another side 6 34.5話 勇者たちの初体験
どうもお久しぶりです。
お待たせいたしました(待っている方はいないかもしれませんが( ̄▽ ̄;)
唯人が依頼を受けていた頃、食事を終えた後一息ついた勇者一行はそれぞれの適性を見るため闘技場に設けられた一室へと招かれ、そこでマジックアイテムによる適性の検査を受けたのだった。
「このアイテムによると、玲奈が水属性、梢が土属性、先生が光と闇属性、で、私が風属性に適性があるってことでいいのね?」
風香に尋ねられたオルトリーゼはゆっくりと頷き問いに答える。
「はい。このアイテムに魔力を流し込み、現れた色からその方の属性適性が分かる仕組みとなっております。結果は今風香様がおっしゃられたとおりです。ですが――」
そう言い淀み若干難しい顔をしつつ言葉を続ける。
「こうした適性は生まれ育った環境に依存する傾向が強いのです。みなさまは同郷、同じ国の同じ地区にお住まいだったと伺っておりますが…、それでここまで結果が異なるとは思いもよりませんでした。」
「何かおかしいの?」
オルトリーゼの言葉に素直な疑問を向ける風香。
「はい。例えば海や川の近くで過ごすものたちは水属性に適性がある場合がほとんどです。また、火山の近くや鍛冶を生業とする一族などは火属性に適性が出る場合が多い傾向があります。逆に皆様のように同一の地域に住まいながらこれほど適正がバラけるのは稀、ということになります」
「なる~、身近なものに適性が出やすいってことなのね。つまりはさっき説明してもらった『イメージ』って奴がしやすい、と」
風香は適性を見る際に聞いた魔法についての説明を思い出しつつ自分なりの結論を口にする。
「はい、おっしゃる通りです。もちろんそれが全てではありません。遺伝や種族ごとに適性の出やすさは変わってきます」
「じゃあ私達の適性がばらけた理由もなんとなく察しがつくわ」
「それは一体どういった理由でしょうか?」
「私達の世界ではテレ、あー、遠くのものを見ることのできる機械とかがあったり、なぜ物が燃えるのか、水や空気は何から出来ているのか、とかを学校で学んだりしているから常に身近になくてもイメージはしやすいのよね」
「確か、てれび?や、いんたーねっと?でしたか。唯人様より聞き及んでおります」
「…あっそう。まあそんなわけで生まれ育った土地っていう部分ではそんなに意味を成さないのかもね」
「ではなぜこうもばらけたのでしょう?」
「それはおそらく――
――名前ね」
「名前…ですか?」
「ええ、言葉は通じても名前の意味までは伝わらないみたいね。まず私、フウカは『風が香る』って書くの」
「風が香る、ですか。なんとも雅なお名前で風香様にはピッタリの印象ですね」
「っ、あ、ありがと。で、玲奈は名前より苗字の方ね。ワクスミっていうのは『澄んだ水が湧く』、コズエは『木の梢』どっちかっていうと木属性とかあればそっちっぽいと思うんだけど…」
「木は生命ですから魔法の属性としては存在しません。木を操るとすれば動物やモンスターを操るテイマーに近いでしょうか」
「なるほどね。まあ木の梢なら地面を指すから土属性ね。ちなみにサクラギも桜の木でまんま木を表すからそのテイマーっていうのも向いてるかもね」
「ではそちらの適性も後ほど確認いたしましょう」
「で、先生だけど、ツキモリは『月の守り』ってところかしら?それが闇を表してアカリがそのまま『灯り』で明かり、つまり光を表す訳ね。字的には火っぽくもあるけれど」
「確かに風香様のおっしゃるとおりかもしれませんね」
そう聞けば当然の様に一つの疑問が持ち上がる。
「――では、唯人様はどうなのでしょうか?」
「タダヒトは『唯の人』で唯人。だからなんの適性もなかったりしてね」
(唯人様が、唯の…人…?)
