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はやく忘れてラクになりなよ

大学の最初の授業でたまたま話すようになった子が、ちょっと変だった話です!嫌な話!

2020.11.19

『はやく忘れてラクになりなよ』





 前まであまり話さなかったんだけど、あの中学からこの高校に来たのが私とめぐちゃんだけだったので必然的に喋るようになって、三年生になるまでずっと同じグループで過ごした。


 めぐちゃんは中学の頃からおしゃれであか抜けていた。私も一応そのころから同じグループにいたんだけど、めぐちゃんはみんなに一目置かれる存在っていうか……私なんて特に、野暮ったくて人見知りだし。だから同じ高校を目指していると知った時はすごく嬉しいと同時になんとなく恐れ多くて、合格発表二人で見に行こうよって誘われた日の夜は緊張して眠れなかったし、合格祝いに二人でファミレスに行った時なんて、夢の中にいるみたいで、私はいつにもまして挙動不審になってしまったと思う。めぐちゃんは自分と一緒にいる子がそんな感じになっちゃうのに慣れてるみたいで、特に言及してこなかったけど。


 入学式の前の日にふと、同じ中学から同じ高校に進学することになったのがよりによって私だけだなんて、もしかしてめぐちゃんは、嫌かもしれないなって思った。嫌な想像が膨らんで布団の中で泣いた。本当は嫌だけど、面倒だけど、鬱陶しいけど無理に話してくれてたのかもしれないって。高校に入ったらさっさと別の友達を作って、私のことなんて忘れてしまうのかもしれないって。私はきっと、二人で合格発表を見に行くために駅前で待ち合わせして電車に乗ったこととか、ファミレスでイチゴパフェかチョコパフェかなかなか決められない私にじゃあ両方頼んで半分こしようって言ってくれたこととか、一生忘れることができないのにって。


 でもそんな心配は杞憂に終わった。めぐちゃんは約束通り駅前に来てくれたし、一緒に選んだ定期入れを使ってくれていたし、私が髪を少しだけ茶髪にしたことにもすぐに気付いてくれた。私もめぐちゃんが、いつもと違うリップを使っているのにすぐに気付いたし、スカート丈と靴下の長さのバランスが完璧でまぶしくて、そのこともすぐに褒めた。


 茶髪にしなよ、と言ってくれたのはめぐちゃんだった。高校入る前にやれば、これ地毛です~で通るよって。さくちゃんの肌の色なら黒よりこげ茶の方が似合うよ。定期入れを買った後に、ドラックストアに行って髪染めと、その色に合わせたアイブロウマスカラとアイライナーを買った。あの時からずっと私は、同じ髪染めとマスカラとライナーを使っている。


 大学生の今になるまでずっと。






***






「桜、って。可愛い名前だね」


 そう言ってから、まるで気障なナンパ男みたいなことを言ってしまった、と愛は焦った。別にそんなつもりじゃなかっただんけど……そりゃ、お近づきになりたいと思って声をかけたわけだけど。


 愛の言葉に驚いて顔を上げた彼女は、きょと、と丸い目でこちらを見て、それから困ったように笑った。


「四月生まれだから……安直だよね」

「そんなことないけど。私なんて“愛の結晶”で『愛』だよ。くだらない」


 ほら、とネームプレートを見せる。学生課の職員から渡された安っぽいプラスチックのケースの中に、手書きのフルネームが入っている。彼女も同じものを、首から下げている。


「これで“あい”って読むの?」

「? それ以外にある?」

「友達がその漢字で“めぐみ”って読むんだ」

「あぁ~」


 最初にこちらを見てからまたすぐにうつ向いてしまった桜。こげ茶の肩につくくらいの髪はゆるくウェーブがかっている。眉もアイメイクも整えられていて、小ぎれいな身なりだ。というか愛からしたらこのオリエンテーションに参加している子たちはみんな小ぎれいに見える。大学進学を機に東京に出てきて、愛は毎日圧倒されていた。着いてくのに必死って感じ。


