第70話 シクロエルの思い 裏
~~唯人視点~~
唯人はエルフの伝令を追い森を駆ける。
幸いにして伝令は未だ森の中におり、余裕をもって森を出る前に捕らえられそうだと考えていた。
そんな唯人だが先程から悩みを抱えておりそれが進み方に如実に表れていた。
時に深く前傾姿勢をとり、両腕を後ろへ、手のひらを天に向け指先までまっすぐ伸ばし腕を一切振らずに駆け抜け、
またある時は魔力でできたアンカーとそれと一体化しているワイヤー代わりの魔力を使い、その張力を使い振り子のように加速しながら木々の間を飛び進み、
そして今は腕を組みながら直立させた上半身を微動だにさせず足のみを高速回転させ、まるで水平移動するかのように滑らかに走り抜けていた。
(う~ん、どれも道化師の進み方としてしっくりこないな。ワイヤーでの移動はある意味あっているんだが…)
要は道化師っぽい走りを模索しているがそれがうまくいっていない、ただそれだけの悩みであった。
そんなこと悩んでいる唯人だったが、不意に魔力を感知し足を止める。
(この魔力はシクロエルか。もうこんなところまで魔力感知を広げられるようになったのか)
素直に感心しながらシクロエルがいるであろうその魔力の中心地の方角に目を向ける。
するとさらに魔力が濃くなり唯人を包み込む。
(これは素直に凄いな。シクロエルには俺の姿かたちなんかもはっきり伝わってるだろうな)
思わず、というよりはごく自然に唯人はシクロエルに向けて称賛の拍手をしていた。
道化師の姿で拍手をする、というとリズムを刻むような拍手というよりは手拍子のようなものや、非常に小刻みな『パチパチパチパチパチパチパチパチ』と言ったものが想像されるが唯人の行ったそれは非常にゆったりとした「パチ、パチ、パチ、」という余裕と重さが感じられるようなもので、例えるなら映画やアニメ、ゲームなどの強敵を裏で操っていた真の黒幕が主人公たちを称賛しながら登場するシーンにするような拍手であった。
もちろん唯人にはその手のシーンにありがちな『称賛しているようで嘲りや皮肉も含まれている』などと言うことは一切なく、純然たる称賛の意味であるのだが現在の装いも相まって残念ながら客観的に見てそうは思えない様相だった。
そんな唯人だったが自身を包み込む魔力が更に濃くなったことでその拍手を止める。
先程までは包み込むようだった魔力は更に唯人を探ろうと動きを強め、もはや弄ると言っても過言ではないほどに唯人の身体を這い回り始めた。
(あ~、これは放っておくと危険かもな)
そう思う唯人であったが当然だが自身を案じたものではない。
(その危険性をちょっと伝えておくかな?)
唯人はシクロエルの魔力を捕らえると、今魔力を変化させている技術を応用しその魔力に一部を同調させる。
それによりシクロエルが使っていた魔力のラインとも呼べるものを唯人が一時的にジャックした形となり、一方的に見られるという非対称性が崩れ唯人からもシクロエルの様子がわかるようになったのだった。
「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている、ってね)」
そう言って唯人はシクロエルの魔力を介し彼女の姿を捉える。
(まだ声は届かないだろうけど視線くらいは感じただろう)
続いて唯人はシクロエルと繋がった魔力に沿わすように手を掲げ指先を『親指に中指をひっかけ輪を作る形にする』。
所謂『デコピン』の構えである。
(そして道がつながった以上こういうこともできる)
唯人の中指に蓄えられた弾性エネルギーが解き放たれる。
そこにはもう1つのエネルギー、魔力も備わっており、同調したシクロエルの魔力を押し出すようにし指向性を持って伝播していく。
その衝撃はさながら『ニュートンのゆりかご』のように反対側の玉に届いたことだろう。
(シクロエルならこの危険性もすぐに理解するだろう)
それを見送った唯人はシクロエルの魔力との同調を切り、再び伝令を追い走り出す。
背後にシクロエルの魔力感知が消えるのを感じつつ、
(次はどんな移動法を試そうか)
そんなことを考えながら。




