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「異」世界「常」連の「日常」奪還奮闘記  作者: ちょい悪代官
第二章 試しの森

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第32話 『記憶喪失の少年と新米冒険者』2

唯人は今まで掻き分けてきた下草が急になくなったためバランスを崩した、という芝居をしながらつんのめるようにして開けた場所へと飛び出す。


そして目の前に現れた人物たちの視線の動きから9割ほどの確信だった自らの予想が9割9分ほどまで引き上げられる。

彼らの視線は1人を除いて唯人の顔を見た後やや後方にずれたのち僅かに見開かれたのだった。


(やはりか…)


唯人がそう考察するのと同時に


「っ!?タ、タダヒトさん!?」


という声。

だが唯人は自らの名を呼んだその声を流しつつ次の反応を待つ。


「お、おめぇはあの時の!名前は…なんだったか?」


かのパーティーのリーダたる大男、マキシのその言葉により唯人の予想はようやく十割、いや九割九分九厘の確信へと至る。


「旦那、勧誘するのはいいが名前くらい聞いておけ。旦那は気に入った奴がいるとすぐパーティーに勧誘する癖にちゃんと名前を聞かない悪い癖があるからな。今日のタダヒトのときもそうだったし」


キースが何かに疲れたようにマキシに苦言を呈する。


必要な情報を十分に得た唯人は話を進めるために自分から話を振る。


「はあっ、皆、さん、っはあ、こんな、ところで、奇遇です、ね」


「おう!タダヒト!しかしおめぇとは何かと縁があるな!やっぱ俺達の――」


とそこまで言いかけたところでキースが止めに入る。


「旦那、それはまた後でな。なあタダヒト。一体何があった?」


そしてそれをミリアが更に止めに入る。


「キース!あんたも後にしな!タダヒト傷だらけじゃないか!まず治療をしてからだろ!?」


ミリアが言うように唯人の体は傷だらけであった。

その実唯人の体はところどころが鮮血に塗れ傷口付近は鮮やかな赤に、着衣の布部分をはじめ傷から遠い部分は赤黒く唯人の体を彩っていた。

これらは先ほどリュートから受け取った傷であるが、藪の中を強引に通り抜けたためにできた傷であるかのように偽装したものだ。


「僕の方は、大丈夫です。先に彼を、診てあげてください」


唯人は息を整えながらそういうと背中のリュウトを静かに地面へと下ろす。

仰向けに地面へと下ろされた意識を失った―ふりをした―リュウトを見たマキシ達は改めて驚愕に目を見開く。


「やはり間違いねぇ!あいつだ!生きてやがったたぁさすが俺が見込んだだけあるぜ!」


そういうマキシの顔にはどこかうれしそうな感情が見て取れるが浮かんだ表情は歴戦の冒険者ゆえの厳しいものが浮かんでいる。


「ああ、だがこの傷はなんだ?ここらにこんな傷を付けられるモンスターがいるか?」


傷。

目立つものはリュウトの額の左側から眉間を通り右目の下までを抉るような裂傷であるが、そのほかにも全身に無数の傷があった。

彼らはその経験から傷を見ればおおよそどのようなモンスターから受けたものか判断することができたがリュウトの体にある傷からは判断できずにいた。


しかしそれは無理もないこと。

これは唯人がリュウトにモンスターの攻撃を模してつけた傷だからである。


・

・

・

10数分前


「う~ん、こんなもんか?」


唯人は自らの魔力を指先に収束させなにやらうなっている。

その指先に集められた魔力は結晶化し肉食獣や猛禽のように鋭く湾曲し独特の怪しい輝きを放っていた。


「ごしゅ、タダヒト?それはいったい…?」


リュウトは並の人間ならば絶対に不可能なことを平然と行いながらなんでもないように試行錯誤している主に問いかける。


「さっき説明した『シナリオ』は大体理解したよな?」


「はい。わ、俺はモンスターに襲われ、辛くも逃げ切ったもののその時に受けた傷は深く、森をさまよううちに力尽きてしまう。その上受けた傷が原因なのか記憶の大半を失ってしまっており命さえも尽きようとしたところでタダヒトと出会い救われる、ですね」


「そうだ。で、これはそのモンスターだ」


「…は?」


「一応あんまり現実とかけ離れてもいけないし適当にモンスターをまねようと思ったんだけど、この辺りにはそれほど強力なモンスターいないみたいだからリュートの爪を参考にしてみた。まぁ、サイズは結構小さくなってるけどな」


