第4話『高校生だけど、美術館の出口がなくて詰んだ件』
「……勝手なことばっか言いやがって。」
直は舌打ちし、逆方向へ駆けだした。
出口は――たしか、この道をまっすぐ戻ればあったはずだ。
しかし、角を曲がった瞬間、息を呑む。
そこにあるはずの扉は影も形もなく、ただ一本の廊下が、果てしなく伸びていた。
白い壁はどこまでも均一で、額縁は虚ろに口を開けたまま、中身を失っている。
足を進めるたび、廊下はさらに長くなるように思えた。
やがて――遠くに光が見えた。
「出口……?」
希望にすがるように走り寄った直の目に飛び込んできたのは――
広間だった。
天井は高く、丸天井の中央には巨大なステンドグラスが輝いている。
淡い光が差し込み、白大理石の柱や彫刻を黄金色に照らしていた。
床には深紅の絨毯が敷かれ、燭台を模した照明がほの暗い光を落とす。
――まるで宮殿だ。
「……は、.....」
だが、直の胸に走ったのは畏怖だった。
豪奢なその空間には、出口がどこにもない。
磨き抜かれた大理石の床は果てしなく続き、扉の影すら見当たらない。
美しすぎるこの場所が、牢獄に見えた。
「……出口じゃ、ない……」
呟きは、虚しく天井に吸い込まれていった。
壁際に並ぶ巨大な彫像が、直の視線を引く。
老いた男、微笑む女、泣き叫ぶ子ども――どれも精緻で、生きているかのように生々しい。
美しさと現実感があまりにも強く、むしろ不気味だった。
「……なんなんだよ……」
直は深く息を吐いた。
大理石の広間は相変わらず静まり返っている。
ステンドグラスから漏れる淡い光が、彫像の群れに金の縁取りを与え、まるで彼らが神聖な儀式をしているかのように見えた。
……いや、違う。
違和感があった。
直は足を止め、眉をひそめた。
(――さっき、あの顔……こんなんだったか?)
視線の先、子どもの像がある。
泣き顔をした幼子の彫像。さっきまで確かに、目は閉じていたはずだ。
だが今は――
わずかに、瞼が開いている。
「……は?」
直は思わず後ずさる。だが、瞬きをした途端、それはただの石の像に戻っていた。
閉じた瞼。泣き顔のまま、動きはない。
(気のせいだ……気のせい、だよな……)
額にじわりと汗が滲む。
耳を澄ますと、かすかに――コ……コ……
石が擦れるような音が、どこからか聞こえた。
「……っ」
直は反射的に振り返る。
しかし、誰もいない。ただ、無数の彫像が沈黙を守っているだけ。
……いや。
沈黙、じゃない。
彼らの“視線”が、こちらに集まっている――そう錯覚させるほどの重さがあった。
背筋を冷たいものが這い上がる。
直は一歩後ずさり、次の瞬間。
――ギギ……ギギギ……




