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「異」世界「常」連の「日常」奪還奮闘記  作者: ちょい悪代官
第二章 試しの森

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第27話 契約 1

「さて、お体の具合はいかがですか?」


薬草を集め終えた唯人がドラゴンへと語りかける。

その声は先程まで自身へ危害を加えようとしていた者に対して向けたとは思えないほど穏やかで優しげな声であった。


「…我を、殺さぬ、のか?」


その声に困惑したのかドラゴンは疑問を投げかける。

この状況で自分を殺さないはずがない。だが唯人にはそれをする様子はない。勿論これからそうする可能性はあるのだが、本能的にそれはないと感じたという矛盾がドラゴンにそれを口にさせたのだ。


それに対して唯人はなおも穏やかに語りかける。


「殺すなんてとんでもない。最初に言ったようにあなたに危害を加えるつもりなんてありませんから」


「だが、我を、殺せば、名声や、我を素材とした武具、もしくは、それらを、売却して、金銭を、得る事も、できる、だろう?」


「そうかもしれません。ですが僕は死んだあなた(そんなもの)に興味はありません。僕が興味を持つとしたら生きているあなたです」


「っ!…ふふっ、なかなか、うれしい事を、言ってくれる」


ドラゴンなので分かり辛いが確かに驚いた表情と笑顔と呼べる表情を浮かべるドラゴン。

だが、すぐにその表情はなりを潜め僅かにさびしげな表情へと変わる。


「だが、我はもう、助からん。せめて、我を倒した、そなたに、この身を、使って欲しい」


息も絶え絶えといった様相で唯人にそう告げたドラゴンはなおも苦しそうに喘いでいる。


「仰りたい事はわかりました。ですがその傷はいったいどうしたのですか?この森にそんな傷をつけられるような存在がいるとは思えませんが」


「ああ、そのことか。正確には、わからぬが、一年ほど、前だろうか、この森の、上空で、奇妙なモンスターの、群れに、会ったのだよ」


「…ああ」


唯人はそのモンスターの群れに心当たりがあった。まだ確証はないが一年前にアーティガルド王国を襲ったというマリシスの軍勢である可能性が高い。


「そのことについて詳しく教えていただけませんか?」


「構わない、が、最後まで、話せるか、どうか…」


そう口にするドラゴンの容態は悪い。

再度注意深く傷口を見てみると傷口が侵食するようにじわじわと広がっていくのがわかる。

恐らく自然回復力と侵食が拮抗して何とか今まで持っていたものが、先程の一件で体力、魔力共に失われた事で侵食側に傾き傷を広げ始めたのだろう。


確かにこのままではまともに話を聞くこともできないと察した唯人は気乗りしないながらも一つの手段をとることにする。


「そうですか。ところで話は変わりますが先程の僕に『この身を使って欲しい』というのはもし生きながらえる事ができたとしても有効ですか?」


「…うむ。良いだろう。我、一人の、力では、もはや、助かる事は、ない。もし、生きながらえると、したなら、それは、そなたの、お陰と、いう事、だからな」


ドラゴンの了承を得ると唯人は静かに目を閉じ、


「わかりました。では……こちらにサインをお願いします」


そう言って『匠』から一枚の紙を取り出す。

そのれはいわゆる契約書であった。


「そなた、いったい、何を…。それに、これは?」


ドラゴンは唯人が空間に手を突っ込みなにやら取り出したことに驚いているが唯人はそれを無視して話を進める。


「僕、いや、俺は約束を反故にされたとしても自分で後始末すればいいから構わないんだけど、そっちに後から話が違うとか言われても困るし、契約内容はしっかり確認して同意できるならサインをしてくれ」


先の驚きを引きずり、さらに口調が代わった唯人にも驚きつつ唯人が眼前に掲げる紙へと目をやる。

そこには魔法陣の様な不思議な文様が描かれておりその下部にはサインをする場所であろう空欄が設けられている。


「ではそのコード、魔方陣みたいなものを見てくれ」


ドラゴンは言われるままに文様へと視線を戻す。


「では行くぞ。コード起動《アクティベイションコード》!」


唯人がそう叫ぶと紙に描かれた文様が光を放つと同時にドラゴンの視覚から脳へと情報が送られる。


この文様は、唯人が未来型の異世界に行った際に存在したQRコードの進化系のようなものと魔法とをミックスさせて作った唯人オリジナルの魔法である。効果としてはまさにQRコードのような物で携帯電話等を介さずに直接情報を得る事ができるという物だ。

それは通常の視覚情報ではなく脳に直接知識を詰め込まれるような異様なものでありドラゴンは思わず顔をしかめるが、すぐにそれによって得た情報で目の前の人物の正体を知り驚愕の表情へと変化する。


