約束※
最終話になります。
※残虐描写あり
既に祭壇の周りには誰もおらず、物言わぬ屍が3つ転がっているだけだった。
朱殷は小さな盛り土を見つめる。
そこに『イミチノムスメ』がいるという。
うなじがチリチリと細く湧き立ち、臓腑から何かが逆流してくる感覚に襲われる。
朱殷は爪が剥がれるのも厭わずに、ただその盛り土を掘り返し始めた。
(カミコ)
(イミチノムスメ)
(カミコ)
(イミチ)
(カミコ)
3枚目の爪が剥がれた時、ようやく何かが見えた。
そこらかしこが土まみれになっているものの、それは身に覚えのある柔らかいあの白髪だった。
◆◆◆
いつものように胡座の上にハナを座らせる。
「寒かったな」
力を込めて抱きしめる。
川でびしょ濡れになった時よりも、更に冷たい土まみれの身体を抱きしめる。
「綺麗な髪なのに汚れちまって」
髪を撫ぜると、ポロポロと土塊が落ちていく。
何度も何度も撫ぜては、手櫛で解き、綺麗に綺麗に整えていく。
「俺が帰ったら、南へ行って腹いっぱい食うんだろう?悪かったな、遅くなって」
人が儚くなると、こうなるのか。
朱殷はぽかりと空いた胸をどう埋めればよいのかわからなかった。ただひたすらハナに話しかける。
死後、魂はしばらくの間身体のそばに存在するという。
だから、いつものように話しかける。
別れの言葉など絶対に言わない。
きっとお前は嫌だと泣くだろうから。
「輪廻に還るのにビビっているかもしれねぇけど、大丈夫だからな。必ず迎えに行ってやるから。そしたら今度こそ南に行こうな」
双眸から溢れそうになる涙を必死に堪えながら、朱殷はへにゃりと笑った。
◆◆◆
どれくらい時が経ったのか。
朱殷はハナを片腕でしっかりと抱いたまま川辺に立っていた。
「川よ、全てを飲み込め」
片手で川底を持ちあげると、それは数多の川床の石という石、岩という岩を巻き込んだ濁流となり、東の村アガシャを飲み込んだ。
その波は更に遠く遠くへ伸びていく。
上流から下流へと溢れ出し、鬱蒼とした森をいくつも飲み込んだかと思うと、そのまま西のドマの地までも飲み込んだ。
人々に逃惑うが、神の怒りは止まることを知らぬ。
全てを沈める轟音は夜が明けるまで鳴り響いた。
その日、東西の二つの村が神の怒りによって水底に沈んだ。
以来、厄神は神の国に戻らず人の世にとどまった。
いつか転生する愛し子を迎えに行くために。
それはまた、別の物語ーーーーー
お読みくださった方、どうもありがとうございました(*´ー`*)
医療業界末端としての死生観を描いてみました。
現代よりも死が身近にある古代設定なので、結末には賛否両論あるかとおもいますが、転生して再び巡り会えた時はガッツリ幸せになっている予定です。




