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「異」世界「常」連の「日常」奪還奮闘記  作者: ちょい悪代官
第三章 迷いの森と呪われしエルフ

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第72話 追う者

~時は少し戻り唯人視点~


伝令のエルフを追う唯人は相変わらず『森を進む道化師にふさわしい移動方法』について模索し、一つの答えに辿り着こうとしていた。


(森と道化師というミスマッチさを考えるならやはり不気味さを推していくのがいいだろうな)


そんなことを考えた唯人は、ホラー映画の不気味なスラッシャーのような動きを試すことにした。

そして動き自体は完成したもののこういったことは相手があってこそと考え早々に伝令のエルフに追いつくことにしたのだった。


・

・

・


魔力感知だけでなく視界でも伝令のエルフを捉えた唯人だったが、彼女はまだ追われていることを知らないはずであったため、まずは魔力を発して気付かせる。


思惑通り彼女は最初こそ視線を向けずに魔力のみで唯人を把握していたようだったが、しばらく特殊な移動方法(・・・・・・・)で追跡を続けていくと刺客でもこちらを把握しようと走りながら視線を唯人の方へと向けてきた。


そこで唯人は少しだけ姿を晒す。


そしてすぐに隠す。


続いて自分の分身のように魔力の残滓をその場に残すことで彼女にまだそこにいると思わせ、意識を向けさせている間に唯人本人は魔力を完全に抑えたうえで視界に入らないように、あるいは捉えられないほどのスピードを用いるなどして別の場所へ移動する。


これを繰り返し、少しずつ、少しずつ、彼女との距離を詰めていったのだった。


先程のエルフ(イグリス)たちの様子から道化師という存在、そしてこの姿には馴染みがない様子だったが、こんな様相の人物が森の中で淡々と追ってくると知れば、そしてどうやって移動しているのかわからなければ目的が不明なのも相まってなかなか不気味で恐ろしいのではないか。


そんな唯人の予想通り彼女は脱兎のごとく駆けだしたのだった。


これで唯人の目的の1つ(・・・・・)、より正確に言えば目的のついで(・・・)は果たされることとなった。


・

・

・


かくして唯人の思惑通り彼女は先程よりも速く森を駆け抜けていき、間もなく森から出ようというところまでやってきた。


(この辺りでいいか)


そう判断した唯人は今までの追跡方法を変え、彼女を追い越すとその進行方向へと移動し待ち伏せるような形をとる。

今回は先程までと違い魔力は消したままじっと佇むように姿を晒して彼女を待つ。


必死に、しかしながら意識は後方に向け走っていた彼女はそれに気付くのが遅れ、まるで森の中で不意に熊に遭遇した観光客のように硬直することとなった。


そしてまさに熊に遭遇した時の対応のように彼女は後退る。

それは無意識であったようで驚いたように彼女は自らの足に目をやる。


(ここだな)


唯人はその視線を外した一瞬を見逃さず後方にあった木の裏に身を隠す。

唯人が居なくなったことに気付いた彼女は、少しの間視線を彷徨わせ周囲を探るが今の位置から移動することはせず、唯人を見つけることはかなわない。


そして今までの唯人の行動から当たりを付けたのか彼女の背後の木へとゆっくり振り返る。


ここまで来たならもはや仕上げるのみだ。


唯人は、後退りつつ腰の剣に手をかける彼女の背後に淡々と歩み寄る。


その足取りによって一切空気は揺らいでいない。ただ木々の間を風が吹き抜けるだけ。

空気を揺らがさないということは音も立たない。ただ葉擦れの音がざわざわと響くのみ。

唯人の被っている道化師の帽子に付いている鈴は風に揺れているにもかかわらずその音すらしない。


まるで魔法のような光景だが唯人は今、一切の魔法を使っていない。

せっかく魔力を消しているのだから当然である。

魔力を隠ぺいして使うこともできなくはないがそこまでする必要もない。

ただ、純然たる技量だけでそれを成すだけでいいのだ。


ゆっくりと彼女の背に近づいていく唯人は仮面の下で声を出さずに笑う。


空気を揺らがせることはなく、音もない。そして死角となった背後から忍び寄っているうえ彼女の意識は逸れている。


そして今唯人が来ている衣装はほとんど露出していない状態であり風も吹いているので近付いても体温が伝わることもない。


触覚、聴覚、視覚。


これらで察知することができなくなった彼女に唯人は一歩、また一歩と距離を詰めていく。




(…味覚はともかく嗅覚は大丈夫だろうか)




