第74話 6人の族長 1
完成間近のこの話を誤って消してしまったため心が折れたので昨日の更新はお休みをいただきました。
書き直して良くなった部分もあると思いますが描いたつもりになって抜けている部分があったりするかもしれないので(一応推敲はしていますが)おかしいところがあればご指摘ください。
風香の独断でここ数か月の努力が無に帰した唯人であったがそんなことは知る由もなくピエロの姿で行動を続けていた。
そんな唯人は伝令のエルフを小脇に抱え移動を続け森を出る。
そこには地平まで続かんばかりの平原が広がっており青々とした草むらとむき出しの地面がモザイク模様のように広がり、ところどころに無骨な岩が背を伸ばしていた。
その地平から一つの魔力の気配が突出し唯人へと文字通り空気を切り裂きながら肉薄してくる。
「突撃ぃーーーーーっ!!」
その気配は弾丸のように唯人へ、そしてその小脇に抱えられた伝令のエルフへと突っ込んでくる。
唯人は既に無駄となったピエロ、というよりクラウンのようにくるくると回りながらそれを交わすと背後の森まで突き抜けていった緑色の弾丸の方を見やる。
「もーーーっ!その子を返してもらおうと思ったのになんで避けるのさ!!」
その弾丸の正体は風邪を操りフワフワと浮きながら唯人に文句を言いつつ森から出てくる。
現れたのは緑髪の小柄なエルフであった。
「これは失礼いたしました。あまりにも突然目にもとまらぬ速さでいらっしゃったのでついつい避けてしまいました」
そう言って恭しく頭を下げる。
「えへへー。僕は速いからね!当然だよ!」
緑髪のエルフは空中で偉そうにふんぞり返っているが、そうしている間に残りの5つの気配が唯人の元までやってくる。
「シルフィー!勝手な行動をするなとあれ程!」
青く波打つような髪を持つエルフがシルフィーと呼ばれた緑髪のエルフをしかりつける。
その言葉を受けたシルフィーが「ごめ~ん」と言いながら5人の元へと飛んでいく
「然り」
こげ茶の髪をした巌のようなエルフが青髪のエルフに同意する。
「そうですよシルフィー。貴女に何かあったらどうするのです」
金髪のエルフが他の面々に同意しつつシルフィーを気に掛ける。
「そんなことよりなんだこいつは…あまりまともな奴には見えないが」
紫髪のエルフが唯人への警戒を促す。
「どうやらうちのモンが世話になったみてぇだが…てめぇナニモンだ?」
唯人が小脇に抱えているエルフと同じ赤、そしてそれよりもさらに濃い深紅の髪を持つエルフが唯人を睨みつける。
「これはこれは、こちらの方のお知り合い…察するに上役の方々、といったところでしょうか?」
「…ああ、そうだ。で?」
そう言って顎をしゃくるようにして唯人を促す。
「これは失礼を。この方…以外の皆様には道化師、そう名乗らせていただいております」
そう言って頭を下げる。
「道化師~?…聞いたことないなぁ?」
「人間の国には愚かなふりをして王を諭す、そんな役割の者がいたとか…」
「わたくしは人々を楽しませる芸事に秀でた者と聞きましたわ」
「…そのようには見えんが」
「そんなことはどうでもいい。人族が…人族だよな?なぜこのエルフの領域にいる?あの娘の、かの御方の結界が解かれたとはいえ早すぎる」
「ああ、それによ、あの御方のところに向かったバカどもの一人がこうしてここにいるわけだが…説明してもらおうか?」
唯人の存在、そしてそれがここにいることの疑問をそれぞれが口にし唯人はそれにこたえるために口を開く。
「もちろんでございます。それでは皆様お立合い。これよりお話いたしますはつい先ほど、ほんの数刻前に実際にあった出来事。まさに聞くも涙語るも涙の――」
「わりぃけど端的に話してくれや」
仰々しく身振り手振りを交えて語りだしたが遮られてしまったので淡々と語る。
「――これは失礼。では、私が仲間と共にこの森、我々が所謂冒険者の仕事で迷いの森と呼ぶ森に入りましたところ奥から妙な気配。これは確かめねばと奥地へ進むとそこに出でしは漆黒のエルフ。多少の行き違いはありましたが意気投合いたしまして、私共と共に行くこととなったのですがそこにこちらの方のご一行が現れましてこちらでもまたひと悶着。しかしながらかの漆黒のエルフが純白のエルフへと覚醒し、たちどころにお仲間たちを取り押さえた次第。しかる後この伝令の方がお里へ向かっているとのことでしたのでどうせなら最新の情報をお持ち帰りいただこうと追いかけたのですが…なにぶんこのなりでございまして、怖がらせてしまい私から逃げるように駆けたためにお疲れになったのでしょう。倒れてしまわれたのでこうして保護した次第でございます」
