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「異」世界「常」連の「日常」奪還奮闘記  作者: ちょい悪代官
第三章 迷いの森と呪われしエルフ

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第65話 お裁き

~時は戻り唯人視点~


唯人とリュートによって指揮官と思しきエルフ以外は片手間に倒され意識を手放し、そして意識を保っていた各部隊の指揮官たちはシクロエルの魔力の圧によって地に這いつくばることとなっていた。


その様子を見ながら唯人はシクロエルへとちらりと視線を向ける。

そこには先程までとは打って変わった透き通るような純白の髪をしたシクロエルがエルフたちに冷たい視線を向けながら立っていた。


(髪色をそういうふうに使ってきたか…。力を開放するとともに髪色が変わる…良いじゃないか)


かつて読んだり見たりした資料(・・)にも同様の変化をするキャラクターがいたがいずれも見たものに衝撃を与える素晴らしい工夫であったと記憶している。


事実、エルフの指揮官たちは畏れを抱く様に目の前のシクロエル震える瞳でを見つめていた。


その中の一人、先ほどから代表として唯人と話をしていた赤い髪をショートのツーブロックにしたマニッシュなエルフが絞り出すように震えた声を発する。


「…ば、バカな!?あ、あの、カス(・・)エルフにこれほどの魔力が!?」


その言葉を聞いたシクロエルはわずかに眉を顰め魔力を強める。


「ガッ!?ぐっ、ぅっ!?」


赤髪のエルフは強められた魔力に抗えず、先ほどよりも深く、強く地を舐めんばかりに地面に押し付けられた。


「カス(・・)とは…高貴なるエルフ様のお口から発せられるにふさわしくない強いお言葉ですね。何かご不快な点でもございましたでしょうか?」


変わらず慇懃に話しかける唯人。しかし先程までとは違い立場は逆転しているため、慇懃な物腰は崩さないものの相手を弄ぶような態度は明らかとなっていた。


赤髪のエルフは唯人の態度にも苛立ちを強める様に伏した状態でも語気荒く大声疾呼する。


「カス(・・)はカス(・・)だ!ヤツは我らエルフに滅びをもたらす存在なんだ!」


「ああ、そのようなお話もございましたね。皆様に伝わる伝承で、なんでも彼女に触れると…帰らぬ人になる、とか」


唯人はそう言うとシクロエルを目線と手ぶりでエスコートし赤髪のエルフの前に立たせる。


「な、何をする気だ!?」


満足に動かせない体を必死に捩る赤髪のエルフ。

言葉ではそう問いながらこの道化師が何を企んでいるか察せないほど思考は鈍っていない様子だ。


「もちろん彼女に触れていただくのですよ。長きに伝わるエルフ様の伝承、それを御身を以て解き明かす…。なんと素晴らしい!お伺いする時機を逸してしまいましたので私(わたくし)は存じ上げませんがあなた様方の名はエルフの歴史に残り末代まで語られることでしょう――



――伝承通りに滅びなければ、ですが」



最後に冷たくそう告げシクロエルを促す。


「さあ、どうぞこちらへ。まずは先程から代表して話されているこちらの方がよろしいでしょう。ああ!先程の御様子ですとお見知りの間柄でしょうか?お名前をご存じでしたらお伺いして歴史に刻みたく思いますが…」


先程の様子からシクロエルと赤髪のエルフには面識があるようだったので関係と名前を聞いておく。

どう見てもいい関係ではなかった様子だが万が一肉親だったりするとあまりこじらせるのは良くはない。


「残念…でもないが名前は知らないな。だが顔は知ってる。やってきては物を投げたり罵声、さっきのカス(・・)とかだな。そういうのを浴びせてくるような奴だったな。他の主だった連中も顔は知っているが名前は知らないな」


「それはようございました、と言っていいのか計りかねますが…。しかしながらカス(・・)とは…些か、語彙が…」


「ああ、私は『呪われし娘』なんて呼ばれていてね。そこから『カースドエルフ(呪われたエルフ)』なんて呼ばれるようになって、当時子供だったそこの彼らには更に縮めて『カスエルフ』、『カス』なんて呼ばれるようになったんだ。子供の考えそうなことだろう?まさかこの歳、と言ってもお互い何歳かなんてわからないが、まあいい大人になってもそう呼ばれるとは思いもしなかったがね」


「ああ、そういったご事情が。得心いたしました」


(なるほどこの世界の翻訳機能がうまく働いてくれてそんな感じになったのか。日本語なら『呪い』→『のろい』→『のろま』みたいな感じだろうか?)


