another side 7 48.5話 エルフの集落の騒動
~エルフの集落~
「「「「「「「!!!」」」」」」
エルフの里にある祭儀場に集っていた各部族の族長たちとそれを束ねるハイエルフは同時にそれを感じ取った。
「彼女の呪い…いや、守護の結界が破られた…」
代表するように族長のハイエルフが零す。
各々が先程ハイエルフから語られて知ることになった真実と今感じた事態、それを確定するハイエルフの言葉に戸惑う中フリートが確認するように言葉をひねり出す。
「…守護の結界ってのはさっき聞かせてもらった『呪われし娘』の『呪い』ってやつなんだよな?」
常ならばディーネが「何を当たり前のことを聞き返しているのです」などと一蹴するような無駄な問答であるが、それをとがめる者は個々には誰もおらず静かに族長の言葉を待つばかりであった。
「そうだ。あの娘を、いや、あの御方を御守りするために施した結界が破られた…」
「「「「「「…っ」」」」」」
ハイエルフの言葉に言葉を失う族長達。
「だがそれは結界を上回る庇護を受けたことに他ならん。つまりあの御方は我々の庇護を離れたのだ」
ハイエルフは淡々と事実を告げるが先程真実を知ったばかりの族長たちは簡単に飲み込むことはできない。
「確かに予言の通りだ。だが本当にそいつがあの娘を…かの御方を守るっていう存在なのかよ!」
「そうですわね。確かに信憑性はある、ですが盲目的に信じていい案件ではないのでは?」
「そうだよそうだよ!本当にあの娘を守ってくれるならいいけどその力があるか確認しなきゃ安心できないよ!」
「然り」
「左様ですわ。知らなかったとはいえ、そして必要だったとはいえ我らのかの御方への非礼、決して許されるものではありません」
「その通りだ。謝罪しても許されることではない。ならば行動で、結果でかの御方に報いるしかあるまい」
各々の言葉に満足げにうなずくハイエルフ。
「各族長の思い、しかと受け取った。フリート、ディーネ、シルフィー、ロクサンド、リリアン、シェイド、…皆がそのように考えてくれたこと、うれしく思う」
そう言って普段は決して下げることのない頭を下げた。
「っ!おいおい、止めてくれよ!」
「そうです!頭を下げるなど!」
「そうだよぉ!」
「…」
「お気持ちは受け取りました」
「そうしたことに何か意味があるのだろう?」
各族長がそれぞれに反応を示す中、ハイエルフは頭を下げたまま言葉を続ける。
「そうだ。私などたまたま先祖返りしてハイエルフとなっただけの存在。だがあの御方はエルフすべての頂点に立ち、導く存在。あの御方が解き放たれた以上もはや私が権威張って頭を下げない理由はない。これはただの感謝の気持ちなのだ」
そう告げたハイエルフを見つめる族長たちはその気持ちを慮り、受け入れるのだった。
「あ~、で?かの御方ののr、じゃなくて結界が解かれたわけだけど俺らはどうしたらいいんだ?」
しんみりとした空気を打ち破るようにフリートがハイエルフに問いかける。
実際これからの行動指針を確認するのは彼らにとって重要なことだ。
「今は何もしなくてよい」
「そうか、わかったぜ」
ハイエルフの簡単な返しに同じく簡単に返すフリート。
それにディーネが異論を述べる。
「何もしないと仰りますが各部族に周知する必要はあるのでは?すべてを?それともある程度隠して?」
「だよね~。決めてくれないと僕なんて口を滑らせちゃいそ~」
「我々で皆に伝える『真実』を決めておく必要がある」
「すべてを詳らかにしてあの娘の…あの御方の名誉を回復したいですが…」
「それはあの御方のためにならん。少なくとも今のところはな」
各族長の意をくみ、ハイエルフが総括する。
「あの御方は呪いが解け、その呪いを解いた者と旅立ったこととする。実際に解いた者が連れていけば良し、連れていかなければ我らが旅立つように促す。それでよいな?」
ハイエルフが族長を見回すと全員が頷き応える。
それに満足したようにハイエルフも頷くと同時に祭儀場に駆けこんでくるものが現れる。
「会議中に、失礼、いたします!ハイエルフ様、及び、族長衆に、ご報告すべき、事案が、発生、いたしました!」
軍の伝令の様だがよほど急いできたのだろう、息も絶え絶えに、それでもはっきりと報告をする。
「何事だ」
それに淡々と受け答えするハイエルフだが内容は想像するに難くない。
「呪われし娘の、居住区に、異変が、発生した模様っ!」
予想通りの報告にわずかな安堵を得てハイエルフは安心させるように穏やかに、しかしながら有無を言わせぬ威をもって答える。
「それならば把握している。手出し無用だ」
だが伝令はその威を受けて怯えながらも自らの役目を全うするために言葉を続ける。
「し、しかしながら族長方が不在のため、留守を任された者たちが…」
そこまで口にしたところで各族長たちがすべてを察したように声をあげる。
「おいおいおい」
「まさか…」
「え~~っ!?」
「…むぅ」
「ああ、なんという…」
「まさかと思うが勝手に軍を動かした、などということはないだろうな?」
最後のシェイドの問いに伝令は心苦しくも答える。
「か、各部族の留守居は緊急事態として自身の裁量で軍を動かしました!」
「「「「「「…」」」」」」
「も、もちろん彼らの裁量の範囲なので全軍などということはありません」
伝令は気休め程度の安心材料を告げるが、ハイエルフはそれが消し飛ぶような事実を告げる。
「だがあの森はかの国の者たちも良く訪れる森であろう。そんなところに小規模とはいえ軍を動かすなど…愚かとしか言えんな。しかもそ奴らがわかっているかは知らんがもはや……人を惑わす結界は失われているのだぞ」
「なんですと!」
衝撃の事実に慄く伝令。だが彼に驚きで固まっている猶予は与えられなかった。
「もはや一刻の猶予もならん。私の名において命ずる。すぐさま撤退させよ!」
「は、ははっ!」
現在のエルフにおいて最上位の命令を受けた伝令は、先ほどまで息も絶え絶えだったのが噓のように機敏な動きで会議室を後にした。
その後姿を見つめながらハイエルフは静かに口にする。
「…伝令の言葉だけでは止まらぬかもしれん。すまんが――」
そこまで言ったところで各族長たちが制止する。
「任せておきな!」
「そもそも責任は私たちにありますしね」
「急ぐなら僕に任せてよ!飛ばしていくよ!」
「…有事の際こそ泰然自若であるべし」
「あえてあの娘と言わせてもらいますが彼女の旅立ちを邪魔させるわけにはいきません」
「そう意気込むな。我らだってこの話を聞かされてなければ当然確認に行くくらいはしただろう…軍は連れずとも、な」
そう口にする頼もしい族長たちにハイエルフは再び頭を下げると
「あの御方のことを頼む」
そう告げた。




