第51話 新しい仲間
「すまない、言い方が悪かった。『呪い』についてはわからないが『貴女』が言う『私に触れると死ぬ』という心配はない。これは間違いない」
そう告げながら唯人は『彼女』のティーカップに新しくルイボスティーを注ぐ。
その言葉を受け、感情では嬉しく思いながらも理性では受け入れられず『彼女』は唯人に問う。
絶望の淵にいた『彼女』はわずかな光明が見え希望を見出すものの、それが幻の様に儚いものと感じ拒絶ともとれる強い言葉を発してしまう。
「何を根拠にそんなことを!」
「…証拠と言われると俺の経験から、としか言えないがそれ故に間違いないと断言できる」
ちょっとばかり元の世界のミームが浮かんでしまった唯人だが、『彼女』の圧に怯むことなく正面から返答した唯人に『彼女』も一定の自信を感じたのか居住まいを正し再び唯人に問う。
「…ふぅ。ならば『それ』について話してもらってもいい、のだろう?」
「ああ。と言っても俺の中ではほとんど結論は出ている」
「そう、なのか?」
自信を感じていたとはいえあまりにもはっきりと口にする唯人に驚きを隠せない
「そもそもだ。その『呪い』とやらは本当に『呪い』だったのか?」
その言葉に『彼女』は戸惑う。
今まで信じてきたものが違うものだったのではと言われたので当然ではあるのだが。
「…そ、それはそうだろう!?わ、私はずっとそう言い聞かされてきた!いや、それだけじゃない!唯人も実際に見ただろう!?あのすべてを拒絶するような禍々しさを!あれが呪いでなくて何なのだ!?」
客観的に見てもあれを好意的に見る者はいないはず。そう確信できる禍々しさであったし実際強者と言って遜色ないリュートでも本能的に避けるほどのモノであったのは間違いない。
それを踏まえ唯人は問う。
「確かにそう思うのも仕方のないモノだったのは確かだ。では実際にその『呪い』とやらで誰かが死んだことがあるのか?」
あまりにも冷静な事実確認である。
外観はどうあれ起こった事実がすべて。そう言い含めるような視線を受け『彼女』は答える。
「い、いや…エルフの者たちには私のことは周知されていたし、もちろん私からかかわりに行くようなことはなかったから…。近寄って気分が悪くなったとかそういったことはあったが私の知る限りでは、無い、と思う…」
「そうだ。その『呪い』の本質は『貴女』に誰も近づけさせないためのもの、なんだよ。そしてその呪いの効果をもって『貴女』を全てから遠ざけることが真の目的だった、と俺は確信している」
「「!!!」」
『彼女』は予想外の効果への驚きで、リュートは自身が感じていた不快感への納得で驚愕の視線を唯人に向ける。
「まあ、この話が『俺の経験から』、という前提で進めなきゃならないんで話してしまうけど、俺は『自分を死に至らしめることができる存在』に対してとても敏感なんだ。…もし『貴女』がそう言った存在ならとっくにそうすることができないようにしているくらいには、ね」
特に威を込めたわけでもない、何でもないことのようにそれを語る唯人だったが、その泰然自若な様相は仮に『彼女』の『呪い』が唯人を死に至らしめる効力を持っていたとしても、それを唯人に向けた瞬間に己の命は絶たれるだろうと確信できる、いや、水が高所から低所へ流れる様に、春に花が咲き秋にはが落ちる様に、そして命が生れ落ちていずれ死に土に還る様に…そんな自然の摂理と感じられた。
「い、言いたいことはわかったが…こう言っては悪いが唯人は、その、いj…普通では…あ~、少しばかり想定外?な存在ではないかな?その君が大丈夫でもふつ…ではなくて、…そう!例えば生まれたばかりの赤子に触れたりした時も同じとは限らないのではないかなっ?」
先程うっかりと聞いてしまった中で唯人は『異常』と言われるのを望まないということを知った『彼女』は言い淀みながらもそのワードを避けつつ懸念を提示する。
「それも問題ない。その程度の効果だったとしても充分に感知できる。証拠を出せと言われればリュートと同じように契約してもらう必要はあるが…本当はもうわかっているんだろう?」
『契約』というワードも気になるがそれ以上に心を穿つのは『わかっているんだろう?』という言葉である。
それを直視する時が来たのだ。
「…これは『呪い』なんかではなく、…いや私にとっては『呪い』であったのだろうが。…聞かされていたようなものではなかったのだな?」
「そうだな」
「この『呪い』は私から他の者を遠ざけるために施されたものだったのだな?」
「そうだな」
「…では、私が生まれてからの数百年は何のためにあったのだ!?」
「それは、俺にはわからない。だがもう本当の意味での『呪い』はなくなり『貴女』は解き放たれた。もう自由に生きることはできる」
まだ検証は済んでいない。唯人が言っているだけ。何か間違いがあったらどうする?
そんなリスクを考えている間にも唯人は話を進めてくる。
「さあ、これからどうする?」
「…どう、と言われても…」
すぐに考えがまとまるわけもない…普通ならば。
「例えばこのまま人知れず暮らし続ける。これは難しい。他者を遠ざける『呪い』がなくなった以上ここまでこの周辺にいるこの森に不釣り合いな強さのモンスターたちや冒険者が来ることもあるだろうしエルフの集落の者たちが干渉してくることもあるだろう…もちろんそれらをただ倒すなら問題ないんだろうが」
「…そうだろうな」
「逆にエルフの集落に『戻る』、と言っていいかわからないがエルフの集落で生活していく、という選択」
「それは…ないな」
これについては『彼女』の中では即座にないと言える。…少なくとも今すぐには戻ることはない。
「あとはここを出て一人で生活基盤を見つけて生活する、例えば冒険者になって身を立てる、とかだな。少ないがアーティガルド王国にはエルフもいたし無理ってことはないだろう」
「…ああ」
その選択肢もあるだろうだが『彼女』の中にはもうほとんど決まっている選択肢があった。
それを察したようにその選択肢を唯人が告げる。
「…はぁ。最後に一つ。俺たちと一緒に来る、というのもある」
待ち望んだ選択肢に『彼女』短く答える。
「…うん」
「いろいろ仄めかしたりしてるから理解していると思うけどそのためには俺と契約してもらうことになる。そうすると先に挙げた選択肢は俺たちが元の世界に帰るまでは取れなくなるが…それでもいいのか?」
一応規約の一部を提示して熟考を促す唯人だが『彼女』の答えはもう決まっていた。
「もとより私は死んでいたようなもの。だが唯人はその先に道を示してくれた。ならばその恩義に報いるのは当然のことだ」
いろいろと吹っ切れたようにそう宣言した『彼女』には唯人から見てももはや迷いはないように見える。
「そうですそうです!一緒にご主人様をお支えしましょう!」
今まで口を出したそうにしながらも黙っていたリュートが我慢しきれなくなったのかそう口にする。
どうやら『彼女』も自分たちについてくることになったらしい。
「まったく…困ったやつらだ」
唯人は過去の経験からこうして同行者が増えるのは予想通りではあったのだがこの先のことを考えると負担は増えそうだと頭を悩ませるが、『有益なこともあるだろう』と考え呆れたようにそうもらすのであった。