「えっと、それでいったい何を…?」


「もちろん芝居に必要な特殊メイク、かな?」


「わ、わたし、痛いのはちょっと…」


「口調が素になってるぞ。大丈夫痛いのは最初だけだ」


「あ、っと、そうなのか?なら安心--


「次第に超痛くなるぞ」


--…え?」


「最後には死ぬほど痛いだろうな」


「ちょ、ちょっと待って!」


「時間もないしちゃっちゃとやるぞ。あ、抵抗してもいいぞ?むしろしろ。そのほうがリアルな傷ができるからな」


そう告げると唯人は作り出した爪でリュウトに襲い掛かる。


「い~や~~~~~~!!」


森の深部にリュウトの叫び声が響き渡る。

近づいてくる彼らに聞こえる恐れがあったが唯人は聞こえてもかまわない範囲であると判断し一言。


「その姿でその口調はちょっと困るなぁ」


そう言って爪を振り下ろした。


・

・

・


というわけで傷からモンスターを特定することは難しく、できたとしても間違っているか小型のドラゴンという鑑定結果になるだろう。


そして唯人がリュウトを傷だらけにした理由がもう一つ。

それが今目の前で行われている行為の確認のためである。


「神よ、かの者に癒しを――上級治療術/ハイ・キュアインジュリー」


マキシ達が傷についての考察をしているうちにソフィがリュウトに治癒魔法をかける。

その様子を唯人は悟られない程度に見守っていた。

リュウトの傷は端のほうから徐々に塞がっていく。それはまるで傷が治る様子を早送りで見ているような光景だ。


(この世界の、いや、とりあえずはこの魔法は、か。どうやら自己治癒能力強化タイプのようだな)


唯人がめぐった世界の中にも当然というべきか治癒魔法の類はあった。

しかしその内容は千差万別、十世界十色であった。

先ほどのソフィの魔法のように治癒力を高め自身の力で傷を治すもの。

まるで時間を巻き戻すように傷が元通り無くなるもの。

外科的手法に近く物理的に傷を無理やりつなげるもの等々数多くあるのだ。


ちなみに唯人がリュートに対して行ったような傷の移動に似た魔法もあり、人によっては治癒魔法として使用していた。

使い方としては回復力の高い味方が仲間のダメージを引き受けたり、奴隷にダメージを肩代わりさせたりなどでどちらかというと唯人のような使い方は少数派である。


そしてその治り方はそれぞれに特徴がある。この後必然的にタダヒトに対しても治療が行われる可能性が高い。

しかし、治癒魔法では治らない可能性の高い唯人の傷を魔法に合わせて自己治癒力で治さなければならないためリュウトの傷の治り方を観察している、というわけだ。


そして想定どおりタダヒトにも治癒魔法がかけられ傷はきれいさっぱりなくなった。

…と思いきやリュウトのほうは傷は塞がったものの傷跡がかなり残ってしまっている。

特に額に走る斜めの傷はかなりはっきりと残って非常に目立つ。


ソフィは何度か魔法をかけなおし完全に治そうと力を尽くすが一向に治る様子はない。


「ソフィ、とりあえずそこまでにしておけ。傷は十分塞がったんだろ?」


見かねたキースがソフィをとめる。


「でも!」


「いや、キースの言うとおりだ!ここは一旦帰るべきだな!」


鶴の一声、というには荒々しいマキシの声が響く。


「まず2人にはいろいろ聞きたいことはあるがそれはここでなくてもいいだろう!帰ってゆっくり聞けばいいことだ!治療も然り!次にこの傷を負わせたモンスターの正体がわからねぇ!いや、もしかしたらモンスターじゃないかも知れん!」


(!脳筋に見えて意外と思慮深いな)


マキシの冷静な分析に驚く唯人。

そして可能性について言及しただけとはいえ正解を導き出した彼への評価を改める。


「いずれにしろそいつがまだ近くにいる可能性もある!撤退だ!異論は認めん!」


リーダーたるマキシの決断にメンバーは素直にうなずきすぐさま撤退の準備に入る。


こうしてタダヒトとリュウト、そしてワイルド・ストームの面々は王都へと帰還するのだった。

なんか書いて見直すと蛇足満載でブラッシュアップすると文章量が七割近く減るという事態に…。


自分でストーリを忘れないくらいに少しずつがんばって進めていきます。

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