四
革防具は仕上がっていた。取りに行くのは遅れたが、預かっておいてくれた。身につけてみると擦れはなくなり、ほかにも調整を施したのでずっと快適になった。
「いい感じにできてる。気に入ったよ」
おれは防具をつけたまま代金をすこし多めに支払った。恐縮する主人を後に店を出る。
礼と別れは済ませた。あの神官はもっと議論したがっていたが、別れねばならないこともわかっていた。おれは会話を思い出していた。
「どちらへ向かわれるのですか」
「当面は東へ、公用街道をたどって首都の方に向かうつもりです」
「ウルテリウサドリ領ですね。レヌスポテント様がよく信仰されています。ならば紹介状を書いてあげましょう」 使い込まれたペンと用紙を出した。すぐ出てきたところを見ると、はじめからそのつもりだったのだろう。
「それと、これをお持ちください。これから夏に向かって天気が崩れやすくなります」
フード付きのマントだったが、薄い布でできており、軽く、たたむとマントとは思えないくらい小さくなった。それに……。
「青臭いでしょう? 防水性のある樹液や草の汁を塗り重ねてあって雨よけになるんです。なので普通のマントの上に羽織ってください」 さらさらと書きながら言った。
「このような良いものを……、ありがとうございます」
「実はわたしも旅人でした。ここに落ち着くまでは。でももうエフェミナ様の胸の中に骨を埋める覚悟ですから。あなたが使ってください」 書き終わった紹介状を巻くと封をした。
おれは頭を下げ、防水マントを丁寧にたたむと紹介状とともに背負い袋に入れた。
旅程は再計算した。持ってきた地図は製作年代のせいか、食い違いが目立ってきたのでここで最新版を買った。それもあの神官がいい本屋を紹介してくれた。
「重ね重ねありがとう。なんとお礼したらいいか。落ち着いたら手紙書きます」
「お気になさらずに。お便り楽しみにします。でも、一ついいですか」
「ええ」
「本をお書きなさい。わたし個人への手紙よりも、世間の大勢の人々を相手にする本がいい」
おれは笑った。「それは無理です。済みません。手紙にします」 記録はつけてるが、それはあくまでも自分用で、本を著すなど出来っこない。そんな能力はない。この人はおれを買い被ってる。
神官は、そうですか、と曖昧に笑った。
アウストローリエン領の大半と隣国ウルテリウサドリ領はほぼ平地になっている。いままで超えてきた西側の山が盾のようになり、気候は比較的穏やかだ。降ってもめちゃめちゃな豪雨、豪雪にはならないと本にはあった。
ただしとにかく広い。旅程は丸二巡日。一巡日目はアウストローリエン領泊まり、二巡日目の日没寸前に領境を超えられるか、場合によっては三巡日目の朝早くになるかもといったところだった。
とにかく一巡日目は商人向けの宿に泊まろう。神官は親切にも出入りの商人に声をかけてくれ、いくつかいい候補を探してくれた。まずはそこに向かう。
青々とした畑を両脇にし、まっすぐ東に向かっていると、雑念が剥がれていくようだった。自分が足だけの存在になった気がする。それを、頭上を騒がしく飛んでいく小鳥や、どこか遠くで鳴く家畜の声が、おまえは五体のある帝国人だぞ、と覚ましてくれた。
一巡日目の日が背後に沈む頃、町に入った。畑の続きのように建物が並んでいるだけだが、教えてもらった宿は快適だった。教会の話をすると喜んでくれ、風呂に熱い湯をおまけしてくれた。
風呂上がり、明日の天気はどうかな、と星を見るために外に出たときだった。
「ルシエスさん?」 聞き覚えのある声だった。
「ディーミディさんかい?」
暗がりから出てきたのはあの半エルフだった。




