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信心するなら強いのがいいから、最強の神を探し求めるおれの話をちょっと読んでけ  作者: naro_naro
第二章 マギソテラリス領――半エルフのディーミディと連れになる

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13/18

 試合場は中庭だった。周囲の建物のバルコニーが臨時の見物席にされており、揺れるかがり火に装飾品をきらめかせた貴顕たちが座っていた。

 マギソ・テラリス様の顔は知らないが、一目で見分けが付いた。もっともきらめき、もっともかしずかれてる長身の男が二階から見下ろしていた。

 おれは先に試合場に出た。拍手もなにもなく、だれも騒がない。あの神官が模擬刀を持ってきた。おれは手に取り、なんどか振って重りで調整した。粉は赤で、灯りにきらめくように金属かなにかの微粉末をまぜてあるようだった。贅沢だが危険だ。金属粉なら研磨材みたいなもんで、目にでも入ったら大変だ。

 でも、みんなきらめくのが好きなんだろう。そういう支配者のいる、そういう土地柄なんだ。


 試合場が沸いた。対戦相手が向こう端から入場してきた。上半身裸で、帯と靴はここの文化に相違せずきらめいている。模擬刀を手に取ると、マギソ・テラリス様のほうに一礼した。バルコニーの支配者がそれに答えるかのように鷹揚に片手をあげるとさらに拍手で盛り上がった。


 神官が片手を上げて下ろし、試合が始まった。


 ボーニタス様の〝恩恵〟はけがの治りが早いというものなので、この闘いとは無関係だ。それより空気を操るまじないが気になる。どう使うつもりだろう。


 最初の攻撃は向こうからだった。基本通りの突きで難なく避けられたが、それはむしろ相手の実力の高さを示していた。基本を押さえている者は強い。

 おれもそれに応えるように、基本通りの突きを二つ行い、相手は軽く回避した。


 さあ、挨拶は終わった。ここからが闘いだ。


 しかし、相手の次の行動におれは戸惑った。間合いをとり、頭の上に短剣を振りかざしたのだ。そんな構えは見たことも聞いたこともない。長剣や刀ならともかく、短剣では無駄しかない構えだった。大道芸人などがやる見世物の型だ。

 でも、観客席は盛り上がった。なるほど、そういうつもりか。確かにこれは見世物にすぎない。おれにはできないが。


 間合いを縮め、地味だが効果的な突きを出そうとしたとき、痛みを感じた。目を開けてられない。数回瞬きして涙を出すとましになったが、相手を見てるとすぐ痛みが戻ってきた。

 そうか、あの構え、そして空気を操るまじない。やられた。

 どこへも逃げようがない。この試合場に自然の風上、風下は存在しない。常に対戦相手が風上だ。

 かがり火、装飾品、自分と相手の刃。すべてが涙でぼやける。相手はこちらの様子をうかがって攻撃してきた。攻撃は大げさに刃を振り回すものではなく、やはり基本に則った突きだった。なんとか避けたが、かすり傷相当の赤い線を付けられた。観客席は盛り上がり、早く決めろと身分に似合わない下品な野次をとばした。


 覚悟を決めた。短剣だけできれいに勝とうとしてもできっこない。相打ち狙いのつもりでないと勝てない。剣での闘いはもういい。


 おれは一気に間合いを詰めた。相手もこっちの狙いを察したのか、まじないを切り替えて強風を吹き付けてきた。土埃が舞い上がり、突進の速度が衰え、なにも見えなくなったがもう遅い、戦場ならともかく、こんな闘いの場でここまで近接したら目くらましにはあまり意味はない。

 姿勢を低くし、相手の足がある見当に蹴りを放った。

 地面に転がる音がした。おれは短剣を何度も持ち替えながら、土埃の隙間から見えた相手の胴に突きを放った。向こうからも刃が来たが、こんな闘いは慣れてないのか致命傷にはならなかった。

 おれはまた間合いを広げ、土埃がおさまるのを待った。


 だれもが試合場を見られるようになったとき、勝敗は明らかだった。おれは赤線だらけだが、致命傷たり得ていない。一方相手のは心臓、脇腹、太ももの内側の太い血管のあるあたりについていた。


 神官が勝敗を宣言したが、中庭は静まりかえっていた。間を置いて、マギソ・テラリス様が儀礼的な拍手をし、ほかの貴顕たちもお付き合いのように拍手して引っ込んだ。


 おれは呆然と立ち尽くす相手に近寄った。

 そいつはこっちを見て微笑んだ。

「ひどい顔だな。埃と涙でぐしゃぐしゃだ」 そう言って、袖で拭ってくれた。

「ああ、早く顔を洗いたい」

 対戦相手は神官に合図すると、桶にいっぱいの水を持ってきた。それで洗うとだいぶましになった。

「いつもならあれで勝てるんだが。おまえ、体術もいけるんだな」

「ドゥミナウス領で一番だ」

「だろうな。あの動きはちょっとくらい覚えのある奴のじゃない。じゃ、わたしは負けて当然だったんだ……」 所在なげに服の赤線を払った。「……で、どうする? ボーニタス様の信者にはならないのか」

「ああ。勝ったからじゃない。闘ってみて、なにか違う。おれの求める最強じゃないってわかったから」

「なにか、とは?」

「よくわからない。言葉にできないんだ」

「なのに、最強を探すってのか? おまえ、どうかしてるな」

 おれは笑った。〝どうかしてる〟か。ぴったりの評価だな。

「すぐ旅に出るのか。ちょっとのんびりしてかないか」

「いや。求める神がいないならすぐ旅に出たい」

「じゃ、今夜だけでも。飯と寝台はおれに用意させてくれ」

「ありがたい。お言葉に甘えるよ」

「それと、目の治療も。いい軟膏がある」


 いやな予感がした。案の定、ひどい臭いだった。

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