唯人は虚実交えてそう語る。
この伝令のエルフを捕らえたのはこちらに向かっていた6つの気配、つまりこのエルフたちを察知したため『このエルフを追っていたらたまたま出会った』という建前を作るためであり、怖がらせたのはこの6人に先に森に入られると戦いになった場合木々が派手に倒れたり吹き飛んだりするとリュートやシクロエルに気付かれる可能性があったためこの平原で相対したかったという理由である。
「まったく、留守居の指示は聞かねー癖に伝令を出すとかそういう訓練で徹底したことは守りやがる…」
「つまりあの子たちと敵対した、そういうことでいいのかしら?」
「じゃあ敵だね!」
「…」
「ですがかの御方はこの方を味方に引き込まれたということでしょう?」
「すべて疑うのは悪手だがすべて信じるのはそれ以上の悪手だ。これほどの案件であれば我々の目で実際に確かめるしかない」
「それもそうだな。なぁ道化師さんよぉ。とりあえずそいつを返してもらってもいいか?不出来な奴だが一応部下なんでな」
「ええ、もちろんです。他の皆様も多少の傷を負われた方もいらっしゃいますが身体は五体満足の状態ですので問題なくお帰りいただけると思いますよ」
少々正気度にダメージが行ったものもいる気がするが五体満足なのは事実だ。
「そりゃよかった。だがシェイドが…そこの紫が言ったように俺たち自身で確認させてもらう」
紫などと呼ばれたシェイドはギロリと睨みつけるが言った本人は意に介していない様子だ。
「それは構いませんが彼女は…皆様方が『かの御方』と呼ぶのであればそれに合わせましょうか。かの御方のことはどうなさるおつもりなので」
そして本題。この襲撃してきたエルフの上役、おそらくは族長たちだが彼らがシクロエルをどうするつもりなのかしっかりと確認しておく必要がある。
「当然エルフの里に戻っていただくわ」
「そうだよ!だってかの御方は僕たちエルフの――」
「…シルフィー」
「それ以上はいけませんわ」
「既に必要以上に話していると思うがな。我々の部下が迷惑をかけたようだし詫びとして口封じなどはしないでやる」
そして彼らからはこのような回答が得られた。で、あるならば――
「左様でございますか。でしたら――」
そこで一瞬言葉を切ると唯人は先程シクロエルがやったように魔力を開放する。
「――ここを通すわけにはまいりませんね」
「クッ!なんだこの魔力は!?」
「私など大したことはございません。かの御方の魔力はこんなものではありませんでしたよ」
実際唯人は先程のシクロエルの半分ほどの力しか出していない。
それに加え族長たちの実力もあり取り押さえるほどではないが充分に威圧はできていた。
「そ、それは我々エルフにとっては重畳ね」
青髪のエルフは強がるように喜び
「ぴゃーー!?」
シルフィーはふわふわ浮いていたため魔力の奔流に吹き飛ばされ
「!?」
大柄なエルフが吹き飛んだシルフィーを受け止める
「シルフィー!?…ロクサンド、ありがとう」
金髪のエルフは吹き飛んだシルフィーを心配し
「貴様、我々とやりあう気か?」
シェイドが唯人に問う。
「そのような大それたことなど毛頭ございません。ですがかの御方はエルフの皆様方から受けた仕打ちにずいぶんと心を痛めているご様子。先にいらっしゃった方にもずいぶんとお怒りのご様子でしたし皆様方がお会いするのも時期尚早かと愚考いたします」
「…言いてぇことはわかる。理解もする。だがガキの使いじゃあねぇんでな。はいそうですかって帰るわけにはいかねぇんだわ」
唯人はシクロエルの状態を鑑みてそう提案したが受け入れられることはなかった。
「そうして今度はお里に縛り付けるおつもりで?」
「違うわ!これまでのことは仕方のない事情があったのよ!それがかの御方の、ひいてはエルフ全体のためでもあったのよ!」