「そ、そなた、異世界人、だった、のか」


「そうだ。で、前提知識と契約内容は理解できたか?」


その内容とは大雑把に説明すると、

一、唯人は何度も異世界に召喚されている事、及びそれにより規格外の強さを得ている事。

一、この世界に共に来た友人達を元の世界に戻す事が最大の目的である事。

一、その目的達成のために唯人に命は勿論、肉体、知識を含む全てを捧げる事。

一、目的達成に影響の出ない範囲であればドラゴンにも一定の自由が与えられる事。


等であり、他にも細々とした免責事項などが盛り込まれ、元の世界であれば読み飛ばしたくなるほどの情報がドラゴンの脳に流れ込んだ事となる。


「う、うむ」


ドラゴンは少々驚いた物の問題なく知識を得る事ができたようだ。


「へぇ。さすがドラゴンってところか」


その様子を見た唯人が感嘆の声を上げる。


「これって普通の人間に使うとあまりの情報量に耐えられずに失神したりすることもあるんだけど問題なさそうだな。実際昨日オルトリーゼ、の事もわかるよな?彼女に元の世界とかの知識を『無理やり突っ込んだ』ら強烈な頭痛が襲ったらしいし」


ドラゴンの中にそんな物をいきなり使ったのか、という思いが僅かに浮かぶが先程得た情報を総合すれば唯人が問題ない事を計算ずくでやったのは明白だ。


「まぁ、その辺の話は置いておいて、…さて、その契約内容を得たうえでも先程の話はまだ有効かな?」


普通ならば同意などできるはずはない。はっきり言ってしまえばこの契約は隷属の契約と動議であり人間とドラゴンが交わすような契約ではない――逆ならばありえるが――。

その上契約書も相手が用意した物でありその内容に偽りがないとも限らない。だが――


「うむ、構わない。このまま、死のうと、生きながらえ、ようとも、この身は、そなたに、捧げよう」


ドラゴンは再び唯人にその身を捧げると告げた。


「…ではサインを、ってできるか?」


ドラゴンにしてみれば紙はあまりにも小さい。更には残り体力的な意味でも大丈夫かと二重の意味で唯人は問いかける。


「問題、ない」


唯人の問いに答えたドラゴンは気だるげに腕を引きずりつつ動かし指先を契約書へと向ける。


『※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※』


そして人間の耳では聞き取れないような言葉を口にし指先から魔法を発動させる。

指先がストロボのように煌くとまるで焼きついたかのように一瞬にして契約書にサインが施されていた。


「さて、これで、契約、成立、だな、いや、ですね、我が、主よ」


契約が成立し主従関係が形成されたことで敬意を示し口調を改めるドラゴン。


「ああ」


「ですが、このままでは、やはり、長くは、持たない、かと。なにか、お考えが、あるかと、思いますが」


「そうだな。本当ならば俺が回復魔法を使えればいいが生憎使えない。他の世界の強力な回復薬なんかもあるが一応アレルギー検査もしてからじゃないと万が一ってこともある。そしてその傷の浸食…。回復薬で促進される可能性がある。後は外科的手法は今回は通用しなさそう、という訳で早速契約内容を執行させてもらう」


「かしこまり、ました。我は、何を、すれば?」


「とりあえずは何もしなくていい。まずはその傷をなんとかする」


「しかし、この、傷は…」


「わかっている。ところでこんな言葉を知っているか?『お前の物は俺の物、俺の物は俺の物』、どうだ?」


「何とも、傍若、無人な、言葉、ですね。まあ、どこぞの、悪党が、言いそうな、言葉では、ありますが」


「まあ、間違っちゃいないが…な。これからするのはつまりはそういうことだ」


「どういう、ことか、わかりま、せんが、この身は、すべて、主の、もの。何も、問題、ありません」


「そうか。では、契約に従い――


唯人はそう口にしながらドラゴンにそっと触れると、


――その傷、その痛みを俺に捧げろ」


そう続けた。


「なっ!?」


ドラゴンが驚くと同時に傷が輝きだし体表を舐めるように這いながら唯人の手に吸い込まれていく。

そして傷が一つ、また一つと吸い込まれていくごとに唯人の体にも傷が刻まれる。


「主よ!いったい、何を!?」


そのあまりの光景に思わず口を開くドラゴン。

だが唯人はなんでもないように淡々と告げる。


「先程言ったようにお前の物は全て俺の物。ならばこの傷でさえも俺の物ということだ。理解したな?ならもう少しおとなしく待っていてくれ」


確かに注意深く見れば唯人に刻まれる傷はドラゴンが受けた傷に対して小さすぎる。表情を見ても苦痛を感じている様子は一切なくなおもドラゴンの傷をその身に移し続けている。

ドラゴンは自らの主となった男の所業に畏怖を抱きながらも主の命に従いその身を任せる事にしたのだった。


読んで頂きありがとうございます。

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