唯人がそんな益体もないことを考えていると、シクロエルは唯人と話している間も身じろぎしながら罵声を浴びせ続けていた赤髪のエルフに手を伸ばす。


「ヒィッ!」


その動きにかすれた悲鳴を上げる赤髪のエルフ。

シクロエルが近付いたと同時に死が迫っている。そう思えるほどの襲い掛かる恐怖のあまり先程までは恐怖を振り払うように発していた罵声も鳴りを潜め、逃げることはおろか身を竦めることすら叶わず震えることしかできないでいた。


「そんなに怯えなくてもいいじゃないか。さあ、仲直りの握手…は難しそうだね。ちょっと緩めようか」


手を伸ばしながらそう言うとシクロエルが魔力の圧を弱める。


すると赤髪のエルフは凄まじい勢いで起き上がる、と同時に腰が抜けていたのか尻もちをつく。

それでも必死に足と手を動かし後方へと後ずさる。


「ああ、ちょっと緩めすぎ――」


「そのように慌てずとも――」


その様子を見た唯人たちは必死に後ずさる様子にそれぞれ口を開くが、途中で何か(・・)に気付き言葉を切る。


「――あ」


「――おや、これは失敬」


「――あ~あ。やっぱりやりすぎた…」


そしてその何か(・・)が何なのか理解した2人、そしてしばらく黙って見守っていたリュートも口を開く。


ささやかな配慮という態(・・・・)で背を向けた唯人以外の2人はその何か(・・)を目で追う。


そこには青々と生い茂った草が赤髪のエルフによって押し倒され折り重なっている。

そしてその一部には倒れた草から滑り落ちる様に零れ落ちる雫。

それは赤髪のエルフが尻もちをついた地点から一筋の道となって彼女の下半身へと続いていたのだった。


「「……」」


「っ!?な、なんだ?――えっ?」


シクロエルとリュートが憐みの眼差しを向けられ恐怖一色だった感情にわずかに訝しむ余裕が生まれた赤髪のエルフは数瞬戸惑った後自らの状況を把握する。


「キャーーーーーーーーッ!?」


「あ、意外とかわいい声で鳴きますね~」


「でも逃がさないよ」


恥ずかしさのあまり悲鳴を上げて逃げ出そうと立ち上がる赤髪のエルフをシクロエルは再び魔力の圧を強め地面に縫い付ける。


「っ!?きゃんっ!!」


それにより再び尻もちをつく格好になった赤髪のエルフから残っていた僅かな雫が衝撃によって跳ね上がった。


「…うっ、ぐすっ…うぅぅぅぅぅぅっ」


その衝撃で張り詰めた糸がぷつりと切れたかのように相貌を崩すと、唇をかみしめて耐えながらもその目からは涙が零れ、草に溜まった雫と混ざり合うように地面へと落ちていった。


「あらら、泣いちゃった。でもまああれだけ絶望と恐怖を与えられて最後は…ねぇ」


「やっておいてなんだがさすがに同情するな…少し、だが」


唯人の傷による精神攻撃から始まり部隊があっさりと全滅させられる絶望、更にはエルフの伝承による恐怖に加え最後は羞恥心まで煽られてしまえば感情が追いつかずに涙するのも情態として自然である。


「…一旦仕切りなおすか?」


同情もあったが話が進まなくなってしまったためシクロエルがそう提案する。


「そうですね~。少なくともちょっと移動した方が良いですかね?ご、じゃなくてタダさんはどうおもいます?」


同意と合わせてよんどころない事情もあり移動を提案するリュートが唯人に尋ねる。


「もちろん結構ですよ。そしてこんなこともあろうかと着替えも用意しております」


唯人はそう同意するとどこからともなく(『匠』から)女性用の衣類を取り出しリュートに「お任せしますね」と言って押し付ける。それと同時にリュートに顔を寄せ、エルフでも聞き取れないよう声を潜めて話す。


「エルフの仲間が1人森から出ようとしている。おそらく伝令か何かだろうが一応捕らえてくるからその間にこの状況を何とかしておいてくれ」


最後に「頼んだぞ」と残すとリュートの返事も聞かずに唯人は姿を消した。


エルフたちは恐怖から復帰しきれていないのと場の混乱もあり唯人が消えたことには気付いていないようだったが、注視していたところで気付くことはかなわなかっただろうとリュートは思う。


唯人が向かったであろう方角を見つめながらこの何とも締まりのない顛末を収拾してさして時間もかからずに戻ってくるであろう主人(唯人)を迎えられる状態にしなければならないことを思い深いため息をつくのだった。

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