第63話 終戦
~?~
ヤツの声が発せられるころには道化師に矢を返された部隊が道化師へと襲い掛かっていた。
先制攻撃として放たれた矢や魔法は道化師の身体をすり抜ける様に回避され効果を発揮することはなかったがそれだけで攻撃を留めるような鍛え方はしていない。
それと時を同じくして他の部隊から龍族の少女やヤツにも攻撃が加えられていた。
道化師に攻撃を加えていた風のエルフの部隊と『自分』の部下である炎のエルフの部隊以外が龍族の少女とヤツに襲い掛かる。
光のエルフの部隊が眩い光の魔法で目を潰し、闇のエルフが闇で覆いその効果を助長する。
土のエルフが大地を割り動きをさらに封じたところで水のエルフが水の魔法で包み込み呼吸をも封じる。
当然その魔法による攻撃の間にも弓矢による攻撃も続き必殺の構えをとっていた。
「…ふんっ」
だが龍族の少女が腕を振り払うとすべての魔法が跳ね返され、同時に放たれていた矢もその腕に弾かれるように虚空へと飛び去って行った。
「…ふっ」
そしてヤツに向かって放たれた魔法は有効範囲内に入ったと同時に魔法としての態を失い魔力となって霧散して消えていった。
そしてヤツに向かって放たれた矢も当然のようにヤツの周囲に至ったところではじかれるように地面へと転がることになったのだった。
「なっ!?」
「貴女には交渉役として残っていただかなくてはならないのでそのままで少しお待ちいただけますでしょうか?」
その光景に驚いている『自分』の背後から道化師の声が聞こえ思わず振り返る。
声は確かに『自分』の背後、すぐ近くから聞こえたはずだがそこにはすでに道化師の姿はなく――
「グァッ」
「ガハッ」
「ゲェッ」
――森の中から部下たちのものと思しき悲鳴が聞こえるのみであった。
「そんな!?直撃したはず!?やはり龍族は化け物か!?」
「魔法が…いや、魔力が霧散する!?それじゃあわたしたちはこんな奴らとどうやって戦えばいいんだ!?」
部下たちを助けに行かんと足に力を込めたところで再び背後から悲鳴のように絶望を告げる声が聞こえる。
思わずそちらに目を向けると攻撃の一切を無効化され、こちら側が攻めているのにも関わらず逆に追い詰められている他の部隊の姿があった。
「ばか、な…」
目の前にある光景を信じられず喉から絞り出すようにそう口にすると、
「残念ながらこれが事実です」
そう耳元でささやく声が聞こえる。
「っ!!」
誰の声など確認する必要もなく、その人物を切り捨てようと腰の剣を抜きながら振り返ると同時に薙ぎ払う。
その剣は予想通りにそこにいた道化師を切り裂く軌道で薙ぎ払われたが、この手にあるべき手ごたえは一切感じることができず空を切るかのような無抵抗さで振りぬかれたのだった。
「おお!これは素晴らしい剣筋!先程の様に手品が失敗していれば胴が真っ二つに分かれていたことでしょう!ですが失敗は一度きりでないと観客に飽きられるは必定。すり抜ける手品の失敗はもうございませんよ?ああ、でも彼らは危ないのでちょっとこちらに失礼を」
振り向きざまだったので気付くのが遅れたが、道化師は制圧したであろう『自分』の部下を両脇に抱えて『自分』の斬撃を受けていた。
そのような状態にもかかわらず『自分』の斬撃を容易にすり抜けた道化師はそのようにのたまうと部下たちを攻撃の範囲外へと放り出し、他部隊によって射かけられた矢や魔法を放り出した部下たち同様に範囲外に逃げることが可能だったのにもかかわらず、あえてその身に受け入れるように手を広げて受ける。
しかしそのすべては道化師の身体をすり抜けて地に落ちるのであった。
「ば、バカな!?」
「矢や魔法が全部奴の身体を突き抜けてしまうぞ!?」
「あれは水魔法の秘奥、凝膠体化!?我が水のエルフの族長ですら不可能だというのに!?」
「いかがでしょうか。剣も矢も、魔法すらもすり抜ける、ちょっとした一芸にございます」
慌てる他の部隊員をよそに道化師は何でもないことのようにそう言ってのける。
「さて、あちらもそろそろ片付きそうですね」
一瞬呆然とした『自分』であったが道化師の言葉に意識を戻すと他の部隊も『自分』の部隊と同じく制圧されつつあった。
ヤツに仕掛けた攻撃の一切は無効化され、龍族の少女に反撃を受けた他の部隊は命はあるようだが完全に敗北したと言っていい状態に陥っていた。
「あぁっ…」
それを見て言葉を失ってしまった『自分』であったが、真の絶望はまだこれからだと思い知ることになる。
「さて、そろそろよさそうですねぇ」
道化師がそう言ってヤツに目配せすると、
「っ…と、リューさん、タダさん、もういいでしょう」
ヤツがそう言い、
「し、鎮まれ~!」
龍族の少女がそう続く。
「鎮まれ~い!」
道化師もさらに続く。
「こ、この魔力の奔流をその身に感じぬか!!」
――――― ズンッ ―――――
龍族の少女がそう口にするとヤツからかつて感じたこともないほどの凄まじい魔力が発せられる。
「っ!!」
それと同時にヤツの漆黒の髪が漆黒から純白へと塗り替わっていく。
「「「「「「!!!!!!」」」」」」
かろうじて意識を保っていた各部族の部隊長がその魔力を受け、そしてヤツの変化に驚愕し言葉を失う。
「これほどの魔力の前に体が動かぬのは必定。しかしながら少しばかり頭の位置が高いと思いませんか?」
「「「「「「っ!?ぐっ!!」」」」」」
道化師がそう告げるとヤツの魔力がさらに迸り我々の頭を押さえつけるような圧力となって強制的に平伏させられ、我々の、いや、こちらが一方的に仕掛けた独りよがりの戦いは瞬く間に鎮圧されたのであった。




