第75話 6人の族長 2
「オラぁっ!!」
フリートが開幕と同時に突っ込みつつ掛け声とともに両腕に纏わせた炎を唯人に向かって放つ。
(完全無詠唱か…いや、この感じは…あの叫びが魔法名か!?)
フリートは「オラぁっ!!」という気合の叫びのみで魔法を発動させ唯人へと魔法を放ったのだ。
予想外の技術にわずかに反応の遅れた唯人はそれを半歩身体をずらしかわすがその先に寸分たがわずシルフィーが放った魔力を纏った矢が飛来する。
「そこに逃げたくなるよね~!」
(読まれていたか。この矢を返してもいいが…一旦回避して様子を見た方が良さそうか?)
「…甘い、大地噴出…」
その矢も首をかしげるようにしてかわそうとするがロクサンドが地面に両手を付け魔法を詠唱すると地面が盛り上がり強引に唯人を射線へと押し上げる。
突如として避けたはずの矢が必殺のものへと変貌する。
(これも回避するしかないな)
唯人はピエロらしくコミカルな動きで仰け反るように矢を回避する。
「…」
するとその仰け反った視線の先には音もなく忍び寄っていたシェイドのナイフによる攻撃が置かれていた。
無理な体制の状態での刺客からの攻撃に対し、唯人は無理に回避することを選ばずより仰け反るように体を反らし回避、そのままバク転するように身を投げ、そののちに両足でシェイドの手を蹴り上げるようにして弾くと追撃してくるであろう他の5人へと視線を向ける。
その視線の先に映ったのはリリアンの魔法による太陽を直視する数倍にも感じるほどのまばゆい光。
その光に紛れフリートが再び突っ込んでくるのが逆光の中にわずかに見え身構えるとフリートは唯人の眼前で体を僅かにずらす。
そのフリートの身体で隠されていた空間から今までじっくりと詠唱していた、しかし発動の瞬間を悟らせないために魔法名を省略した逆無詠唱ともいうべき方法で青髪のエルフから放たれた強力な魔法が襲い掛かる。
(フリートは既に次の攻撃態勢に入っている、シルフィーも既に矢をつがえているしロクサンドもそのフォローに入るために待機していて隙は無い。シェイドも気配を消してどこかに潜んでいるしリリアンは味方への支援を続けている)
唯人は周囲の状況を瞬時に把握すると、青髪のエルフの魔法をあえて受け、ノックバックする要領で6人と距離を取る。
それにより大きく距離が離れたことでフリートとシルフィーの追撃は空を切り一旦仕切りなおしとなる。
「…ディーネのあれを受けきるとは…さすがはかの御方に選ばれたってところか」
「避けられたならフリートのせいにしようと思ってたけどまさか正面から受けきられるとはね」
「も~!僕とろっくんの連携までよけちゃうなんて!」
「…ああ、あれを避けるとはな」
「閃光/フラッシュの魔法も効果が薄いようです」
「ああ、あのタイミングの奇襲に反応できるなら『目』を潰したところで決定打にはならなそうだ」
6人の族長はそれぞれに感想を口にし改めて唯人に向き合う。
「なら今度はちょっと趣向を変えて仕掛けるか」
フリートがそう口にし再び両腕に炎をまとわせる。
「それ?フリートに合わせるの、あまり好きじゃないんだけど」
ディーネと呼ばれた青髪のエルフは不満そうにそう言うがそれだけでフリートの意図を察したのかその両腕には渦を巻くような水流が現れる。
「僕は嫌いじゃないよ!今度こそ当てるんだから!」
シルフィーは嬉々として複数の矢をつがえその矢に竜巻を圧縮したような強力な風をまとわせる。
「…派手にやりすぎるな。ヤツの後ろには森があるのだ。無意味に被害を出すべきではない」
ロクサンドはそう言って魔法を詠唱すると唯人の背後に湾曲した岩の壁を作り出す。
それは唯人の背後の森に被害を出さないだけでなく、唯人の行動を阻害する意図をもって作られたものであった。
「私もサポートに回ります。皆さん、存分に」
リリアンはロクサンドと共にサポートに回ると言うがその手に込められた魔力の輝きは単純に味方を補佐するだけのものではないということは込められた魔力で明白であった。
「好きにしろ。隙があれば私が仕留めるがな」
そういったシェイドは自らの気配を希薄にし、他の族長が放つ魔力の中へと紛れ込む。
6人の族長たちは最初から唯人を警戒していたが、先ほどの一連の攻撃を無傷で逃れた唯人に対しわずかな侮りがあったことを認めるとともに一定の敬意と抱いていた。
その意を含んだ視線を受けてなお唯人は鷹揚に構える。
「先程の攻撃、威力、連携共に素晴らしいものでございました。今回はそれ以上のものを拝見させていただけますので?」
そう慇懃に問う唯人にフリートはニヤリと笑うと
「そんな高尚なもんじゃねぇ。これからすんのは…ゴリ押しだ!」
そう言って両腕の魔力を交互に魔法として解き放つ。
「オラオラオラオラァっ!!!」
「ああ、もうっ!ちゃんと合わせなさいよっ!火炎大渦/フレイム・メイルシュトローム!!」
フリート独特の魔法名による無詠唱の魔法が放たれる。
右腕に続いて左腕、その間に再び魔力をまとわせた右腕を再度。それを繰り返し絶え間なく炎の魔法放つがその合間には同じようにディーネの魔法が互いに干渉しない間隔で放たれる。
それがディーネの魔法制御によって一つの大渦となり唯人に襲い掛かる。
それと同時に空中にいるシルフィーは弓と矢に魔力込めていた魔力を解き放つ。
「いっくよ~~!千の疾風/サウザンド・ゲイル!!」
つがえた矢と共にその名の通り千にも届く数の魔法の矢が放たれる。
その矢は唯人を狙うだけでなく広範囲に広がり正に面制圧となって唯人の回避を封じようとしていた。
また、唯人を捉えることなく地面やロクサンドの作った壁に着弾したものも突風を巻き起こし、常人ならば軽く吹き飛ばされる程の威力をばら撒き自由を許さない。
ロクサンドとリリアン、シェイドは未だ動きは見せていないが、他の3人だけで個人に向けるには過剰な火力であることは明らかであった。
「やったか?」
その火力によって巻き上げられた砂埃によって唯人の状態は窺い知ることができずフリートが静かにそうつぶやく。
「シルフィー、あんなに砂埃を巻き上げてどうするのよ…」
主に砂埃を巻き上げた張本人であるシルフィーに苦言を呈しながらディーネが水の魔法で打ち水をするように砂埃を抑え始める。
「えへへ、ごめ~ん。…あっ、見えてきたよ!」
あまり反省していない様子のシルフィーが言うように砂埃が晴れ始める。
「「「「「!?」」」」」
砂埃が晴れた先に人影が見え族長たちが驚きの表情を見せる。
その視線の先にあるもの。
それは無傷で佇む唯人の姿であった。




