五
ディーミディは隣の部屋を取った。誘い合わせ、宿の主人に夕食を出す店を紹介してもらった。妹が経営してるそうだ。
店で宿の主人の名を出し、食事をしつつ二人で話したいのだが、と頼むと商談用のアルコーブに案内してくれた。三方が漆喰を塗り固めた壁で、店の広間とは厚いカーテンで仕切るようになっていた。礼を言い、肉と具だくさんの汁の定食、それと酒を頼んだ。
「偶然だな」 おれが言うと、ディーミディは微笑んだ。
「いずれどこかで会ってたさ。二人とも公用街道たどって東に向かってんだから。このあたりはほとんど分岐ないし」
おれは食べながら別れてからのことを話した。ディーミディもそうした。ほかのボーニタス信仰の領地を回ってからこっちに来たと言う。
「ボーニタス様が信仰にふさわしくないってのはあたしとおんなじ結論だ。あと、教会が金と権力に舵切ったのは珍しいこっちゃない。いたる所で見てきた」
「ほかの領地のボーニタス教会はどうだった?」
「貧乏だった。力もない。マギソテラリス領と違って、公平に、あらゆる階層の者たちが教会に出入りして騒いでた。それと、外傷治癒の〝恩恵〟、あたしにゃあんまり使えなかった。半帝国人ってのはこういうとき損するな」
「そうか。エフェミナ様は興味ないのか」
ディーミディはにやっと笑った。
「あんましふざけんな。あんたこそ闘ってどうだった? 口で試合したって言ってたけど」
「悪くない。奪われてもまた作るって考え方は独特だけど、限界のある神に対して疑いを持ってた。ほかとおなじだな」
「細かい奴だな。ちょっとくらい目ぇつぶんなよ。〝恩恵〟もまじないもないよりましだろうに」
「信じるってそうじゃない。おれにとってはな」
「ルシエスさん……」
「〝さん〟はいらない」
「なら、あたしもいらない。……で、エフェミナ様の神官の言うとおり、あんたの思ってるような、全知全能じゃない神にすべてを捧げる信心ってのは正直言って存在しないと思う。一分の隙がある信仰でも信じないよりはましだと思うぞ」
酒のせいか、ディーミディの口はよく回っていた。なら、おれもだろうか。子供の頃、おしゃべりは悪と教えられた。でも話したい。
「ましな信仰なんてあるもんか。……なあ、ディーミディ、あんた、おれよりずっと長く旅してんだろ? どっかで落ち着かなかったのはなぜだ。例えばアウストローリエン領みたいな土地はだめなのか」
「エフェミナ様は気味悪い。乳が多すぎる。……いや、これは冗談。あたしはね、旅する女なのさ。ルシエスみたいに探索の手段じゃない。旅そのものが人生なんだ」
おれは衝撃を受けた。はっきり言って意味がわからなかった。だからそう言った。
「わからん。どこにも行かない旅なんて。じゃあ、帝国人の部分の信仰を探すってのはついでなのか。旅の」
「そうだよ。いいのがあったらいいなってくらい。グレシャ様の火のまじない、そこそこ役に立つからいまのところほかの神様と入れ替える気にならないけどね」
大きな目が潤んでいた。飲み過ぎだ。顔も赤みが差していた。おれもだ。頬がほてる感じがする。
ディーミディはおれの手に自分の手を重ねてきた。暖かい、小さな手だった。
「なあ、ルシエス。しばらく道連れにならないか。今度はお互い約束した旅の相棒で、ちょっとした意見の相違、たとえば調査云々くらいのことで別れたりしないってやつで」
「おれは旅は素人だぞ。それにあちこち首突っ込むほうだ。それでいいか」
ディーミディは大きくうなずいた。白銀の髪が揺れ、握手した。
思ったより長くかかった夕食後、宿に戻り、それぞれの部屋に入った。
おれは寝っ転がって考えた。旅の相棒として、ディーミディの経験に頼るつもりだった。多分、ディーミディはおれを警護役と考えてるんだろう。それ以外おれが役に立つとは思えない。
なるほど、お互いが利を得る関係なら連れとして申し分ない。おれは公平な取り引きだと考え、酒のせいもあってすぐ眠りについた。




