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「異」世界「常」連の「日常」奪還奮闘記  作者: ちょい悪代官
第二章 試しの森

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第29話 契約 3

光に包まれたリュートは再びその姿を変化させる。


今回は先程の様に全く違った姿になるのと違って劇的な変化はない。しかし確実に変化していく。

特に大きく変化しているのは先程唯人がどうにかしろと注文をつけていた翼と尻尾であり身体に吸い込まれるように消えていく。

そして唯人が注視していた胸の膨らみもまるで風船がしぼむかのように縮んでいき光が収まるころには男性と同様の平坦の胸部へと変化していた。


いや、変化していたのは胸部だけではない。

髪の色は赤から金髪、長さもショートから逆立つようなベリーショートへ。先に述べたように胸もなくなり鍛えた男性のような胸板へ。背部では背中に生えた翼及び尻尾はなくなっており、全身の各所に見られた鱗もなくなっている。

逆に現れたものといえば先程まで鱗のあった下腹部に頭髪と同じ色の陰毛が生えその茂みからはなかなかに立派な男性器が顔を出している。


…そう。リュートは男性へと変化していた。それも本来の彼女とは全く異なり、まだ幼さが残るものの男らしい精悍な顔つきであり共通点といえば美醜で区分するなら『美』であることくらいか。


「これで、どうでしょうご主人様?」


先程までの甲高い声から一変。まだ若いながらも男性特有の力強い声でリュートは唯人に問いかける。


「リュート…だよな?その姿はいったい?」


あまりの出来事にさしもの唯人もあっけにとられ普段の彼には見られない間の抜けた質問をしてしまう。


「これは、この姿は…先日わたしが喰らった冒険者のものです」


唯人の問いにリュートは重々しく答える。


「…なるほど、そういうことか。とりあえずこれを着ろ」


リュートの答え、そしてその様子から全てを察した唯人だが、男の裸を――女の裸もであるが――眺める趣味はないので『匠』から唯人の着ているものと同じ、『ザ・新米冒険者』というべき装備を一式取り出しリュートへ与える。

リュートは先程とは違い裸を見られても取り乱す様子はなく礼を言いつつ装備を身につけていく。

唯人はそのまま彼?が装備を身に着け終わり言葉を続けるのを待つ。


「ありがとうございました。先程の続きですが、わたし達龍族は喰らったものの力や記憶を得ることができます。通常であれば知識や技能、魔法といったものを得るにとどめますが、突き詰めればこのようにそのものの姿をとることも可能なのです。ただここまですることは特別な理由がなければほとんどありません。ここまで同調してしまうと龍としての力はかなり失われ本来の力を発揮することはかないません。そしてその割にはこの人間の知識や記憶を全て得ることもできません」


「すべて得てしまうとその人間そのものになってしまうから…か?」


「はい。その通りです。わたし自身を残しつつこのものの姿をとったこの状態ですとこのものの記憶は3割程度しか得られませんので」


「だがその姿ならば目立つこともない、か。身体能力についてはどうだ?」


「わたし本来の力と比較すればかなり落ちますがこの者の元の力を考えれば数倍単位の力は発揮できるかと」


「ふむ。それはなかなか都合のいい加減だな」


リュートの言葉に満足したようにうなずく唯人。

その様子に安心しつつも不安をぬぐいきれないリュートは思い切って唯人に尋ねる。


「ご主人様は…わたしのこの姿に忌避感を持たれないのですか?」


「…なにをだ?」


「わたしが、喰らった者の姿をとること、ご主人様にとっては同属であり同じ冒険者であるこの者を殺し、成り代わるということについて、です」


口にする事で不安感が膨れ上がる。


拒絶されたらどうしよう。

否定されたらどうしよう。

やっぱり聞かなければよかった。


そんな思いがリュートの中を渦巻くが口にしてしまった以上後戻りは利かない。


「まあ…普通は気になるだろうな」


その言葉はリュートに頭を鈍器で殴られたような衝撃を与える。

しかし、リュートがその言葉に対する感情を抱く前にそれを否定する言葉が掛けられる。


「だが友人いわく俺は『異常』なんだそうだ。だから、というわけでもないが俺は気にしていない」


そう自虐的な笑みを浮かべながら答える唯人。


「ご主人様…!」


その言葉に涙を浮かべ歓喜に咽ぶリュートに唯人は一旦笑みを潜めると真面目な調子で言葉を続ける。


「そうは言っても絶対に他の奴に知られるな。俺は異世界から来ていてこの世界の人間に対する同族意識が薄いから気にならないが他の奴らが実際どう思うかはわからないからな」


