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足ある限り突撃し、道理を蹴飛ばす

 工藤に力を分け与え、突如現れた怪物を打ち倒したところで、俺たちは泉に集合する。


「スキルの強化、ねえ……」


 真っ先に興味を示したのは、水空だ。願者丸に対して揶揄うような目つきを向けながら、ニヤついている。


「ウチの『鳥籠』も、成長の余地があるのか……ワクワクさせてくれるじゃん」

「感情係数によるかも」


 双子の弟である積田・(ベンジャミン)・天見が、俺の襟に体重を預けながら、スキルを強化するために必要な条件を語る。


「強い意志と強い魔力。2つがないと、絶対無理。2つともあっても、ちょっと大変」

「強い意志ってのは、なりたい自分ってヤツ? 無いなあ、今のウチには」

「じゃあ……ダメかも。ごめんなさい……」


 願者丸は忍者に。工藤は英雄に。それぞれ、将来の夢があった。

 水空はニートであり、日本に帰りたがっている。精神性が違いすぎるので、きっと条件を満たしていないだろう。


 落ち込む水空の肩を、末田が爆笑しながらびしびし叩く。


「工藤さんがああなるなんて、親友のわっちでさえ読めなんだ。気にしなさんな。お前さんの未来は不確定さ」

「……そうだ、ちょっと先のこと、占ってくんない? 進化なんかしなくても、活躍さえできればいいんだし」

「負け犬に大した未来は無いでありんす」

「クソがよお!」


 水空の適当な拳を、身軽に回避する末田。

 片腕しか無いというのに、よくあれだけ動けるものだ。加護の使い方が上手いのだろうか。

 深傷を負った者がああして気丈に振る舞ってくれると、士気の低下を防げるため、とても助かる。


 双子の姉である積田・(レヴェリー)・高嶺は、疲れ果てた表情で飛び回り、健気にも水空という圧倒的な暴力を止めようとしている。


「らんぼうはやめてくれたまえよ」

「わかったわかった。喧嘩してるわけじゃないから。ごめんね。怖かった?」


 水空は周囲を怖がらせ慣れている者として、気まずそうに宥める。

 高嶺は身なりや表情こそ凛としているが、やはり子供なのだ。人間に対して恐怖を抱くかもしれないので、あまり振り回さないでほしいものである。


「あの……」


 先ほどから置いてけぼりにされているクリファが、おずおずと申し出る。


「その小さいの、誰?」

「……言っていいのかどうか」

「いいでしょ。クリファちゃんだし」


 クリファだから。

 ざっくばらんな表現だが、実に的確だ。彼女はもう、俺たちの身内だ。


 矢羽の後押しを受けて、俺は事情を説明する。

 幼女神と、その居場所。願者丸との関係。神の掟。


「うん。だいたいわかった」

「本当か?」


 クリファの知能を疑っているわけではないが、一度の説明で理解できるほど単純な状況ではないはずだ。聞き流しているか、理解に抜けがあるのではないかと不安になる。


 しかしクリファは、まぶたが重そうな双子を見て、頷く。


「似てるから」

「俺と、この子たちが?」

「そう。特に、赤い子はそっくり」


 そうだろうか。俺はこんなに可愛らしくないのだが。


 しかしながら、クリファの感想を他の仲間たちも認めている。


「若干ぶっきらぼうな雰囲気に血筋を感じる」

「積田を反面教師にして、まっすぐ育ってくれ」


 確かに俺は斜に構えた陰気な男だが、子供の手本にならないと断言されると、流石に傷つくぞ。


 〜〜〜〜〜


 胸に双子を入れたクリファの案内を受けて、この国の王都へと向かう。


 山を越え、平野へ出る。

 裏儀式から逃げてきたらしい者と遭遇し、飯田のスキルで増やした食料を分け……その者たちを追ってきた裏儀式のチンピラ集団を蹴散らし……。