「あの……愛ちゃんは、どこから来たの?」

「静岡。すっごい田舎」

「へぇ、じゃあ、これから一人暮らし?」

「昨日引っ越しが済んだところなんだ~」

「いいなぁ。私は実家から」

「そっちのがいいじゃん、都会っ子め」

「ハハ、え~?」


 くすくすと笑うとまつ毛がふわふわ揺れた。どちらかというと派手な見た目なのに、話し方はおとなしくて優し気で、なんとなくちぐはぐな印象の女の子だった。さっきから全然目が合わないし。


 顔を覗き込んだ。桜はびくっと肩を跳ねさせてまた瞳をきょとっとさせた。


「メイクすっごい綺麗。そういうの、自分で練習したの?」

「じ、自分でっていうか……友達が詳しくて、教えてくれてたの、高校の間」

「さっきの“めぐみ”?」

「うん……私、金魚のフンだったから」


 不意に冷たくなった言い方、一瞬かたまった愛に気付いた桜はまた困ったように笑った。


「愛ちゃんもメイク、きれい」

「え~そんなことないよ、するようになったの最近だもん。教えてほしいくらい」

「わ、私に?」

「そう。ねぇ、この後時間ある? 駅中のロフト付き合ってよ」


 と、誘ったタイミングで講師が入ってきて、チャイムが鳴った。午前中いっぱい、授業の組み方だのゼミの紹介だの、頭に詰め込まなければならない話ばかりで疲れていたけれど、ようやく目当ての子に声をかけられたので、愛は満足していた。




 四月の頭、まだ授業は本格的に始まっていないようで、学食は空いていた。利用者のほとんどが新一年生だろう。桜と二人で昼食をとり、約束通り駅の中にあるショッピングモールに向かった。


「あ、これ……今使ってるアイシャドウ」

「へぇ~」

「チークも同じブランド」

「好きなの?」

「友達が好きって言ってたから」


 また“友達”。よほど仲が良かったのだろう。商品を手に取り、テスターを手の甲に塗る。桜も商品の一つを手に取っている。


「大学どこ行ってるの? その友達」

「都内だよ。頭良いとこ」

「そうなんだ」

「この色とか似合いそう、愛ちゃん」


 話題を逸らすように言った桜は、薄く微笑みながら小さなアイシャドウを一つ差し出した。薄桃色で、シルバーの細かいラメが入っている。愛は中高とバスケばかりしていたので髪もずっと短くて、だからそんなかわいらしい色を塗るのには抵抗がある。


「そ、そうかなぁ、可愛すぎない?」

「そんなことないよ、愛ちゃん肌白いから似合うよ」

「そういうもん?」

「うん。これに、このアイライナー使えばいいと思う」

「使ったこと無い、リキッドの」

「あ~じゃあ、同じブランドでパウダーのが出てるから……」


 最初のおどおどした印象とは打って変わっててきぱきと化粧品を選んでくれる桜に若干圧倒されていたら、そんな愛の様子に気付いたらしい彼女はぎくっとしておそるおそる愛を見上げた。


「ごめん……押しつけがましいよね」

「そんなことないよ、嬉しい。ちょっとびっくりしちゃっただけ。コスメ好きなんだね」

「別にふつうだよ。えっと、私もこれ買おうかな」


 桜は照れ臭そうに笑って商品を手に取り、ごそごそとカバンから財布を取り出した。それと一緒にぽろりと定期入れが落ちたのを、拾い上げる。


 それは、随分使い込まれた定期入れだった。元はサーモンオレンジのような色合いだったのだろうが、すっかり色あせてまだらのベージュカラーになっている。角は擦れて四隅とも折れ曲がってしまっているし、縫い糸もところどころほつれている。桜はあっと言ってそれを愛の手から奪った。


「ご、ごめん、ありがとう」

「ううん……大事なやつなの? それ」

「……なんとなく替えられないだけ」


 へへ、と眉を垂らして笑った桜と、また目が合わなくなってしまった。ちぇ、と思いつつ言われた通りのコスメを買って、改札に戻る。改札を抜ける際、桜は先ほどの定期入れを、手の中で隠すようにして押し付けていた。






