。そして与えるまじないは〝力〟を補助する。当然だ。仮に、一抱えもあるような大岩を軽々と持ち上げる力だけもらっても使いようがない。そんな大岩を持ち上げても耐えられるような肉体の均衡や調節がいる。まじないはそんな〝均衡〟や〝調節〟機能を与える。
「ルシエス、こっちは連れのディーミディ。ドゥミナウス領から来た。レヌスポテント様の教会に行きたい。教えを聞くためだ」
そいつはおれを頭から爪先までじろりと見回し、なにが気に入らないのか、ふん、と鼻を鳴らした。
ディーミディにはもっとひどい態度だった。顔をくっつけんばかりに近寄せ、まるで家畜の検分をするかのように上から下まで見た。
おれは抗議もせずおとなしくしていた。たぶん、この挑発的な態度は試験だ。威圧するかのような重装備もそうだろう。なにか不満や反抗的な様子を見せれば落第になる。ディーミディもわかってるのか、目をそらしてじっとしていた。
「よし、通れ。それからよそ者、もめ事を起こすなよ」
おれたちはなにも言わずうなずくと、さっさと脇扉をくぐった。
番兵はあんな態度だったが、主街は壮麗だった。副区は清潔で整っていたがそれだけだった。しかし、こっちは異なり、歴史の重みを感じた。道や建築は騒乱時代以前の美麗を保っており、戦時にあわててこしらえたような粗雑な部分はなかった。ここの石積みは隙間なく組み合わされ、手指をかけて登るなど無理なくらいなめらかに仕上げられている。また、石を敷き詰められた道はどんな技術が使われたのか考えもつかないくらい平らで、馬車などの轍はなかった。よほど丈夫な石なのか、なにかのまじないで復元力があるのかまではわからなかった。
「すごい街だな」
「きれいすぎる」 ディーミディは不満げだった。
「隙がなさすぎるか? あ、見えてきた」
レヌスポテント教会は天を刺すような五本の尖塔が特徴的だった。そして、それぞれの尖塔を頂く五棟の建物が中央と東西南北十字形に対称に配置されていた。
おれたちはすこしの間見守り、人々の出入りが多い東側に向かった。