「まだ推測の域だけどこんなところかしら?で、これから私たちは何をするの?」
「はい、早速ですが訓練、と言うほどではありませんが実際に魔法とはどのようなものかご覧頂こうかと思います」
オルトリーゼはそう告げると風香たちを「こちらです」と促しながら部屋を出ると闘技場の一角へと彼女たちを案内する。
部屋を出て通路を進むと開けた場所へと出る。
そこはまさに――
「ザ・闘技場、ってかんじね、コロッセオっぽい感じで」
そう風香がつぶやいたように闘技場であった。
「はい。普段は騎士団の訓練施設として使用していますが本来の用途としては闘技場として作られています。ではこちらへ」
オルトリーゼに促されさらに闘技場の一角へと進む。
そこにはいかにも『的』と言わんばかりの巻藁のようなものが並べられている。
「今日は魔法というものがどんなものかみなさんに体験していただこうかと思います」
無言で頷く風香たちから先ほどの巻藁に視線を移すと、
「あちらの的に私が魔法を放ちますので…そうですね、皆さんに適性のなかった火属性の魔法にいたしましょう」
そう言い何やら集中しだすオルトリーゼ。
(全く、彼女たちに魔法を教えるときは基本的に無詠唱で頼む、なんて簡単に言ってくださいますね)
集中しながらもそんな雑念がオルトリーゼの心にふつふつと湧き上がる。
本来今使おうとしているような比較的容易な魔法でもある程度の詠唱は必要であり無詠唱でできるのはオルトリーゼが優秀だからである。
だが、そんな無茶な要求をした人物は最初『完全』無詠唱を要求してきていた。
流石のオルトリーゼもそれは無理ということで魔法名だけは口にすることを許可してもらったのだ。
そんな経緯があるためいつも以上に集中し自身の魔力を魔法へと変換していく。
そして唯一許された魔法名を口にする。
「ファイアボール!」
オルトリーゼが手を天に掲げその名を口にすると彼女の魔力が手のひらの上に渦を巻くように収束し、拳大ほどの赤く輝く炎の球体が生まれ出でる。
そして掲げた腕を巻藁へと突き出すとその勢いのままに炎の球体が打ち出される。
打ち出された炎の球体は重力の影響を受けていないかのごとく一直線に進み巻藁に直撃する。
その瞬間、その拳大ほどの大きさの炎からは想像できないほどの火力で一息に巻藁を燃え上がらせた。
魔法を打ち終えたオルトリーゼが風香たちに向き直る。
その背後では既に消し炭となった巻藁が悲鳴を上げるかのごとくパチパチと音を立てている。
その様子を見た四人は、自分たちの力をある程度確かめていたとは言え、初めて人が魔法を放つ光景を見て四人とも非常に驚いた様子である。
「…今更だけど本当に魔法ってあるのね」
そんな小さなつぶやきを打ち消すようにオルトリーゼが次の言葉を放つ。
「ではみなさんもやってみてください」
本来ならもっと教えるべきことはたくさんある。が、唯人に先入感を与えるなと言われている以上余計なことはあまり口にできない。
こんな放任主義的な指導は不本意であるがオルトリーゼも彼女たちがどのような可能性を見せるのか興味がある、というのもまたひとつの本音である。
いきなりやってみろ、などと言われ戸惑い『どうしよう?』という雰囲気になるがこういう時に真っ先に手を挙げるのが風香、そして玲奈である―その理由は全く異なるのであるが―。
今回は玲奈が先頭を切ってチャレンジするようだ。
玲奈はオルトリーゼがやった通りに、ただ、全体の動きは控えめにトレースしているようだ。
具体的にはオルトリーゼは腕を天に掲げるように伸ばしていたが玲奈は手に物を乗せるような感じで胸の前で魔法を発動するようである。
「ファ、ファイアボール!」
少々、いや、かなり恥ずかしそうにしながらそう口にする、と玲奈のイメージするファイアボール=オルトリーゼの放ったファイアボールと同様のものを手のひらに造り上げた。
自らが発動した魔法に戸惑いつつもオルトリーゼに倣い腕を突き出すようにファイアボールを放つ。