***






 桜とはそれからとても親しくなった。一年生だから、同じ学科の同じ学部、しかも同じクラスだったので必修科目はほとんど一緒で、選択科目もいくつか被ってたし、あと会話をしながら桜が「私もそれ気になってたの」と言って何個か一緒に授業を取ったりもした。


 毎日顔を合わせたし、昼も毎日一緒だった。たまに愛が別の友達も一緒に良い? と言うと私も今日は別の子と食べるね、と断られてしまう。そんなわけで桜とはいつも二人きりで行動した。


「バスケってそんなに楽しい?」


 愛は大学に入ってからもバスケを続けていた。高校を卒業する時はもう二度とやらねぇと思っていたけれど、なんだかんだで好きなスポーツではあるし、見学に行ったらそこまでがちがちに練習って感じでもないようだったので、趣味みたいな気軽さでサークルに所属した。


「楽しいっていうか、もう呼吸みたいな感じっていうか」

「なにそれ」

「本読んだり映画見たり、なんとなくやろうかな~ってすることが、私の場合バスケなんだよ」

「ふ~ん……」


 桜はよくわからないって顔をしていた。彼女はどのサークルにも所属していなかった。


「やってみる? バスケ。来月から外部交流も始まるみたいだし楽しそうだよ」

「私はいいよ、運動苦手だし……」

「え~。桜もいたら楽しいのに」


 甘えてみせたけど、桜は少し唇を尖らせて愛のことをちらっと見て、すぐに目を反らしてしまった。


「私はバスケしてない時の愛ちゃんが好き」


 なにそれ、って思ったけど、桜がこんなふうな子どもっぽい嫉妬をしているのを見るのは初めてだったので少し嬉しかった。




 後日。その日はバスケサークルの子たちに誘われて大学の近くの定食屋でお昼ご飯を食べることになった。今日こそ、と思って桜に連絡してみたら、私もちょうどクラスの別の子と食べる予定、と断られてしまった。ちぇ、と思いつつ、まぁでもいつものことか、とサークルのメンバーと連れ立って校舎を出る。


「あ、忘れ物した!」

「え~」

「ごめんすぐ行く、みんな先行ってて」


 さっき授業を受けた教室にサブバッグを忘れてしまったのに気付き、一人校舎に引き返す。


 授業を受けた教室は一階にあり、教室の隅のテーブルに置き去りにされている自身のバッグを見付けて慌てて掴んで、ほっと一息ついた。今日の夕方からのバスケ用の着替えが入っている。


 教室を出て、ロビーを抜け、ふと視線の先に桜を見かけて、あれ、と立ち止まった。


 桜はロビーを抜けた先のテラス席で、一人で昼食をとっていた。


 待ち合わせをしているんだろうか。でも、ここで愛が声をかけるのも、断られた手前気まずいし。さっと顔を反らして、駆けるようにして大学を出た。妙な胸騒ぎがした。




 その胸騒ぎは次第に違和感へと変わっていった。


 どうも桜は、愛以外の学友とあまり交流していないようだった。同じ授業を取っている時は毎回隣の席で、それ以外の時は一番後ろの席でぽつんと一人、授業を受けていた。それだけなら別に普通だと思うのだが、愛が、桜と同じ授業を受けている友達がいるから紹介しようとしたりすると絶対に断られてしまう。逃げられる。サークルにも所属していないし、クラスの飲み会にも参加しないし、愛以外との交流を、避けているようだった。


「アイライナー変えた?」


 ある日の昼休み、唐突に桜がそう言って愛の目をまじまじと見た。


「目ざといね。最初に桜に選んでもらったリキッド買ってみたんだ~」

「でも、色違くない?」

「うん、目の色に合わせてこっちの色使ってみたらって、店員さんが」

「……ふぅん」


 出た、ふうん。桜は何か納得がいかない時「ふ~ん」と言う癖がある。ちょっと笑ってしまったら、桜はますます不機嫌顔になった。


「私は前の色、似合うって言ったのに」

「ごめんって。でも別に私の顔で何使ったって、そんなに変わんないよ」

「愛ちゃんにとっては私のアドバイスなんてそんな簡単に覆せる、ゴミみたいなもんなんだね」

「ゴミみたいなもん、って……」


 冗談で大げさに言ってるんだと思ったが、桜は真剣な顔で愛を見詰めていて……ビューラーでしっかり持ち上がったまつ毛、いつものアイライナーに縁どられた眼球がみるみるうちに潤んでいき、ぽろりとこぼれた。愛の表情は中途半端な笑顔でかたまった。


