第68話 赤髪エルフの悲愴 1
~時は少し戻り赤髪のエルフ視点~
あ、死んだ。
今日だけで何度思っただろうか。
最初はあの道化師とか名乗るやつの顔を見た時。
次はあの子の魔力に中てられた時。
更についさっき。彼女の吐息が身をかすめた時。
そして、今。
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先程の一件で醜態を晒し、絶望や恐怖、羞恥心などで感情がぐちゃぐちゃになったあたしは無様にも泣いてしまい、もはやみんなに合わせる顔もなく張りつめていたものが切れたかのように、自分を繕うことさえできなくなってしまった。
そんな虚勢も剥がれ落ち、顔を伏せるばかりだったあたしに龍族の少女が近付くと、無造作に私の首根っこを掴むと森の中に向かって歩き出した。
驚いてわずかに抵抗するがあの子の魔力の圧とは関係なく圧倒的な膂力の差があり、あたしの儚い抗いでは彼女の歩様を乱すことさえできず、無駄とわかったことを続ける気力のないあたしは早々に抵抗を止め、その惨めさに涙しながらされるがままに森の中へと連れていかれたのだった。
ある程度森を進んだところで放り出されたあたしに彼女は服を差し出してくる。
どうやらあの道化師が用意したものらしい。
…あの、道化、師?
道化師のことが頭をよぎるとともに先程の出来事が脳裏に生々しく蘇る。
心の底から湧き上がるような恐怖に思わず差し出された手を振り払ってしまう。
その瞬間――
ぶわっ
と先程のあの子の魔力の圧とはまた違った圧が爆発的に膨れ上がる。
「ヒッ!」
その圧に押し出されるようにあたしの口からはかすれた悲鳴が漏れる。
彼女はナニカを吐き出すように大きく息を吐いた。
その息に含まれるのは怒気。
そして熱気。
彼女が息を吐くとともにその熱気により周囲の景色が歪んで見えるほど、呼気と呼ぶには異常な熱量を――
「っ!!」
そこまで考えて彼女が龍族であることが結び付き、一気に血の気が引く。
「すっ、すまっ、もうしわけ――」
あたしは必死に、誠心誠意言葉を尽くして謝罪を口にしようとするが、様々な感情に翻弄され千々に乱れた思考では言葉をうまく紡ぐことができず断片的な声を発することしかできずにいた。
そんな言葉を彼女は一切聞いていないようで、両手に大事そうに抱えた服じっと見つめている。
そんな彼女に先程までとは違う変化があった。
その頭には側頭部から2本ずつ、うねるように天を衝く深紅の角が生えていた。
「よ、4本角!?」
驚きのあまりかようやくまともに言葉を発することができる。
「つ、角の数が強さの指標と言われる龍族において4本ともなればほぼ支配者階級のはず!そんな存在がなぜこんなところに!?しかもあの道化師に隷属しているなど!」
今までせき止められていたものが解放されたせいか思考が口を衝いて出てしまう。
信じられないことを口に出すことで納得しようとしたのかもしれない。
そんなあたしをよそに彼女は目を瞑り再び大きく息を吐く。
ジュッ――
まるで熱した金属に水滴を垂らしたような音が鳴り、頬に凄まじい熱が迸る。
え?
「……………………ぶれすってひとかみずとかをはくんじゃなかったっけ?いまのはひ?ひなの?あついしひかなぁ?よくわかんないや。いっぱいべんきょうしたのになぁ。いっぱいくんれんもしたのになぁ。ぜんぜんやくにたたないじゃん。なんだったんだろう、あたしのいままでって――」
ぼんやりとしたあたまでそんなことをはきだしているとかのじょがちかづいてきてふくをまたさしだしてくる。
またふりはらったらたいへんなことになりそうだなぁ。
のんびりとそんなことをかんがえているとめのまえにいるかのじょのあたまにつのがないのにきづく。
なんだ、さっきのはゆめかぁ。
そりゃそうだよなぁ。
そんなふうにあんしんしていると、
「…下等生物ごときが…我が主の御厚意を無下にするか!」
「ピィッ!」
天から降り注いだような怒声に雛鳥のような悲鳴をあげ我に返る。
正気に戻り目の前の彼女を見やると怒髪天を衝くといった様子。
なぜなら先ほど見たように彼女の頭に角などないが、それでも怒りのあまり彼女の真紅の髪が角と見紛わんばかりに逆立っていたからだ。
その彼女はもはや問答無用とばかりに無言でこちらに歩み寄ってくる。
つい先ほどまで服を大事そうに持っていた右手は、服など触れただけで紙の様に細切れにできそうな鋭さを持った爪を持つ異形の魔手となっており、それが向けられるのは何なのかは自明の理である。
あたしはもはや悲鳴を上げることもできずに彼女を見つめることしかできなかった。
そして彼女は――
「もうあんまり時間もかけてられないし…ごめんね?」
――そう言ってその手を振り下ろした。
ちなみに龍族の角は奇数本だとパワータイプで、偶数本だと魔力タイプという傾向があります。
ウルトラマンで言うとレッド族とシルバー族みたいな感じですね。
角がないのは龍族ではなく龍です。