放たれたファイアボールはオルトリーゼの放ったもの以上のスピードで直進し巻藁に直撃すると、巻藁を吹き飛ばしつつ焼き尽くす。
「さすが玲奈ね。見ただけでその通り、いえ、それ以上にうまくやって見せるなんて」
その様子を見た風香が感想を漏らす。
続いて梢が挑戦する。
「ファイアボール!…ってあれ?」
梢の声とともに発動したファイアボールはオルトリーゼや玲奈のものとは大きく異なるものであった。
「あれって所謂『火の玉』ってやつよね?」
風香が口にしたように梢が作り出したファイアボールは怪談などに出てくる火の玉そのものであった。
しかも更に異なる特徴が一つそれは――
「青い、炎?」
そう、梢が作り出したファイアボール、もとい火の玉は青い炎を揺らめかせているのである。
「この世の中には全てを凍てつかせる冷たい炎があると言いますが…」
オルトリーゼはそこまで呟くが今口にしたことが間違っているとすぐに気づく。
それは青い火の玉が強烈な熱を放っているからだ。
「あれは『ガスの炎』ね。伊達に料理の練習をしてるってわけじゃないか」
魔法はイメージが大切であり身近なものほどイメージしやすい。梢にとって最も身近でイメージしやすい『炎』とは料理で使うガスコンロの炎であった――彼女がもしIHヒーターを使っていたらもっと別の結果が出たのかもしれないが――。
風香がそんなことを口にしている間に梢がファイアボールを放つ。
そのスピードは火の玉らしくゆっくりとしていて、ぱっと見脅威には感じられないが巻藁に着弾した瞬間その評価は一変する。
――ジュッ――
熱したフライパンに水を落としたような音とともに巻藁は一瞬にして燃え尽き、いや、蒸発した。
続いて灯の番である。
「ファイアボール!」
灯が作り出したのはオルトリーゼや玲奈と同様のファイアボールであった。
だがその挙動が決定的に異なっているのである。
腰の入っていない腕だけの力で投げる所謂女の子投げで放たれたファイアボールは、地面を何度もバウンドしつつ巻藁へと向かい着弾すると物理的に巻藁を燃やすことなく粉砕し弾き飛ばした。
「なんというか…昭和生まれのファイアボールね」
「い、一応…じゃなくてちゃんと平成生まれですよっ!!」
そんなことをつぶやいた風香に灯が食ってかかっているが灯が放ったファイアボールはまさに世界一有名な配管工が放つファイアボールであった。
「よ~っし。トリは私ね」
そう言って風香が前へと進みでる。
結論から言ってしまうと最初から最後まで風香の放ったファイアボールは他の四人とは全く異なるものであった。
「行くわよ~!ファイア~――
手を掲げファイアボールを作り出す風香。だがその名前を言い切る前に既にファイアボールは完成している。
それを素手で『ガシッ』と掴むと
――ボーーーーール!!!」
の声とともにプロ野球選手顔負けの投球フォームで思い切り投げつける。
そのスピードはプロ野球選手顔負けどころか完全に上回っており炎の威力抜きにしても絶大な威力を持っていると即断できるスピードであった。
だがそれ以上にほかの四人と決定的に違っていることがある。それは――
「…あ、外れた」
風香の放ったファイアボールは巻藁にかすりもせず後ろの闘技場の壁へと突き刺さった。
「あっれ~、外しちゃったか~。じゃあもう一球ね」
風香はそう言って再度ファイアボールを放とうとしているが後方の壁は熱により融解しイビツに歪んでいる。熱には強い作りであるためすぐに崩壊したり壁に穴が開くようなことはないものの修理の事を考えるとあまりよろしくない状況ではある。
だがオルトリーゼは度重なる非常識にあっけにとられ言葉を失い風香を止めることができなかった。
(一番常識的な玲奈様ですら魔法名のみで一度で成功。しかも威力や精度も申し分ないどころか私よりも上。梢様の火力は異常な程強力ですし灯様は物理的な威力を持っている。極めつけは風香様。制度は悪いようですがあの速さはなんですか!?しかも魔法を素手で掴むなんて聞いたこともありません!…恐らくこれが唯人様の言う『先入観を持たせない様に』した結果なのでしょうけど)