 途中で宴楽の祭りを展開し、避難民たちと共に休憩を挟む。


「霧の中から、屋台……。どういう仕組みなんだ?」


 飯田の率直な疑問に対し、宴楽は笑って受け流す。


「狐の宿みたいなもんさ」

「じゃあ、俺たちが食ってるのは……」

「葉っぱや石ころにはならねえよ。中で大釜盛が作ってんだ。だからこそ、限界もあるけどよ……」


 どうやら宴楽のスキルは、厳密には異空間を展開するものらしい。

 物も人も仕舞い込み、自由自在に運ぶスキル。さながらアイテムボックスだ。


「祭り以外にも使えそうだな」

「戦争屋にはならねえぞ」

「ちげえよ。商売目線だ。あと、避難用にもなる」


 飯田の提案で、王都からの避難民を祭りの空間に収容して……俺たちは進む。


 〜〜〜〜〜


 日本ではまず見られない広大な平野を抜けた先に、それらしき壁が見えてくる。


「壁で囲まれてるな……」

「あの壁、何? 戦争用?」


 水空がピリついている。ヒューマスキンにあったドームを連想しているのだろう。

 実際、あの壁からは剣呑な雰囲気を感じる。トゲや警戒色でアピールをしているわけではないというのに、どうにも血生臭さが漂っている。


「魔物から守るために、大昔の人が作った……。今も現役。魔力を注げば、結界が作動する」


 クリファは願者丸の背に体を預けたまま、解説する。


「昔の魔道具は大がかりで、儀式的だった。大勢で集まって、魔力を出し合って、ようやくあれを作った……みたい」

「古くからある町なんだな」

「だって、国の中心だし……」


 しばらく国の成り立ちを説明したあと、クリファは俺たちに停止を促す。


「止まって。危ないから」

「まだ距離があるが……」

「魔物用の防衛装置がある。ちょっと進むと、もう届くから……ここまでが限界」


 クリファの案内に頼れるのも、ここまでか。

 俺たちだけでは平野の中程で方向感覚を失い、迷っていたかもしれない。本当に助かった。


 俺たちはクリファを囲んで愛でながら、口々に感謝の言葉を伝える。


「ありがとう、クリファちゃん。元気でね」


 撫でる矢羽。


「飯、ちゃんと食えよ」


 飯を渡す宴楽。


「やめて……。よしよししないで……」


 小さなクリファは、紫色の瞳を潤ませている。恥ずかしさによるものなのか、それとも俺たちとの本当の別れを感じ取っているのか。


「また会えるさ」


 これで最後ではない。今生の別れには、まだ早い。

 平和を取り戻せば、きっとまた会える。生きてさえいれば、機会はある。


 涙ぐむ俺たちに向けて、輪の外から末田が叫ぶ。


「待て待て。わっちには何もないのか!?」

「そういえば居たな。お前ともお別れか」

「おい。もう少し寂しがっておくれよ」


 酒臭い。右腕しかない姿は哀れに見えなくもないが、本人の態度がこれなので、あまり悲壮感はない。


 飯田は末田の耳をつねり、からかう。


「クリファの護衛、ちゃんとできるか?」

「わっちを誰だと思っとる!? 歴戦だぞ!? 前から思ってたが、扱いが雑じゃないか!?」


 自業自得だろうに。まずアルコールを断て。次に口調を直せ。


 俺たちは末田の方に群がり、別れの挨拶をする。


「肝臓に気を使え」

「死んだら神に文句言ってくれ」

「お前ら……わっちが早死にすると思ってないか?」


 当たり前のことを抜かすな。


 一方、工藤だけは末田に優しい。旧友としての親しさを感じさせる手つきで、末田に縛り付けられたサイコロを撫でている。


「お互い、色々ありましたけど……次会うときは、もっと元気だといいですね」


 今は元気ではない。そう思っているのか。

 俺から見ると、末田はいつもと変わらない酔っ払いだが……工藤の目には弱って見えるのだろう。


