第64話 前ミ
~時は少し遡り唯人視点~
リュウトがリュートに戻り唯人たちの元に戻ってくるとエルフたちへの対応の打ち合わせに入る。
「十中八九だけどシクロエルをどうこうしようとしに来てるって言うのはわかるよな?」
唯人の言葉にリュートとシクロエルは頷いて同意を示す。
「なら相手の思惑なんて関係なく俺たちのやることはそう変わらない。相手が『『呪い』が解けて良かったね、あとは自由にしていいよ』だろうが『『呪い』が解けたなら再度呪ってやる』だろうが『この機会に始末してやる』だろうが…ね」
2人の同意を受け、相手の対応にかかわらずやることは変わらないと示す唯人。
「そして重要なのはシクロエルが望んだように命までは取らない、ということ。これは別に相手を心配しているわけじゃなくてシクロエルが望んだ、ということ以上にに余計な負い目を感じてほしくないから、というのが重要だ」
そう語り『わかるな?』という視線をリュートに送る唯人。
「それはもちろんですけどシクロエルは今の増えた魔力の扱いに慣れてないでしょう?気を付ける、とは言ってましたが何かのはずみで…ということもあるんじゃないです?」
「それは…まあ、そうだな。まだ今の力に十分に慣熟していないし…」
リュートの懸念にシクロエル本人も同調する。
「なら今回はシクロエルには後ろでどーんと構えていてもらうことにするか」
その様子を受け唯人がそう提案する。
「えっ、でもそれだと…」
リュートがシクロエルを見ながら納得がいっていない様子でそう口にする。
「大丈夫。シクロエルの出番はちゃんとある。それにこの方法ならエルフたちに与えるインパクトも絶大だ」
リュート、そしてシクロエルも納得する方法を唯人は持っていることを告げる。
「そんな方法が――」
「――あるのか?」
「ああ、リュートには前に言ったっけかな?相手の心を折るには相手の最も得意とすることや誇りに思っていることで圧倒的な力の差を見せつけるのが一番だ、ってね。で、エルフは何に誇りを持ってるんだっけ?」
2人への回答を示しつつその先を2人に問う。
「それは…」
「色々あるが自他ともに認めるというのであればやはり魔力の高さ、だろうな」
そう答えたシクロエルはもう答えが見えてきた様子だ。
「そうだ。相手がどう出てきたとしても俺が適当に挑発して戦闘になるように仕向ける。で、シクロエルの指示の下俺とリュートでリーダー格を残して戦闘不能にするから仕上げに――」
唯人はそう言ってテーブルの上のティーカップを取る。
「――このカップ1個分くらいの魔力をぶつけてやればいい」
「「…」」
そのカップ1つを作るのに必要な魔力を知る2人はそれが魔力に長けているエルフにどのような影響を与えるかを想像し固唾を飲み込んだ。
「…それ、下手したら死ぬのでは?」
リュートのそんな呟きを唯人は聞こえないふりをし、話を進める。
「で、戦いまでの流れだが――」
「――といった感じで行くことにしよう」
「つまり、『ご主人様が相手を挑発して攻撃させてそれをあえて受ける。そのあと反撃したら開戦の合図』で…」
「私がそのセリフを言って戦闘開始…ということでいいか?」
唯人のプランを聞いた2人がその内容を要約し確認する。
「そうだ。で、ちょうどいい具合に敵を制圧したところで俺が合図を出すからそうしたら――」
「私が戦闘終了のセリフを言って――」
「わたしとご主人様が鎮まるように言って――」
「俺がシクロエルに注目を集めるようなセリフを言うからそこで魔力を思いきり…はマズいから程々にぶつけてやる、っていう流れだな」
「「…」」
唯人のプランを聞いた2人は納得したような、しかしながら腑に落ちないような妙な気分でそのプランを反芻していた。
しばらく考え込んでいたリュートが
「考えはわかりました。有効だろうということも。…でもあのセリフっていります?」
当然の疑問を呈した。
「様式美というのは大事なんだぞ?というのはいったん置いておいて、いいじゃないか。進んでくるスピードからして相手は真剣に、本気でこちらに向かって来てるんだろう。それを適当にあしらう、それがいいんだよ」
唯人がそう言うとリュートはピンときた様子で、
「あ、それって風香姐さまをヒントにしたでしょ?」
そう言ってケラケラと笑った。
「リュートになってもそれを言うか…。まあ、な。あいつは本当に真剣な相手にはそうはやらないんだが…そこは俺なりのアレンジだな。そういうわけであのセリフは必要なんだ」
表向きの理由をリュートに見抜かれやや気まずそうにする唯人であったが本来の目的は見抜かれずに安堵する。
(セリフを意識させておけばシクロエルが同族と戦う意識を薄められるからな)
本来の目的を思い返す唯人。
これはシクロエルの罪悪感を抑えるため…ではない。
逆に今までの扱いに対する恨みなどが強く出てしまった場合本人の望まない結果になる可能性があったからだ。
そう聞いた2人は納得したように頷く。
「よし。じゃあそんな流れでよろしく」
唯人がそう締めたところでリュートが声をあげる。
「あ、結局ご主人様の例のアレってどうするんです?」
「アレ…ああ、唯人が正体を隠す方法、だったか?」
「ああ、それなら――」
唯人はそう言って『匠』に手を突っ込む。
「何が出るかな~っと…ああ、コレか」
そして取り出された手にあるのは所謂ピエロの仮面であった。
「なんだか…奇妙な仮面ですねぇ」
「ああ、笑っているのに笑っていない、そんな印象だな」