そんなことを考えているうちに風香のファイアボールが再度放たれる。
「ファイア~…ボーーール!」
二投目も一投目と同様に壁に突き刺さる。
「う~ん、おかしいな~」
そんなことをつぶやきながら風香は次々とファイアボールを投げ続ける。
――数分後――
「風香、次外したら押し出しで1点よ」
そんな声が玲奈から風香に浴びせられる。
ここまで風香は十五球、もとい十五回ファイアボールを放ったが一発も巻藁に当たることなくすべてが壁に突き刺さっていた。
玲奈の言う『押し出し』とは野球で言えば『ボール』十五球分、つまりフォアボール三回とスリーボールであり後一球ボールを出せば四連続フォアボールで押し出しとなり1点献上、ということである。
「!?」
それを聞いた風香は何かに気づいたように不機嫌そうな顔から一転、愉快そうに笑みを浮かべる。
「ふふっ、そっか~、そうよね~、ボールだからいけないのよ。そっかそっか~」
そんなことをブツブツとつぶやきながら再びファイアボールを放つ。
「ファイア~――
しかし先程までと異なる点が一つ。それは――
――ストラァァァァァァァァァイク!!!!!!」
今までと異なる魔法名を告げ放たれた火球はその形状を球形から流線型へと変貌させ炎の螺旋を纏いつつ巻藁に一瞬で着弾、貫通し先程までのファイアボールのように壁に着弾し止まる・・・ことなくそのまま闘技場の壁すらも貫通し彼方へと消え去っていった。
「「「あ…」」」
玲奈たち三人が同時に声を上げる中、当の風香は「よっし!めいちゅ~!」などとはしゃいでいる。
「…これじゃあFireBallじゃなくてFireBareね…」
玲奈が若干引き気味に呟く。
「Bare?ああ、ボーリングマシンとかの『ボール』ね。もしかしたらこれでトンネルがすぐに作れるかもね」
そんなやりとりが行われる中、オルトリーゼは表面にこそ出さないものの混乱の只中にあった。
(な、なんですかあの魔法は!?耐性を持たせた闘技場の壁を一瞬で…。なんて威力、しかも魔法を学び始めて数時間、更に無詠唱で…)
とはいえなんのリアクションも示さないわけには行かず当たり障りのないことを口にする。
「皆様、初日とは思えないほど素晴らしい成果です」
(ですがこれ以上ここを穴だらけにされてはたまりませんね)
「ですが初めて魔法を使われて自覚はないかもしれませんが疲労は溜まっているはずです。今日はもともと触れるだけの予定でしたしこれで一旦お開きと致しましょう」
オルトリーゼの言う疲労とは魔法を行使しすぎた時に起きる魔力欠乏のことである。
魔力欠乏が起きると当然魔法が使えなくなるほか、肉体的な疲労と同様に体が思うように動かせなくなる、思考力の低下、目眩などの症状が起きる。
だが風香たちにはそういった症状は見られない。ではどういうことかというと、これ以上闘技場に被害を出したくないことと、思った以上の結果に今後の方針を練り直す時間が欲しいオルトリーゼの方便である。
「え~、せっかく調子が出てきたのに~」
そんな事を言ってごねるのは風香である。
「焦っても良い結果は出ませんよ風香様。明日もまた同じように訓練致しましょう。そうして少しずつ体を慣らしてまいりましょう」
そう口にしたオルトリーゼの目が僅かに細められる。
「明日は土属性の魔法の訓練をいたしましょう。せっかくこうして大きな穴が空きましたのでこれを塞ぐことと致しましょう」
「あ、あれ?オルトリーゼもしかして怒ってる?」
オルトリーゼの言葉に含みを感じた風香がそう尋ねる。
「いえ、そんなことはございません。――ああ、言い忘れておりましたが風属性に適性のある方は土属性と相性が悪い場合が多いですので風香様にとってはやりがいのある訓練となりましょう。頑張ってくださいね」
そう言って闘技場の出口に向かい歩き始めたオルトリーゼ。
「やっぱり怒ってるよね!?確かにちょ~っとやり過ぎちゃったかな~とは思うけど…」
名指しされた風香が慌ててその背を追いかける。
こんな形で彼女たちの初体験は幕を閉じた。