「ちょ、泣くことないでしょ……」

「……」

「桜ぁ、ごめんって。すぐ戻すから」

「……もういいよ」


 桜は頬に涙を流したまま立ち上がり、食べ掛けのランチのお盆を持って返却口へスタスタと歩いて行ってしまう。やれやれと思いつつ愛もお盆を持って後を追った。




「ごめん、泣いて」


 食堂を出てテラスに着いた時には、桜の涙は止まっていた。ハンカチで頬を押さえる仕草がなんとなく未亡人っぽくて、見てはいけないような気がして、慌てて目を反らした。


「いや、私も……せっかく桜が選んでくれたのに、ごめんね」

「……私めんどくさいよね」

「そんなことないよ」


 それ以外なんて返せっていうんだ。しかしまぁちょっとめんどくさいと思わなくもなかったけど、それだけ愛の動向を気にしてくれているってことだし、愛の周りは今までサバサバした子ばかりだったのでこんな子初めてで、新鮮でもあった。


「高校の時も、この性格のせいで……」

「……? あぁ、友達? え~っと」


 たしか愛と同じ漢字で、別の読み方の名前なのだ。愛がその名前を思い出す前に、また桜が泣き始めてしまってハンカチで目を覆うので、慌てて肩を抱いてよしよしと撫でた。桜は女の子らしい華奢な体躯をしていて、身体も愛みたいに筋張ってないし、ふわふわと柔らかい感じがした。


「ごめんね、愛ちゃん……」


 謝るくらいなら怒らなきゃいいのに。でもその不器用な感じも愛にとっては微笑ましくて、いいよ、と言って肩を撫で続けた。


「なんか言われたの? その友達に」

「……」

「今の桜の友達は私だからさ。過去のことは忘れて」

「……うん」


 結局自分で買ったアイライナーはその後使わなかった。単純に、リキッドタイプが使いにくかったから。






***






「え、愛ちゃんって○○高なの? あの静岡の?」


 バスケサークルの外部交流で都内の体育館に行った。愛のところと、他に三つくらいの大学のバスケサークルが集まった。全部で二十人くらいの結構大規模な会になった。高校の部活と違って気楽に試合ができるので、やっぱり愛はサークルに入ってよかったなと思ったし、桜も入ればいいのにと思った。今日誘えばよかったな。


 お昼の時間になって、予約していた食堂に着いた。同じテーブルについた隣の席の子となんとなく話し始める。


「めっちゃバスケ強いとこじゃん! 道理でうまいわけだよ~」

「そんなことないって、ずっと補欠だったし。シンドーさんもうまいね」

「あたしは高校時代ずっとレギュラーだったからね! まぁ部員少なすぎて全員レギュラーだったけど」

「アハハ」


 シンドーさんはみんなから“シンドー”と呼ばれていた。たぶん新藤とか進藤とかそういう苗字なんだろう。読者モデルのような見た目をしていて今日の朝に顔合わせをした時にも同じ大学の子と「あの子かわいいね」って話をした。話してみたらすごく気さくで、このギャップはモテるだろうなぁと思った。みんなのまとめ役って感じだ、注文もてきぱきと取りまとめて、悩んでる子におかず半分こしようとか言ってあげたり。


 談笑しながら食事を進める。途中何度もかわるがわる男子が愛の席を狙いにきたけれど、絶対に退かなかった。なんとなく、そういう役目かなと思って。追い払うたびにシンドーさんとそのお友達たちがウケてくれるのでちょっと調子に乗ってしまった。


