第39話 迷いの森
迷いの森
それは王都から余裕を持った徒歩で2日間ほどの距離にある森である。
モンスターの質も試しの森と比べて一回りほどしか強くなく、一見F、Eランクの冒険者でも問題なさそうなフィールドである。
そんな森に『タダヒト』と『リュウト』は1時間もかけずに辿り着き探索を始めていた。
リュウトは試しの森と比べ木々の密度が高く昼間なのにもかかわらず薄暗い森の中を一片の異変も見逃すまいと意識を集中しながら進んでいた。
それは主人である『唯人』の『決して油断するな』という言葉、そして傷を負って試しの森で伏していた1年余りの経験と唯人と出会ってからのわずか1ヶ月で彼に叩き込まれた指導の賜物である。
リュウトの本来の姿である龍族は天敵となるものなど本来は存在せず、危険なものといえば同族の強者くらいで――もっとも『リュート』はマリシスという危険な存在を身をもって知ることになったのだが――獲物を狩るにも持ち前の身体能力で必要とあれば棲家ごと破壊してしまうほどで同族以外の個体に対して無頓着な種族であった。
人間で例えるなら蟻などの生物に個体ごとの意識を向けないのと同様なのだ。
だが今リュウトはその蟻にも等しい森に潜むモンスターたちの気配をも察知しようと意識を向けているのである。
考えてもみてほしい。普通の人間に蟻の1匹1匹に気配を感じることができるであろうか?普通ならば答えは『否』である。
だがリュウトは生命の危機に瀕していた1年余りの経験と唯人による1ヶ月の指導によりこれらの気配を感じられるようになってきていた。
それは龍族としてのスペックの高さももちろんあるが、唯人の期待に応えようと研鑽を重ねた結果であることをここに明言しておく。
(タダヒトは油断するなと言っていた。ならば必ず何かあるはず…。絶対に見逃さない!)
そんな決意を胸にタダヒトを先導する形でリュウトは森の奥深くへと進んでいった。
タダヒトとリュウトは依頼の対象であるモンスターや素材などを適当に集めながら森の深部まで到達していた。
そこでリュウトはある異変に気づく。
(な、何だ!?この異様な不快感は!)
ちょうど2人の進行方向からただならぬ気配、それも強烈に不快な気配が唐突に感じられるようになったのだ。
「た、タダヒト!この先からものすごくいやな気配がする!」
とりあえず自分の感じたままのことを後方にいるタダヒトへと伝える。
「へぇ~、それで?どうしようか?」
それに対するタダヒトの返事はあまりにも無関心に過ぎるものであった。
だがリュウトはこの1ヶ月でタダヒトがこういう返事をするときは『どうしたらいいか自分で考えて決めろ』という意味だと理解していた。
なので自己の判断に基づいて返答する。
「このまま直進するのは避けて迂回しよう。幸いこちらの方にはその嫌な気配はしていないから」
そうタダヒトに伝えると「任せる」とだけ言い再びリュウトに先導させると後に続いて歩き始めた。
リュウトは後ろに続いて歩いてくる主人にきちんと有益な進言ができたと緩みそうな口元を引き締めながら森をさらに『奥』へと進んでいく。
(やった!タダヒトに教えてもらったとおりに異常な気配も察知できたしその後の対応もちゃんとできたし私役に立ってるよね!)
本来の人格である少女らしく内心で喜んでいるリュウトであったが、しばらく進んで前方に明るく光が差し鬱蒼とした森を抜け開けた場所に出ることを察知するとタダヒトに報告する。
「タダヒト!開けた場所にでるよ!念のために警戒して」
タダヒトに対してはそんなことを伝える必要はまったくないとリュウトは思っているがタダヒトには感じられずリュウトには感じられるという場合があるかもしれないということと、他の冒険者などに対するポーズとしてそういった報告はちゃんとやれと命じられているので今回もそれっぽい台詞で注意を促す振りをする。
そして木々の間を抜け光の差す開けた場所へと踏み込むと・・・。
「こ、ここは!」
そこはなんとタダヒトたちが迷いの森へと踏み込んだ、その入り口であった。