「これはピエロ…は役名なんだったか。道化師の仮面だ。力ある者を皮肉ったりする存在でもあるし今回みたいなシチュエーションにはちょうどいいな。それに個人的な目的も果たせて一石二鳥だ」
3人がそれぞれその仮面に対する感想を口にする。
「ところでそれを被るだけなんです?エルフには効果覿面とか言ってましたけど…。そもそも取れって言われたらどうするんです?」
「それはだな、この仮面を被ると…」
唯人はそう言って道化師の仮面を被る。すると――
「っ!?魔力の波長が!?」
魔力に敏感なシクロエルが気付く。唯人から放たれる魔力が仮面を被る前とは別物に代わっていたのだ。
「どうだ?別人みたいだろう?」
「声も!?」
リュートが言うように唯人の声もややハスキーながらどこか粘り気を持つような声質に変わっていた。
「すごいですね~。確かにこれなら同一人物とは思われないでしょうね」
「ああ。しかし凄い仮面だな」
「そう思うだろ?実はな――」
2人が感心していると唯人がそう言って仮面を外す。
「えっ!?」
「変わらない!?」
2人が驚きの声をあげる。
それもそのはず。唯人は仮面を外したが魔力は変化したままだったのだ。そして――
「そう。これは何の変哲もない仮面なんだ」
――当然声も変わったままであった。
「もし仮面を外すことになったらコレが仮面の効果だと思わせておいた方が都合がいいからな」
「「…」」
そんなついでのことのように言う唯人であったが魔力を高次元で使う龍族やエルフの2人には唯人がやっていることが殊更異常に見えていた。
魔力の波長は指紋のようなものでそう簡単に変えることなど普通はできはしない。
そう考えると何かしらの魔道具の効果といわれた方が納得できるのも確かであり口を噤むしかなかった。
「…あ~、『とこのような形で私は顔と魔力を秘匿して慇懃無礼な対応をさせていただこうかと思いますが…』」
絶句した2人の気をそらすように再び仮面を被った唯人は自身の役柄をその役になりきり説明する。
「ぶっ!!」
「くっ!!」
あまりの衝撃に息を吞んだまま硬直していた2人だったが、唯人の芝居がかったセリフと動きに振り子のように感情が引き戻され、こらえきれないといった風に吹き出した。
「…本番では台無しになるから笑うなよ?」
笑う2人に仮面を外し魔力も声も戻した唯人はそう釘を刺したのだった。
「――あっははは!あー、面白!これ笑わないの無理じゃないです?」
「くっ、くくっ、そう、かもな。ふふっ」
「それに結局仮面外せって言われたらどうするんです?普通に拒否するんですか?」
2人の笑いが落ち着いてきたところでリュートが当然の疑問を呈する。
「ああ、それなら――」
唯人がそう言うと唯人の頬が内側から裂けるように開き、できたばかりのような生々しい傷となった。
「げっ!」
「っ!?」
「――リュートからもらったこれを使う」
「うわ~、それって例の傷ですよね…痛そう…って言うかめちゃめちゃ痛いのは知ってるんですけど大丈夫なんです?」
「それは…そうか。さっき言っていたリュートの…治る、んだよな?」
その傷の元の持ち主であるリュート、そしてその話を聞いていたシクロエルがそろって唯人を心配する。
「もちろん痛みはあるが大したことはないし治せる。後はこの傷を何個か顔につけておけば見られても大丈夫だろう」
「いや、大したことないって…あれ、相当な痛みでしたよ?それに見られても大丈夫というか見た相手が大丈夫じゃないというか…」
「ああ、それほどの傷を見たら途中で仮面を外すのを止めるだろう。だから外す時はゆっくり外した方がよさそうだ」
「それはいい考えだな。じゃあゆっくりと、その代わり生理的な嫌悪感を上乗せしてみようか」
唯人はそう言うと傷口にある仕掛けを施す。
「…あっ!これって…」
「この感覚は…。なるほど、リュートと私の合わせ技、というわけか」
「そうだ。シクロエルにかかっていた『呪いのようなもの』。その周囲の者に嫌悪感をもたらす効果を模したものだ」
傷口の変化に気付いた2人に唯人が種明かしをする。
「これは…何ともいい意趣返しになりそうだ」
「しかもどうせご主人様のことだから無駄に強化して使うんでしょ?大丈夫なんです?死にません?」
「さすがにそこまでは…無いとは言えないがそうなる前に止めるだろ」
「止められれば、ね~。止められるといいですね~」
「ほ、程々にな?」
「ま、まあとりあえずはこんな感じで行こうと思うが問題ないな?」
「は~い」
「ああ、問題ない」
そう言って唯人は今回の筋書きの同意を得る。
「思い通りにいかなかったとしても正直どうとでもなるから気楽にな。特にシクロエルは変な悔いが残らないように思ったようにやっていい」
「ああ、ありがとう」
「まずはご主人様のお芝居で笑わないようにしないとですね~」
「ははっ、そうだな。気をつけよう」
唯人は2人のやり取りに肩をすくめるとエルフが向かってくる方角に目を向ける。
「まだ少し時間がありそうだな?ん゛んっ『そこまで仰るなら少しばかりリハーサルと参りましょうか?』」
唯人は三度仮面を被るとそう言って慇懃無礼で芝居がかった動きの道化師と化す。
その後しばらくの間森に2人の押し殺しきれずに漏れた笑い声が響くこととなった。
プロットの段階ではこの仮面は『ビューティフルマジックファイターシーバスの仮面』という名でしたが長すぎたので没になりました。