 テーブルのみんなの食器をまとめて持ち上げる。シンドーさんも付き合ってくれた。


「愛ちゃんの“あい”って、LOVEの愛?」

「そうだよ」

「あたしその漢字で“めぐみ”っていうんだ、名前」

「……へぇ?」


 あれ、なんだかその話を、聞いたことがあるような。事象をちゃんと思い出す前に脳裏に桜の顔が浮かぶ。たしかそのお友達は頭の良い大学に通っていると言っていた。彼女の大学はそれなりに有名で偏差値も高い。


「シンドーさん、都内出身だよね?」

「え? うん」

「桜って子、知ってる? 真島桜」


 その名前を出すと、シンドーさんは「あ~」と感嘆を洩らした。苦笑いのような表情。


「さくちゃん、友達だった」

「やっぱり。名前のこと言われたことあるんだ、友達に同じ漢字の名前の子がいるって」

「そっかそっちの大学か。え、なに、知り合い?」

「まぁ」

「あたし中高が一緒だったんだよね、話すようになったのは高校に入ってからだけど」


 それから桜の昔の話を聞いた。


 中学、高校の頃の桜はとても物静かな子だったそうだ。自分の意見も言わないし、いつも文句も言わずにみんなについてくるだけ。高校で一緒になって、そんな桜に愛(めぐみの方)も、最初のうちはなんだかんだと世話を焼いていたがだんだん嫌気がさして、最終的に「あたしのことはいいから自分で決めなよ!」と突き放してしまったそうだ。


「あの子迷惑かけてない?」

「ハハ、なにそれ、親みたい」

「冗談じゃなくさ~……心配だったんだよ、このままじゃこの子どうなっちゃうんだろうと思って」


 その言い方が世話焼きのお姉さんって感じで和んだ。テキパキと注文をとっていたシンドーさんを思い出して、その姿が、出会って最初にショッピングモールで愛に化粧品を選んでくれた、桜の姿に重なった。


 桜はシンドーさんに、憧れていたのだ。シンドーさんみたいに、なりたかったのかも。そう考えると桜のことがいじらしくて面倒くさくてたまらなくなった。生のシンドーさんを見てしまうと、桜とは明らかにタイプが違うし、釣り合ってない、とまでは言わないが……愛も、こういう子といる方がラクだな、と思ってしまう。


 食器を返し終わって、なんとなくみんなのところに戻りがたい気分になって、シンドーさんもそう感じたようで「自販機行かない?」と誘われた。二つ返事でオッケーした。


 時刻は一時を過ぎたあたりで、今日は朝からよく晴れていた。近くに体育館と、あと図書館やレンタルスペースなども多くある場所なので、食堂の前の通りには結構人がいた。


 紙コップで出てくる自販機で、愛はコーラ、シンドーさんはアイスコーヒーを買った。梅雨入り前の蒸し暑い季節。外にいるとすぐに汗が出てきた。


 電子マネーのカードで決済をした。シンドーさんの定期入れは今流行りのバンドのライブグッズだった。


「あたしさぁ、愛ちゃん結構好きかも」

「ふはっ」

「ライン交換しようよ。てかどっか遊び行こ。スノボとかやる人?」

「ん~やったことないけど、興味は……」


 自販機の近くの簡易ベンチに腰をもたれかけてそんな話をしていて、ふと顔を上げたら。


「……っ」


 通りを挟んで向こう側の歩道に、桜が立っていた。一人で、日傘をさして、そこに居た。愛と目が合っても表情一つ変えなかった。


「あたし結構うまいんだ~。教えてあげるね。……愛ちゃん?」

「……あ、うん?」

「だから、スノボ。行こうよ、冬に」

「あ、あは……まだ夏だよ?」

「目標があれば頑張れるでしょ! それまで試験だのレポートだの……」

「そっちの大学大変そうだもんね」


 視線を一度シンドーさんに向けて、再び桜に向けたら、もうそこにいなかった。飲み物を飲み終えて、連絡先も交換して、みんなのもとに戻る途中で桜に「さっき何してたの?」とメッセージを送ってみたけれど、既読にもならなかった。




おわり

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