六
こういう調べ物をするとき、正直、どこのだれに尋ねたらいいか見当もつかない。なので、通りの角に隠れて教会に出入りする者を見張った。身なりや態度、番人にどう扱われてるか観察すれば、事情をよく知り、いきなり聞いても不審に思わないでいてくれそうな人が分かるんじゃないかと考えたからだ。
甘かった。
出入りの業者や交代する下働きだろうと思われる者の出入りはあるが、そういう関係者に聞くのはかえって警戒されそうだし、内部の事情を教えてくれるとは思えない。これは徒労に終わりそうだ。
しかし、完全に無駄でもなかった。教会に出入りする信者はいずれも身なりが良かった。家紋付きの装飾品からして貴族やそういう家につながる豪商だろう。
一方で、信者としての庶民は見かけなかった。これがなにを意味するのか、見ているだけのおれには判断はつかない。
おれは腹をくくった。どうせ調査は素人だ。わからないなら変な小細工はやめてどこか人の集まる場所で聞きまくろう。それと、くくったついでに昼を腹に入れよう。
昼を出す酒場はすぐ見つかった。汁を一椀と、麦饅頭を一つ頼んだ。汁には肉の塊が入り、匙が立ちそうなほど濃かったし、麦饅頭は大人の拳二つ分ほどで柔らかかかった。そして水は腐るのを防ぐためか、すこし酒が混ぜてあった。それでもドゥミナウス領にくらべたら安い。ここらへんは景気がいいようだ。交易の地だからだろう。
「ご主人、おれはここらへんは初めてなんだが、ボーニタス教会、入れてくれないんだな」 勘定を気持ち多めに渡して聞いた。
「こりゃどうも。ああ、ご存じなかったんですね。あの教会、寄進の額で信者を区別するようになったんです。最近です。それで我々は教会には入れず、神官が回ってきて商工会の集会所か野天でお祈りですよ」 主人はお辞儀をして答えた。
「へぇ、変わってるね。なんでまたそんな風になったんだい」
主人は笑った。快い笑いじゃなく、変に乾いていた。
「そりゃ、旅のお人、決まってまさぁ。金と力が欲しくなったんでしょ。貴族一人、豪商一人の寄進は我々の十人分以上だし、持ってる人脈があたしらとは違う。おなじ愛想良くするならそっちにしますよ」
「でもそれじゃ、教会が商工会みたいじゃないか」 麦饅頭を大きくかじった。
「それ、柔らかいけど噛みごたえあるでしょ。今朝わたしがこねたんだ」 と、力こぶを作って見せた。
「ああ、うまい。よそでも話すよ。ここの麦饅頭はいいぞって」 話をそらされたので、それ以上は追いかけないことにした。教会に批判的な物言いをしたのはまずかったかも知れない。
それからは景気の話など当たり障りのない世間話に切り替えた。




