第四十話 迷いの森 ~結界型~
「あ、あれ?」
目の前の光景に一瞬理解が追いつかず思わずリュウトは声を漏らしてしまう。
森を通り抜け別の場所に出てしまったのかとも思ったが、そこは間違いなく唯人とリュウトが森へと入った場所であり遠方には他の冒険者パーティーの姿もちらほら見える。
「そんな馬鹿な…」
リュウトは龍族である。
長距離を飛行することもある龍族には優れた方向感覚が備わっており、たとえ闇夜の空であろうと雲の中であろうと方角を間違うことは無いほどなのだ。
たとえ地上であっても、さらには視界の悪い森の中であったとしてでもである。
思わぬ事態に呆然としつつも足を踏み出し森から一歩踏み出した瞬間、
――グニャリ――
音で表現するならばこうであろうか。奇妙な感覚がリュウトを襲った。
それは天と地がひっくり返ったかのような感覚であり、人間でたとえるなら三半規管が異常をきたしたような感覚であった。
その不快感に頭を抑え顔をしかめていると、
「リュウト、大丈夫か?」
後ろから唯人が声をかけてきた。
主人の言葉に気を持ち直すリュウトであったが同時に自らの失態にも気づく。
「大丈夫でs…だ。それよりすまない。迷わないように進んだつもりだったんだが…」
失態を恥じ俯くリュウトに唯人は
「気にするな」
と短く告げリュウトの正面に回り言葉を続ける。
「リュウトのおかげでいろいろわかったことがある。資料を見ても思ったことだがこの森は『当たり』の可能性が高い。もう一度あの『嫌な気配がする』といっていた場所まで行こう」
そう告げるとさっさと森の中へと進んでいってしまう。
「え、ちょ、待ってよタダヒト!」
その姿を見てリュウトも慌ててタダヒトを追いかけ森の中へと駆け込むのだった。
「えっと、つまり迷いの森にもいろんな種類があるって事ですか?」
唯人は迷いの森について細かく話しをしたがリュウトの返事はだいぶふわっとしたものであった。
ちなみに現在は人の目は無いので口調は崩して話している。
「大雑把に言うとそうだが…」
そういって苦笑する唯人。
リュウトの言う迷いの森の種類とは大きく分けて二つである。
一つは人が帰ってこない森。
もう一つは人が意図せず帰ってきてしまう森。
例外として森そのものが迷っているという彷徨う森というのもあるがこちらは意味が異なるので割愛された。
で、今回の迷いの森は後者であると唯人は考えた。
「おそらく結界で方向感覚を狂わせるタイプだな。それに加えてリュウトが感じたという『嫌な感じ』。それらによって何かを隠している。あるいは守っているパターンだ」
後者の森の場合その内容は多岐に渡るがほとんどの場合唯人が言ったような目的を持っている。
さらにリュウトは今は人間の姿をしているが龍族であり、それすらも惑わす強力な仕掛けが施されていることからこの森の奥にあるものに唯人は期待していた。
そんなことを話しながら進んでいくと先ほどの場所まであとわずか、というところで前方に別の冒険者パーティーを発見したので歩みを止めて様子を見ることにする。
そのパーティーたちもどうやら例の場所で立ち止まって何か相談事をしている様子である。
その誰もが先ほどのリュウトのように切羽詰った様子はなく、単に『右』に行くか『左』に行くか悩んでいるだけのようだ。
パーティーは相談を重ねた上で右の道を選んだようだが、誰一人として『まっすぐ進む』という意見を述べるものはいなかった。