先程の戦闘(?)やこの追跡でも汗一つ掻いていない唯人であったが、不意にそんなことを思ってしまったため距離を詰めながら念のためにちょっと臭いを確認する。


別に彼女に臭いでバレようが体臭を指摘ようが全く気にも留めないが、友人たちに指摘されるとなったら話は別である。


しばらく会っていないが再開した時に臭ければ、


「くっさ!ちょっと!半径10メートル以内に近寄らないでくれる?あ~くっさ!くさい澤唯人だわ~」


とか風香に言われるのが目に浮かぶようだ。


(…臭いで気付かれるようなら防臭消臭対策が必要だな。どのあたりで気付かれるか試してみるか)


そんなこと考えた唯人は彼女をテスター扱いし、臭いで気付かれるか試すために距離を想定以上に詰めていく。


そしてもはや吐息で気付かれるのではというほどの距離になったところで彼女(ニオイ鑑定人)がわずかに鼻を鳴らしてから振り返る。


(やはり臭いで気付かれたみたいだな…)


その事実を受け先程の想像上の風香に加え玲奈や梢、灯先生が引き攣った笑顔を浮かべながら「大丈夫」と言っている姿までもが脳裏に浮かぶ。


あまりに酷い想像による動揺が伝わったかのように帽子の鈴が「チリン」と鳴り、その音で現実に戻ってきた唯人はとりあえず(・・・・・)彼女の意識を刈り取ることにする。


今回は女性の着替えを手伝ってくれる仲間はいないので慎重に行う必要がある。

乱暴に意識を刈れば着替えが必要になる可能性が高まるので所謂首トンはともかく腹パンなどはもってのほかである。


なので魔法でもいいがこの後のことを考えて(・・・・・・・・・・)今回は便利な道具、科学が発展した世界に召喚された時に作ってもらった、元の世界の資料(アニメ)にあった超有名な麻酔銃(・・・・・・・)から時計機能をオミットしたような麻酔銃で眠ってもらうことにする。


実際問題その世界の科学技術でも、あのサイズの針を薬液と共にまっすぐ飛ばすことはできなかった――飛ばすことはできたがライフル以上の威力となってしまった――ので実質押し付けて使うような代物であり、ただ相手を眠らせる手段ならいくらでもある唯人にとっては無用の長物と化していたが人生何が役に立つかわからないものである。


ともかく振り返った彼女の首筋に麻酔銃を押し付けて発射するとわずかな痛みや違和感すら与えずに針が皮膚へと滑り込み、同時に注入された薬液は即座に効力を発揮し彼女の意識を奪う。


彼女の瞳が『ぐりん』と瞼の裏へ隠れ、糸が切れた人形のようにその場へ崩れ落ちる。

唯人はそれを支えると、そっと地面へと横たえる。


その際に彼女から汗の臭いが立ち上る。


つい今しがたまで全力で走っていた彼女の衣服は汗で濡れそぼり肌に張り付き濃厚な汗の臭いが感じ取れた。


(俺としてはこれだってそんなに気にならないんだが…風香の判定はアウトだろうな)


スポーツなどを頑張っている人にならそんな判定を下すことはないだろうが、唯人に対してはそんな事情を考慮した判定は期待できない。


気を失った女性の臭いをスンスンと嗅いぐという変態行為をしておきながら唯人が考えるのは友人のことばかりである。


そして再び自分の体臭を嗅いでみるが彼女に気付かれる程の臭いはしていないように思う唯人。


(まあ自分の臭いはわかりにくいと言うし後でリュートやシクロエルに聞いてみるか)


そんなことを思い「ふぅ…」と息をつく唯人。


彼女が気付いたのはその吐息に含まれたルイボスティーの香りのせいだったことに気付くのはもう少し先のことであった。

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