「左様でございましたか。多くの人のために1人を犠牲にする。実に合理的でございますね。言うは易く行うは難しと申しますが断腸の思いでそれを成されたのですね。それはそれはお辛かったことでしょう。ですがかの御方にとってはそのようなことは与り知らないことです。もしも今までの行いを悔いていらっしゃるなら自由にして差し上げてはいかがでしょう?」
「でもでも~――」
「…」
唯人の皮肉交じりの言葉にシルフィーは声をあげようとするがロクサンドに止められる。
おそらくまた秘匿すべきことを口にしそうになったのだろう。
「皆様方は先程からかの御方に施されたもののことを『結界』と仰っていますがかの御方はなんと仰っているかご存じでしょうか?ご存じですよね?部下の方もしきりにそれを口にしていましたし知らないということはないでしょう?」
「…ええ。当然承知しています。『呪い』、ですね」
「そしてそれは既に単なる呼称の違いではなくかの御方にとって『本当の呪い』となったのです。それからようやく解き放たれたというのにその元凶たるお里にお連れになると?」
「当然謝罪はする。事情も話す。我々のことが許せないというならこの首を差し出してもいい。だが我々エルフにはかの御方が必要なのだ」
「皆様方の謝罪などかの御方にとっては何の価値もありません。むしろお心の安寧を乱すだけ。どうか私にお任せいただき皆さまはお引き取りを」
「「「「「「…」」」」」」
互いの思いが拮抗し一歩も引かない。そのような状況になりつつあったところで赤髪のエルフが口調こそ変わらないものの今までの軽い調子を抑え、重々しい口ぶりで口を開く。
「…あまりにもとんちきな見た目してっからまさかとは思ったが…やはりてめぇがハイエルフ様が仰ったかの御方を守るっていう存在なんだろうな。うさんくせぇ言い回ししてるしそいつがちょっとビビッて走っただけでへばるならともかく倒れるなんてありえねぇ。そこは嘘だ。だがかの御方のことを第一に考えての発言。そこに嘘はねぇ、そう感じる。なら俺らのやることは一つだ」
「ご理解いただけで幸いです。ですがやることとは?まさかとは思いますが…」
思わぬところから肯定的な意見が出てくるが何やらやることがあるなどという。
そして唯人の経験からして次に出る言葉などほとんど決まっており若干辟易した気分になるのであった。
「決まってんだろ?てめぇがかの御方のことをきちっと守り抜けるか確かめんだよ!てめぇら!これ以上の問答は無用だ!全力で行くぞ!」
「これだから脳筋は…こうなったら人の言うこと聞かないんだから!」
「今度は外さないぞ~!」
「…参る!」
「貴方がかの御方にふさわしいか…見極めさせていただきます!」
「あのバカと違って貴様の言うことを鵜呑みにしたわけではないが…試してやる」
誰かが止めてくれないかという淡い期待はもろくも崩れ去り全員がやる気になってしまったようだ。
「皆様がそうおっしゃるのであれば致し方ありません。承知しました。では彼女には起きてもらって避難していただきましょう」
唯人の腕には返しそびれた伝令のエルフが未だにおり、放り出すわけにもいかないため起こして自分で避難させることにする。
唯人は懐から麻酔薬に対応した気付け薬を取り出し伝令のエルフに嗅がせる。
「っ!?はっ!?…えっ?」
するとすぐに目を覚ました彼女は周囲を見回すと族長たちが顔を並べているうえに自分を追い回していた人物がとんでもない魔力を放って自分を抱えているという状況に混乱している様子だ。
「よう、リェン。この状況で呑気に寝てるたぁたいしたタマだなぁおい」
「フリート様!?他の族長方も!?なぜこんなところに!?」
「てめぇらバカどもが俺らの言いつけも守らず飛び出してったから後始末しに来たに決まってんだろうが!」
「す、すみません!」
「いいからこっちにこい!リリアン、こいつに守りの結界頼んでいいか?」
「ええ、お任せを。リェンさんこちらへ」
リリアンと呼ばれた金髪のエルフはリェンと呼ばれた伝令のエルフと共に後ろに下がり、そこで結界を付与された。
「さて、準備も整ったところでやるとするかぁ!」
そしてフリートのその声を合図に唯人とエルフの族長たちとの戦いの火蓋が切って落とされるのであった。