赤の他人であればそこまで気にしないかもしれないが、少なくとも仲間や家族ならばリュートを許しはしないだろう。


「はい。わかりました」


リュートとしては主人が気にしていないのなら他の人間にどう思われようと構わないが、それが主人の望みである以上従うことに異論はない。


「その話に関連してだが俺の得た情報から予想するとその冒険者とここに向かっている冒険者の中の何人かは面識がある可能性があるが出会った場合自然な会話は可能か?」


リュートが納得したようなので唯人は話を戻す。


「おそらく。ですが細部まで記憶が再現できていない以上確実とはいえません」


「そうか。やはりこのままではボロが出る可能性があるな」


「ふむ」と顎に手を当て思案するような仕草をする唯人にリュートが提案する。


「…もう少しこの者よりになれば最近の記憶を完全に近い形で得られるかもしれません」


「いや、それはやめておこう。そうすると龍としての力も更に失われ下手をすればリュートとしての記憶が失われたり体力の回復に支障が出るんじゃないか?」


「…はい、その通りです」


人に近づけば近づくほど当然力が失われる。

下手をすれば元に戻る力も失われる可能性がある以上無理をさせるわけには行かないと考えた唯人は念のために釘を刺す。


「確かに目立たない事も重要だがそれ以上にお前の持つ情報を得る事が俺の望みでもある。そのあたりの優先順位を間違えないようにしてくれ」


「はい、かしこまりました」


「よし。では俺がいつも使っている手で行くか」


再びリュートが納得したようなので話を戻す。

今思いついたように言っているが、実はかなり前の段階で唯人はこの手で行く事に決めていた。


「それはいったい…?」


何のことかわからないリュートが尋ねるが唯人はそれには答えずリュートに問う。


「まずはお前の、その冒険者の名前を教えてくれ」


その問いに対してリュートは瞬時に答える。


「わたしはリュートです」


「いや、それはわかっているが…もしかしてそいつもリュートって言うのか?」


求めていた答えと違う答えが返ってきたため奇跡的な確率で同じ名前だったのかという可能性について言及してしまう。が、そんな事はそうそうあるものではない。


「いえ、違いますがどんな姿になろうともわたしは『リュート』です。ご主人様から頂いた名をひと時たりとも失いたくありません」


その言葉からは絶対に譲る気はないという意思がひしひしと伝わってくる。


「いや、まあ気に入ってくれたのは嬉しいが…そうか。ならそのままでいいように考えてみよう」


唯人はリュートが自分のつけた名前をそこまで大切にしてくれているのに対し、自分は貰った名前を隠し別の名前を名乗っている事に妙な敗北感と共に羨ましさを感じリュートの意思を受け入れる事にする。


「ありがとうございます!」


それにより少々の軌道修正が必要になったものの、唯人の考えるこれからのシナリオの大筋は変わらない。

礼を述べるリュートに応えつつ計画を修正しこれからの行動についてリュートに説明する。


「ではまず――」


・

・

・

・

・


「――はい、ではそのように」


十数分の間、唯人とリュートは入念な打ち合わせを行っていた。そうこうしている間にも冒険者達は近づいてきておりもはやこの場所に到達するのも時間の問題と思われた。

しかし、唯人たちは逃げも隠れもする様子はなく逆に冒険者達のほうへと向かっていく。


しばらく森を進み、遠方に冒険者達の姿が確認できる(といっても目視はできないのだが)ところまで到達すると唯人はリュートへと目配せし、


「このあたりでいいか。リュート準備はいいか?」


そう確認する。


「はい、わたしはいつでも」


問われたリュートが答え、唯人に指示された体勢をとる。


「では、…行くぞ!」


そう告げると唯人は冒険者達に向かい走り出した。

読んで頂きありがとうございます。

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