第56話 契約再び
「…良い名をいただいた。感謝する。ありがとう、唯人」
名付けられたことに感謝を述べる彼女、もといシクロエル。
「気に入ってくれたなら良かった。一応他にも候補があるが聞くか?」
「いや、いい。もうその名は私のものになったんだ。唯人にだって奪わせやしない」
そう言って笑うシクロエルに唯人も笑って答える。
その笑みに唯人も苦笑いで答えると改めて問う。
「それでは話は少し戻るが契約を交わしてもらうことになるがいいか?」
「ああ、先ほど話は聞いたし異存はない」
「では話した通りの、リュートと同じ条件で契約を交わそう」
・
・
・
こうして唯人とシクロエルはリュートと同じように契約を交わした。
シクロエルもリュートと同様唯人から流れ込む多大な情報量に眉を顰めることはあったがそれ以外は差し支えなく契約は完了した。
「他者の知識が流れ込んでくるというのは…不思議なものだな…」
龍族であるリュートと同じように長命種であるエルフ、それも特異な個体であろうシクロエルも純人族とは比較にならない記憶容量があるようだ。
「リュートに渡しているように使えそうな知識は都度渡していくが、希望があれば言ってくれ」
「ああ、その時はまた頼む、いやお願いします」
主従の関係が結ばれたことで言葉遣いを正すシクロエルだが、
「言葉遣いは今まで通りでいい。リュートもそう丁寧ってわけじゃないだろ?」
そう言ってリュートを見やりながら笑うと
「ひどいですっ!わたしは誠心誠意仕えてるのにっ!」
リュートはぷんすかと怒ってみせ、そんなリュートを唯人は宥めていると
「ではご主人様とお呼びすれば?」
などとシクロエルもふざける。
唯人の気苦労は増えるが新たな従者ともうまくやっていけそうであった。
そうして契約も済んだところで今まで話していなかった勇者関連の部分などについても話していく。
「…そんなことが」
異世界という存在はもとより自らのクラス世界でもそのような異変が起きていると知り驚くシクロエル。
それを受けて唯人は改めて最終的な目的を話す。
「――まあそんなわけで俺の目的は、
・俺のことがバレずに
・皆を強化して
・皆で元の世界に戻る
ってところかな」
「はいは~い!」
そこまで話したところでリュートから手が上がる。
「なんだ?」
「今まで怖くて聞けなかったんですけどその『皆で元の世界に戻る』っていうやつの『皆』に私たちは含まれるんですか!」
期待と不安が入り混じった表情で唯人を見つめるリュート。
「俺の意図としては入っていない――」
「…やっぱり」
唯人の返答にうつむき諦観の表情を見せるリュート。
本人としてはわかっていたとはいえ受け入れがたいことであった。
「が、」
「が!?」
しかしそこに唯人が否定の意味が込められた言葉を受け、顔をあげると、
「元の世界に戻る方法が許すなら、そしてお前たちが望むなら連れて行ってもいい」
彼女の望んだ答えがもたらされた。
「えっ」
「いいんですか~!!」
それにはシクロエルも驚き、リュートは素直に歓喜の声をあげた。
「ああ、既にほかの世界から同じように望んできた者たち…俺の兄弟姉妹として暮らしているやつらがいるからな。だが元の世界に来る以上今まで以上に行動は縛られるぞ?当然だが今の姿で出歩くことなんてできないから完全に人がしてもらう必要があるし俺たちの世界には言語を自動で翻訳してくれる機能なんて備わってないから言語の習得も必要だ。他にも――」
『連れていくことはできない』ということは簡単だったが、過去に付いて来た者がいて以降、本人が望み、条件を飲む場合元の世界に連れてきている者もいたので嘘をつかずにつれていく条件を告げることにしたのだった。
それはそう簡単な条件ではない。
現代人に例えるなら
「そのうち海外に移住するからそこの言葉の読み書きや常識を完璧に覚えて見た目もその国で浮かないように整形しておいてね。もちろん移住するなら2度と今の国には戻れないけど他の人に迷惑かけたりしないよね?」
くらいの無茶ぶりである。
一応戸籍などの部分は唯人が『お願い』して何とかしているのだが家に缶詰めにするならともかく普通に暮らすとなればそれくらいはしてもらは無ければいけないし本人が苦しむだけだ。
だが、
「な~んだ。そんなことですか!ダイジョブダイジョブ、です!」
リュートはそう言って笑うと唯人から得た知識でブイサインをして見せる。
「わ、私もこの世界に未練はないし、唯人とリュートが行ってしまうなら付いて行きたい、かな?…今のところは」
シクロエルも付いて来るつもりらしい。今のところは、というのは今後もしかするとエルフたちとの和解があったりするかもしれないということなのだろう。
だが――
「いや、リュート…お前は完全に人化できないから『リュウト』の姿を使ってるんじゃなかったのか?それにシクロエルも髪はともかく耳はどうにかしないと無理だぞ?」
「それは練習してご主人様が帰るまでにできる様になればいいんです!」
そう言いながら自身の羽や尻尾、鱗などを引っ込めようとしているがうまくいっていない様子だ。
変わってシクロエルの方はというと
「そうだな、耳はともかく髪はもうどうにかできそうだぞ?」
そういうとシクロエルは魔力を物質化した時の要領で髪に魔力を集中するとその髪は根元から黒く染まっていき数秒の内にすべてが濡れ羽色の黒髪へと変化していた。
「わ~!きれ~!さっきまでの漆黒の髪も良かったですけど、今度は髪質も良くなってよりきれいですね!…でもせっかく白い髪に戻ったのに黒くしちゃっていいんですか?」
リュートが素直な感想と疑問を呈するとシクロエルは、
「なに、白い髪にちょっと色を乗せただけさ。それに言ったろう?どちらも私の色だ、って。耳の方は…リュートと一緒に練習だな?」
そう言ってリュートに笑いかけた。
「はい!頑張りましょう!」
「ああ」
2人はがっちりと手を握り合うと、意気投合し同じ目標に向け歩む同志ともなった。
「あ~、うん、水を差すようで悪いが…それはわかったから話を進めていいかな?」
「あっ、はい」
「あっ、ああ」
そろそろ慌てるような時間になってきたので未来ではなく今の話をしなければならない、そう考えた唯人は仕方なく割って入り話を進めるのであった。