「(さっきまでの振る舞いも、ただ強がっているだけなのか……)」


 末田は眉を下げ、唯一残った腕で工藤を強く抱く。


「腕のことは、気にしなさんな。魔道具なんて便利なもんがあるんだから、そのうち義手でも作るさ」

「風邪引かないでくださいね。たまには手紙、くださいね」

「あいよ。委員長も、お元気で」


 こうしてクリファと末田は、人の目を避けるルートで旅路を戻っていく。

 騎士団が使っていた小屋があるので、そこに滞在するらしい。無事だといいが、祈ることしかできない。


「いよいよ、だね」

「そうだな。いよいよだ」


 連れ添ってきたクラスメイトが、また離脱した。平和であれば、まず別れることはないというのに。


 俺たち日本人は、減るばかり。新しく転移してくることがない限りは。


「生きて帰ろう」


 せめて生ある限りは、隣にいてほしい。そう思いながら、俺たちは王都へ顔を向ける。


 〜〜〜〜〜


 王都を守る防衛兵器は、既に敵の手に落ちているようだ。

 現に、王都へ駆ける俺たちを狙い、次々に狙撃を仕掛けてくる。


「広がれ! 狙いを分散させろ!」


 魔力と共に飛んでくる、鋭い銃弾。この世界の不出来な銃を、そのまま大型化したようなものらしい。地球の最先端より遥かに弱いだろうが、それでも当たれば無傷で済まない。


 舞い上がる土埃を次々に追い越しながら、俺たちは壁へと迫る。


「全員、いるか!?」


 盗聴石で点呼をとる。どうやら全員無事のようだ。


 絶えず走りながら、俺たちは作戦を立てる。


「クリファの予想通り、壁近くに兵はいないな」

「まだ中で戦ってるのかも」

「しかし、兵器が敵に渡ってるとなると……もう手遅れじゃないか?」


 その可能性は高い。この国は、もう……。

 俺たちがもう少し早く辿り着けば、違う結果になったのだろうか。いや、これだけ攻め込まれていては、数時間の誤差でどうにかなるものではあるまい。


「この町に素駆がいる。間違いない」


 苛烈な攻撃を避けながら、俺は確信を持つ。

 理屈ではなく、感覚だ。素駆、裏儀式、ペール国の全てに触れてきたからこその感覚。


「素駆抜きでこれだけ攻め込むのは不可能だ」

「ヒューマスキンからこっちに直行したのかな」

「たぶん、そうだろうな」


 ここに来るまでの道中にも、たびたび裏儀式の痕跡があった。俺たちとは違い、流石に山を横切るルートは進まなかったようだが……。

 きっとあの平野でも、新生ペール国と騎士団の激突があったに違いない。


 砲撃が止んだところで、俺たちは横一列に並ぶ。

 壁に対して平行に、圧をかける形で。


「やるか?」

「攻め込まれていたら、これをやる。決めてあっただろう?」

「ま、一回こういうの、やってみたかったし。いいんじゃね?」


 沈黙している、魔道具の壁。高く長くそびえ立つ、ヴェルメル王国の古き財産。


 俺たちはステータス画面を出現させ、足の裏を押し付ける。


「せーの、でやるぞ」

「いつでもどうぞ」

「よし。せーの……」


 ステータス画面を蹴り飛ばす。

 神の力で守られた、無敵の掟。この世の何よりも無機質な不条理。

 そんな理不尽が、血に塗れた魔道具の壁を打ち破る。


「ふう」

「上手くできたな」

「これで少しは目立っただろう」


 崩壊した壁の向こうには、戦火がある。王国の民が、まだ抵抗を続けているのだろう。

 派手に目立った俺たちが、少しでも敵を引き受けられれば……助かる人が増える。


「できるだけ早く、蹴散らすぞ」

「おう」


 俺たちは散開し、王都奪還を目指す。

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