第76話 ジャグラー
砂埃が晴れた先に現れた唯人は静かに佇み、しかしながらその両手はせわしなく動いていた。
砂埃が晴れていくのと同時に唯人は前へと歩き出す。
そしてその手は玉のようなものを次々とへ放り上げると同時に落ちてくるそれらを巧みに受け止めては間髪入れずに放り上げる。
所謂ジャグリングを行いながら唯人は姿を現した。
9つの玉が弧を描いて宙を舞い右手から左手へ、左手から右手へと∞の軌道で移り変わり美しい放物線の軌跡を描いている。
その美しさの理由の一旦としてはその玉の色。
その球は赤、青、緑の3色でそれが高速で入り乱れることで単純な3色ではない様々な色を作り出していた。
そしてその玉が何なのかフリートたちは瞬時に理解する。
「ありゃぁ、俺らの魔法か?」
「そんなわけ…と言いたいけれど自分の魔力がわからないほど愚かではないわ」
「え~~っ!僕の魔法盗ったの~~っ?どろぼーーーー!!」
フリートたちが言う通り唯人がその手で弄ぶそれはフリートたち3人が放った魔法であった。
唯人は彼らが放った魔法をその手に収め、ジャグリングの要領で軽快に放り投げていた。
そして彼らが驚いているのはそのジャグリングの技術ではない。
「俺らが放った魔法はあんな小さな玉っころに収まるようなもんじゃあねぇはずだよなぁ?」
「ええ、仮にあの玉の分だけ手に取ったとして余剰の威力はその身に受けたはず。それなのに無傷なのだからどちらに転んだとしてもおかしいことに変わりはないわ」
「そもそもなんで僕たちの魔法を持ってるの~~?」
「「「「「!!!」」」」」
シルフィーの発言で族長たちは気づく。
唯人が持っているものが彼らの魔法であるならば、なぜ持つことができるのかということに。
「確かに、そりゃあそうだよな」
「一時的に弾くならともかく…」
「手に持ってるのに怪我したりしてないしね~~」
「…それに属性だ」
「相反する属性で効果を相殺するならわかりますが…複数の属性をあの僅かな合間に正確に切り替えられるものでしょうか」
魔法に精通するエルフだからこそ唯人の異常性に気付き始める族長たち。
その異常性に戦慄している間にも唯人は一歩、また一歩と歩みを進めてくる。
「皆様にもパフォーマンスを楽しんでもらえたご様子で――」
唯人はそこまで言うとジャグリングしている玉を起点にして瞬時に180度体を入れ替える。
「っ!?」
その瞬間、唯人が数瞬前までいた場所に音もなく現れたシェイドの刃が空を切る。
そして体の位置を入れ替えた唯人は軽くスキップするような動きで足を振り上げるとシェイドの持っていた刃、先ほどのナイフとは違うレイピアのような細身の剣を彼女の手から弾き飛ばし、逆の足で勢いの付いた彼女の背をそっと押すように他の族長たちの元へと蹴り飛ばす。
ついでに彼女の手を離れたレイピアもジャグリングの輪の中に入れ、変わらず滑らかな弧を描き続けていた。
「ぐっ!?」
軽くとはいえ蹴り飛ばされたシェイドを体格に似合わない素早さで駆け寄ったロクサンドがそっと受け止める。
「すまん…」
シェイドはぶっきらぼうにそう謝罪するが彼らは彼女が奇襲の失敗に対する謝罪と受け止めてくれたことへの感謝でそう言っていることを知っており、そのうえでそんなことなどは求めていないことを知っているのでその場しのぎの慰めを口にすることはない。
だが事実として起きたことについては別だ。
「あのタイミングで、しかもあんなふざけた真似しながらシェイドの奇襲をかわせるかぁ?普通?」
「普通は無理でしょうね。普通は」
「そんなの最初から分かってたじゃん!あんなカッコしてるのが普通なわけないよ!」
「…異常な個体」
「そのようですわね。風体はもとより魔力をあのように持つなど異常としか言えませんわ」
「ああ、私の奇襲を回避したのも攻撃を開始する前には動き出していた。その察知能力も異常だ」
それぞれが各々の感想を口にする間も唯人はジャグリングを続けていたが彼らの言葉が進むにつれて元の動きが速くなっていく。
「ふ、ふふっ…私などそのようなたいしたものではございませんよ。このくらいのことは普通でございますよ…おっと手元が――」
唯人は苦し紛れにそんなことを口にしながらすべての玉を高く放り投げる。
「――これはこれは、失敗失敗。後片付けをしなくては」
わざと言い聞かせるようにそうつぶやくと手元に残していたレイピアを空を穿つように切っ先を送り込む。
「「「「「「!!!」」」」」」
突き込まれたその刀身には唯人が今までジャグリングしていた魔法がすべて、しかも各色が交互に貫かれていながら崩壊することも互いに干渉することもなく保持されていた。
(風香や梢は「お団子みたい」とか言いそうだな)
そんなことを思った唯人は仮面の下で「ふっ」と笑うと改めて族長たちに向き直る。
「さて、先ほど泥棒などと言われてしまいましたがもちろんそのようなつもりはありません――」
そう言ってその『団子』状態となったレイピアを水平に引き絞り、
「――ですのでこちらはお返しいたします」
続いてそう口にすると同時にレイピアを薙ぎ払った。




