人攫い※
この話から死に関する残酷描写が始まりますのでご注意ください。
「野暮用が出来たから少しばかり出掛けてくるが、日暮前には戻るから待っていろ」
朱殷はそういうと、そそくさと出掛けて行った。
先日貰った大きな毛皮の代償を叶えにいくためだ。
久しぶりにひとりになったハナは、鼻歌を口ずさみながら家の中で菰の下に寝藁を足す。
2人で寝るとどうしてもヘタリが早い。それでも2人で寝ていると暖かくよく眠れた。
今日は何の話をしてもらおうか。
朱殷は色んな話をしてくれる。遠くの国や海とかいう大きい川のようなものの話、美味しい食べ物の話。
そして、ねだれば恥ずかしそうに歌ってくれる。
「おい」
突然、外から呼ばれてハナはどきりとした。
「騒ぐな。黙って出てこい」
その声色は低く暗い。
ハナは一瞬息が吸えなくなり、ヒュッと喉が鳴る。
「誰」
「黙れ」
「早く出てこい」
「傷つけるなよ。血は不浄だ」
苛立たしげな男の声が増える。
男はひとりではなかったようだ。
どうしよう、とてもではないがこの目で複数からは逃げ切れない。
◆◆◆
男達に前後を挟まれ、川縁に沿ってハナ達は進む。
両腕を綱で結ばれて引かれているせいかうまく歩けず、ハナは何度も躓きかけるがその度に後ろの男から髪を掴まれたので、幸か不幸か転ぶことはなかった。
「早く歩け」
(朱殷)
(朱殷)
(一緒に南に行くって約束したのにごめんね)
(朱殷)
(朱殷)
(ーーー会いたいよ)
◆◆◆
毛皮の分だけの禍をもたらすため、朱殷は川辺の大岩に座り、どの程度氾濫させるか考えあぐていた。
下流のハナに万が一のことがあっても困るし、また梟のジィさんに小言を言われるのも億劫だ。
「水路を壊せ」
水路2つばかり壊したところで一息つく。
水田用の水路なのでこれなら毛皮の対価としては十分だろうし、ハナの住む下流に害はない。
(早く帰ってあいつを暖かい南に連れて行かねば)
朱殷は荒屋に急ぎ戻った。
しかし、何故かハナがいない。
いつもの川辺もククの実が生えている場所も、いくら探してみたものの、ハナはどこにもいなかった。
まだ鼻水を垂らしているくらいだからそう遠くへは行っていないなずなのにーーー
(もう一度森をさがしてみよう)
結局ハナは見つからなかった。
ただ時間だけが過ぎ、夜の帳が下りていった。




