第55話 白と黒のエルフ
「俺が考えた名は――
『シクロエル』
――だ」
そう告げられたリュートと彼女は
「「シクロエル…シクロエル…」」
とその名を繰り返し口に確認していた。
この名前を告げた時、唯人はその名前に意味を乗せずに告げた。
リュートに名付けした時とは違い、多少時間的余裕もあるのでまずは意味を含まない語感だけで名前を伝えることにしたのだ。
この世界は言語を自動的に翻訳してくれる機能があり、その翻訳機能により、『意味を乗せた言葉』は翻訳されそれぞれが理解できる言葉に翻訳されるが、名前については音はそのままに伝わる。
それ故に唯人もタダヒトも唯一も同じ『ただひと』という音で伝わるのだ。
だが、名前には――適当につけられた場合は除くが――意味を持って付けられるため、先の例の『ただひと』とそれぞれ聞こえる名前も届く意味はそれぞれ別=別人と受け取られるのだ。
そういったこともありまずは意味のない語感を伝えることで、そもそも語感が意に沿わないことがないように前もって伝える方法をとったのであった。
「シクロエル…良いと思いますよ!軽すぎず重すぎず、ちょうどいい語感です!」
「ああ、そうだな…。私も良いと思う…ところでこれはどういった意味なんだ?」
2人の感触は悪くないようだったが、名付けられる本人から当然の質問が飛んでくる。
(まあ、聞かれるよなぁ…。別に悪いことをしているわけじゃないんだけど…)
唯人はその問いに複雑な心境を持ちながらも問われたことに応える。
「俺の、俺たちの世界の…俺たちが住んでいる国では『白』は『しろ』、『黒』は『くろ』、そして『エルフ』は『えるふ』と言うんだ…」
それを聞いたリュートと彼女は顔を見合わせると
「『白』は『しろ』で~?」
「『黒』は『くろ』、か…」
「「そして『エルフ』は『えるふ』、で?」」
交互に口にし、最後は口をそろえて唯人に問う。
「それを合わせて『シクロエル』、だ…」
唯人はその問いに今度は意味を乗せて名前を告げる。
「「・・・」」
2人はその名を噛みしめる様に数瞬黙りこむ。
そしてその静寂を裂いたのは――
「…ぷっ、くっ…、あっはははははははははははは!!!」
名付けられた当人であった。
「…えっと」
「…いや、ネーミングセンスがないのは理解しているがそんなに笑わなくても…」
リュートと唯人が戸惑いの声をあげるが彼女の笑いは止まらない。
「くっ、ふははっ、いやっ、すま、くくっ、すまないっ、ふふっ。ばかに、してるとかっ、きっ、くふっ、気に入らないとか、では、ないんだっ、っははっ!」
唯人とリュートは彼女のその様子に言葉をかけることもままならず、彼女が落ち着くまで待つしかすべがなかった。
数分後、彼女が落ち着きを取り戻したところで唯人は改めて自らの名付けの是非を問う。
「なんと言うか、この名前が気に入らなかったとしても貴女にそれだけ笑ってもらえたならそれなりに価値があったかな、なんて思うんだがそれじゃあ名付けとしては失敗かな?」
そんな唯人の問いに対して涙目を拭いながら彼女は答える。
「ふふっ、先ほども一応言ったが改めて謝罪する。笑ってすまなかったな。でもそれは馬鹿にしているとか気に入らないとかではないんだ。むしろ気に入ったからこそ笑ったんだ」
『気に入った』という言葉を聞き唯人はひとまず安堵する。
最悪怒りのあまり笑ってしまった、という可能性もあったのでそうでなくて良かった、というのが正直な感想だ。
実際タマやポチの時も名付けた当初は怒りのあまり呵呵大笑した後に襲い掛かってきたのを説得(物理)で宥めて納得してもらったという過去の事例があったためそう思うのもさもありなん、といったところだ。とはいえタマやポチは後々その名も気に入ってくれたので、もしその場合でも時間が解決してくれたかもしれないが…――実際はその説得(物理)によってタマやポチにとっては名前そのものが気に入ったというより『名付け親の唯人が気に入った』から『名前も気に入った』のであるが――。
ともかく気に入ってくれたという彼女に
「白と黒のエルフ、だから『シクロエル』、わかりやすいだろう?」
そう告げる唯人。
彼女、いや、シクロエルも笑ってそれに応える。
「そうだな。ふふっ、この世のどこを探しても白と黒のエルフなんて私以外居ないだろう。」
そうして満足そうに唯人を見つめ、
「これは私だけの名だ」
そう言って満面の笑みを浮かべた。
これでようやく書き辛かった『彼女』表記ともお別れです!
やったー!




